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グランド・アーク
男なら
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フック合戦を制したのは、タビウンだった。
がくりと膝を付くワルガー。
「立て。男なら、死ぬまで殴り合う。俺たちは騎士になれなかった、ただのカスだ。疲れたから負けましたなんて、ナシだろ。なあ、みんな?」
囚人たちからは、拍手喝采が起きた。
「おらあ、鎧の野郎。雑魚はさっさと殺せぇ」
「勝ってる、勝ってるぞ。シャバはやっぱり甘えんぼ村だな」
「豪傑。兄貴と呼ばせてくだせい」
ワルガーは、もう一歩も動けなかった。大盗賊を名乗る男が、似たような生い立ちの鎧泥棒に負けたのだ。
「アンタを何がそこまでさせたかは、よく分からない。だがまあ、大切な人は預かるぞ」
スフィアはいつの間にか、意識を失っていた。
戦いのショックや疲れからなのだろう。そして、これ幸いとタビウンは囚人たちと共に、スフィアを連れ去ってしまうのだった。
「ワルガー=ザン。俺は大執行台でお前を待つ。負け犬のショーをまた見せてくれよな」
「ワルガー、ワルガー。あなた、大丈夫?」
目を覚ますと、ワルガーは騎士学校にいた。
トゼスト騎士学校。いつの間にか、礼拝の最中に居眠りをしていたようだ。
「タビウンは?ヤツはどこに行った」
「タビウンねえ。多分どっかにいるけど、あなた彼と知り合いなの?」
「決着を付けねェと」
「はあ?あのね、決闘は騎士の禁則でしょ。先生はもう行くから、神祈りの言葉、今日もよろしくね」
ワルガーは思い出した。我々の世界の学校でいう学年主任にあたる、元締単位役のハーメ先生だ。
そして、ワルガーが更に気付いたのは、どうやら少年時代に戻って来ていたということだ。
(どうなってる。魔法か?それとも)
「ワルガーくん。言葉はまだかね」
状況に戸惑いながらワルガーは、しぶしぶ神祈りの言葉を唱えたのだった。
「ワルガー。筆頭騎士候補生、おめでとう」
父である神聖騎士、ムクトだ。ワルガーは夢まぼろしにせよ、父に会うのは本当に久しぶりだったため、思わず目に涙が浮かんでいた。
「何してたんだよ、クソ親父・・・!」
しかしそれに反して、出た言葉は憎しみを消せないでいたのだ。
「ワルガー、どうした。言葉遣いは騎士の嗜み。いつものように父上と呼びなさい」
「お前がずっとそうしてれば、俺は、俺は」
「ワルガー、私だ。マジル」
気付くとワルガーは、マジルのチュニックを両手で掴んでいた。
「あ、あれ。やっぱり、夢、か」
「酷くうなされていた。幸い、私たちが来るのが早かった。もう少し遅ければ」
「今頃、犯罪者たちにボコボコのプリプリだったのプ」
マジルがまずやって来て、ワルガーに群がりリンチしている囚人たちを蹴り飛ばしている間に、スプスーが来たのだという。
「すまねえ。姫さん、守れなかった」
「構わない。ただ、説明は頼む」
「大執行台、プリか」
「きっと、このまま進んでいけばあるだろう。確か、タビウンは奥に向かったからな」
「なら行こう。仲間を失う前に」
仲間、という言葉が口を突いた事に、マジル自身が驚いていた。
暗殺の仕事では、単独行動は絶対のルール。裏切りや寝返りが当たり前の世界で、複数で行動するのは「私を売ってください」と宣言するようなものだったのだ。
「マジル。・・・ああ、そうだな」
「出発進行プリッ」
ダランは別行動を続けていた。
流石に牢獄の外はまだ静かだが、いずれは結託した犯罪者たちが外に逃げ出すのに遭遇する、というのは有り得る話だ。
ダランはただ、静かに走り続けた。
長牢獄外周、その南東の端に向かって、ダランはひたすら走っていた。
長牢獄の見取り図などないので、建物中央にある入り口からどちらに回れば良いのか、表口が複数あるのか裏口があるのかすら、彼には分かっていない。
すると、魔物が飛び出してきた。
「こ、コイツは。凶悪な猫足牛」
ドッファローは見た目には愛くるしい短足の牛だ。しかしその見た目とは裏腹に、強烈な突進や突き上げ、そして蹴りなどを繰り出す〈力業の暴れ牛〉の別名を頂戴するほどの強敵なのだ。
「眠飛竜」
そんなドッファローだが、聴覚が比較的弱いという特長が知られている。
そこでダランは翼竜槍を抱えて音も立てずに跳躍し、空からドッファローを貫いたのだ。
「悪く思うな。急ぎなのでね」
