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魔法の剣
生まれ出た存在
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ムオルが作った世界級鬼。その1つに、ある異変が起きた。
ぴしり、ぴしりとひび割れていく大鬼。そして粉々に砕けていく鬼から、1人の青年が現れたのだ。
「テック、せん、ぱ、・・・い」
たどたどしい言葉を発するその青年は、テックの名を呼んだらしいのだった。
【テック、キジュアだ。大至急、私の所に来てくれ】
【おいおい、今は授業中だ。勇者だからって出来る事と出来ない事が】
【休んででも来い。緊急なんだ】
テックは魔物概論の講義を抜け、冒険学校のトイレから冥力の部室にやって来た。
「鬼の側に、お前が増えた」
「え、何を言ってるのか分からんです」
ムナムナヤ村の東、ムナムナヤ村とは、ほぼハザ山を通る緯線に関して対称となる位置にあるヤムナムナ村にいた世界級鬼が、消滅したらしいのだ。
「現れて3分も経たない内だから、不自然と思い観測を続けた」
テックは詳しい原理を知らないが、死神や死の女神は大鬼をモニターのような設備で常に監視している。
「すると、人がいたんだ。正確には人のカタチをした何者か、だがな」
「それが、鬼の俺?」
「そういう事になる。これも正確には、テックに限りなく近い存在という事なんだ」
そして、鬼テックと仮に名付けられたその存在は、黒界を展開して消えてしまったらしい。
「つまり、死神か杖魔だ。最低限、黒界を開くにはそれだけの力がいるという意味だから、それ以外の同等の力を持つ第三の存在、という可能性もある」
念のためヤムナムナ村を調査するように、と先にハトゥルが派遣されているらしく、テックも追うのだった。
「よう、ハトゥル」
「ふわぁ、テック先輩だぁ」
「この間、会ったばっかだろ」
「それはどこの女性とですか。人違いですぅ、ぷんぷぷん」
「いやいやいやいや、ムナムナヤ村でお前と仕事というデートだから。村人さんに勘違いさせちゃダメだから」
ヤムナムナ村の人口は50人ほどと、ムナムナヤ村よりは多い。微妙に、変な噂には気を遣わなければならないのだ?
「鬼の俺を見たか」
「先輩はいつも鬼のハートですぅ。キャッ」
「くそうぜェ、くっそうぜェからやめとけ」
鬼らしき姿はないようだが、大鬼が来ても逃げないという逞しすぎる村人に情報を求めても、鬼も獣も気にしなさすぎて当てにならない。
「テック、せ、んばい」
「あ?ハトゥルどうした」
「私は呼んでませんよぉだ」
「うぜェから」
「テッ、クせんぱいぃいい」
後頭部をしたたか殴られ、テックは危うく気を失いそうになった。
「テックせんぱ、い」
「誰だ。何者だお前」
「鬼です。物凄い魔力があります」
ハトゥルが急にしっかり話し出したのは、それほどの存在が二人の前にいるという事だ。
「村のみんな!早く、早く逃げてくれ。この間のヤツとは違う。殺されちまうぞ」
ヤムナムナの村人たちは、そう言い切らない内に鬼人に殴られるテックを見て、いよいよ逃げ出した。テックたちが来るまでは、村人に紛れていたらしく、適当な村人の服を拝借したらしい身なりをしている。
「先輩、コイツはヤバいです。私たちも逃げた方が」
「何を言ってんだ。村を潰させるわけにもいかない。今、逃げたらきっとそういう事をするんだろ、杖魔の鬼はよ」
「ダメですよ、死んじゃいますっ」
「死、死・・死」
死、という言葉に鬼人は反応し出した。そしてその言葉に答えるかのように、鬼人の手には魔法剣のようなモノが握られていたのだ。
「死」
歪んだ十字剣を思わせる奇妙な造形の剣は、斬撃を繰り出すたびに複数の黒い衝撃波を伴いテックらを襲ってきた。
「く、くそ。キジュアめ、何が俺だよ。確実にヤバい強さじゃんね」
「先輩、フォローしまぁす」
第一剣。ハトゥルのそれは、短剣ではあるが二本ある。そしてそれぞれから炎が吹き出し、炎剣の二刀流となっていた。
「あわ、この間のお怪我で上手く力が出ませぇん」
ムナムナヤ村で木に登った時の手のひらの傷、それがまだ微妙に完治していないのだ。
「耐えろ、ハトゥル。皮膚を強くするんだ」
テックも第五剣で遠方から援護するが、鬼人は素早い。
「悲」
鬼人はテックを意識してか、同じような形の紫がかった弓を取り出した。
そして、放たれた矢は黒いキツネのように地を這いながらテックを執拗に追いかけてきたのだ。
「わああ、どうすんだ。どうすんだ、これは」
「先輩ぃ、頑張ってくだぁさい」
気の抜けたハトゥルの助言を、ユーモアとでも受け取ろうという心の余裕はテックにはない。
「全力出すぞ、ハトゥル。第七剣だ」
「ええーーーー。まあ、はい」
《本気》
《聖なる契約》
テックの手には円盤、ハトゥルの魔法剣はキジュアのような柄だけの剣と、浮く刀身だ。
さらに、パワーアップしているのか、ハトゥルの第七剣は刀身が光状になっている。いわば、エネルギー・スカイ・ソードだ。
そして二人は、改めて鬼人への臨戦態勢に構えるのだった。
ぴしり、ぴしりとひび割れていく大鬼。そして粉々に砕けていく鬼から、1人の青年が現れたのだ。
「テック、せん、ぱ、・・・い」
たどたどしい言葉を発するその青年は、テックの名を呼んだらしいのだった。
【テック、キジュアだ。大至急、私の所に来てくれ】
【おいおい、今は授業中だ。勇者だからって出来る事と出来ない事が】
【休んででも来い。緊急なんだ】
テックは魔物概論の講義を抜け、冒険学校のトイレから冥力の部室にやって来た。
「鬼の側に、お前が増えた」
「え、何を言ってるのか分からんです」
ムナムナヤ村の東、ムナムナヤ村とは、ほぼハザ山を通る緯線に関して対称となる位置にあるヤムナムナ村にいた世界級鬼が、消滅したらしいのだ。
「現れて3分も経たない内だから、不自然と思い観測を続けた」
テックは詳しい原理を知らないが、死神や死の女神は大鬼をモニターのような設備で常に監視している。
「すると、人がいたんだ。正確には人のカタチをした何者か、だがな」
「それが、鬼の俺?」
「そういう事になる。これも正確には、テックに限りなく近い存在という事なんだ」
そして、鬼テックと仮に名付けられたその存在は、黒界を展開して消えてしまったらしい。
「つまり、死神か杖魔だ。最低限、黒界を開くにはそれだけの力がいるという意味だから、それ以外の同等の力を持つ第三の存在、という可能性もある」
念のためヤムナムナ村を調査するように、と先にハトゥルが派遣されているらしく、テックも追うのだった。
「よう、ハトゥル」
「ふわぁ、テック先輩だぁ」
「この間、会ったばっかだろ」
「それはどこの女性とですか。人違いですぅ、ぷんぷぷん」
「いやいやいやいや、ムナムナヤ村でお前と仕事というデートだから。村人さんに勘違いさせちゃダメだから」
ヤムナムナ村の人口は50人ほどと、ムナムナヤ村よりは多い。微妙に、変な噂には気を遣わなければならないのだ?
「鬼の俺を見たか」
「先輩はいつも鬼のハートですぅ。キャッ」
「くそうぜェ、くっそうぜェからやめとけ」
鬼らしき姿はないようだが、大鬼が来ても逃げないという逞しすぎる村人に情報を求めても、鬼も獣も気にしなさすぎて当てにならない。
「テック、せ、んばい」
「あ?ハトゥルどうした」
「私は呼んでませんよぉだ」
「うぜェから」
「テッ、クせんぱいぃいい」
後頭部をしたたか殴られ、テックは危うく気を失いそうになった。
「テックせんぱ、い」
「誰だ。何者だお前」
「鬼です。物凄い魔力があります」
ハトゥルが急にしっかり話し出したのは、それほどの存在が二人の前にいるという事だ。
「村のみんな!早く、早く逃げてくれ。この間のヤツとは違う。殺されちまうぞ」
ヤムナムナの村人たちは、そう言い切らない内に鬼人に殴られるテックを見て、いよいよ逃げ出した。テックたちが来るまでは、村人に紛れていたらしく、適当な村人の服を拝借したらしい身なりをしている。
「先輩、コイツはヤバいです。私たちも逃げた方が」
「何を言ってんだ。村を潰させるわけにもいかない。今、逃げたらきっとそういう事をするんだろ、杖魔の鬼はよ」
「ダメですよ、死んじゃいますっ」
「死、死・・死」
死、という言葉に鬼人は反応し出した。そしてその言葉に答えるかのように、鬼人の手には魔法剣のようなモノが握られていたのだ。
「死」
歪んだ十字剣を思わせる奇妙な造形の剣は、斬撃を繰り出すたびに複数の黒い衝撃波を伴いテックらを襲ってきた。
「く、くそ。キジュアめ、何が俺だよ。確実にヤバい強さじゃんね」
「先輩、フォローしまぁす」
第一剣。ハトゥルのそれは、短剣ではあるが二本ある。そしてそれぞれから炎が吹き出し、炎剣の二刀流となっていた。
「あわ、この間のお怪我で上手く力が出ませぇん」
ムナムナヤ村で木に登った時の手のひらの傷、それがまだ微妙に完治していないのだ。
「耐えろ、ハトゥル。皮膚を強くするんだ」
テックも第五剣で遠方から援護するが、鬼人は素早い。
「悲」
鬼人はテックを意識してか、同じような形の紫がかった弓を取り出した。
そして、放たれた矢は黒いキツネのように地を這いながらテックを執拗に追いかけてきたのだ。
「わああ、どうすんだ。どうすんだ、これは」
「先輩ぃ、頑張ってくだぁさい」
気の抜けたハトゥルの助言を、ユーモアとでも受け取ろうという心の余裕はテックにはない。
「全力出すぞ、ハトゥル。第七剣だ」
「ええーーーー。まあ、はい」
《本気》
《聖なる契約》
テックの手には円盤、ハトゥルの魔法剣はキジュアのような柄だけの剣と、浮く刀身だ。
さらに、パワーアップしているのか、ハトゥルの第七剣は刀身が光状になっている。いわば、エネルギー・スカイ・ソードだ。
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