スフィアは目を覚ました。
デジャヴ。スフィアには前にも似たような事があった気がするが、それを思い出せないでいた。
「麗しの少女よ。お目覚めかい」
タビウンだ。記憶を無くしてからの事なら、スフィアにもはっきり思い出す事が出来た。
「今にあなたは後悔します。みんなが、助けてくれるから」
スフィアには確信があった。記憶をなくしてからの短い付き合いの中でも、ワルガーたちは強く優しい、信頼に足る仲間なのだという事を。
そして、ダラン。賞金首であるというだけで疑った事を、むしろ彼女は恥じているのだった。
「後悔するのは、どっちかな」
しかし、スフィアは気付いた。どこからか手に入れたロープで、またしてもスフィアは手足の自由を完全に奪われていたのだった。
がくりと膝を付くワルガー。
「立て。男なら、死ぬまで殴り合う。俺たちは騎士になれなかった、ただのカスだ。疲れたから負けましたなんて、ナシだろ。なあ、みんな?」
囚人たちからは、拍手喝采が起きた。
「おらあ、鎧の野郎。雑魚はさっさと殺せぇ」
「勝ってる、勝ってるぞ。シャバはやっぱり甘えんぼ村だな」
「豪傑。兄貴と呼ばせてくだせい」
ワルガーは、もう一歩も動けなかった。大盗賊を名乗る男が、似たような生い立ちの鎧泥棒に負けたのだ。
「アンタを何がそこまでさせたかは、よく分からない。だがまあ、大切な人は預かるぞ」
スフィアはいつの間にか、意識を失っていた。
戦いのショックや疲れからなのだろう。そして、これ幸いとタビウンは囚人たちと共に、スフィアを連れ去ってしまうのだった。
「ワルガー=ザン。俺は大執行台でお前を待つ。負け犬のショーをまた見せてくれよな」
「ワルガー、ワルガー。あなた、大丈夫?」
目を覚ますと、ワルガーは騎士学校にいた。
トゼスト騎士学校。いつの間にか、礼拝の最中に居眠りをしていたようだ。
「タビウンは?ヤツはどこに行った」
「タビウンねえ。多分どっかにいるけど、あなた彼と知り合いなの?」
「決着を付けねェと」
「はあ?あのね、決闘は騎士の禁則でしょ。先生はもう行くから、神祈りの言葉、今日もよろしくね」
ワルガーは思い出した。我々の世界の学校でいう学年主任にあたる、元締単位役のハーメ先生だ。
そして、ワルガーが更に気付いたのは、どうやら少年時代に戻って来ていたということだ。
(どうなってる。魔法か?それとも)
「ワルガーくん。言葉はまだかね」
状況に戸惑いながらワルガーは、しぶしぶ神祈りの言葉を唱えたのだった。
「ワルガー。筆頭騎士候補生、おめでとう」
父である神聖騎士、ムクトだ。ワルガーは夢まぼろしにせよ、父に会うのは本当に久しぶりだったため、思わず目に涙が浮かんでいた。
「何してたんだよ、クソ親父・・・!」
しかしそれに反して、出た言葉は憎しみを消せないでいたのだ。
「ワルガー、どうした。言葉遣いは騎士の嗜み。いつものように父上と呼びなさい」
「お前がずっとそうしてれば、俺は、俺は」
「ワルガー、私だ。マジル」
気付くとワルガーは、マジルのチュニックを両手で掴んでいた。
「あ、あれ。やっぱり、夢、か」
「酷くうなされていた。幸い、私たちが来るのが早かった。もう少し遅ければ」
「今頃、犯罪者たちにボコボコのプリプリだったのプ」
マジルがまずやって来て、ワルガーに群がりリンチしている囚人たちを蹴り飛ばしている間に、スプスーが来たのだという。
「すまねえ。姫さん、守れなかった」
「構わない。ただ、説明は頼む」
「大執行台、プリか」
「きっと、このまま進んでいけばあるだろう。確か、タビウンは奥に向かったからな」
「なら行こう。仲間を失う前に」
仲間、という言葉が口を突いた事に、マジル自身が驚いていた。
暗殺の仕事では、単独行動は絶対のルール。裏切りや寝返りが当たり前の世界で、複数で行動するのは「私を売ってください」と宣言するようなものだったのだ。
「マジル。・・・ああ、そうだな」
「出発進行プリッ」
ダランは別行動を続けていた。
流石に牢獄の外はまだ静かだが、いずれは結託した犯罪者たちが外に逃げ出すのに遭遇する、というのは有り得る話だ。
ダランはただ、静かに走り続けた。
長牢獄外周、その南東の端に向かって、ダランはひたすら走っていた。
長牢獄の見取り図などないので、建物中央にある入り口からどちらに回れば良いのか、表口が複数あるのか裏口があるのかすら、彼には分かっていない。
すると、魔物が飛び出してきた。
「こ、コイツは。凶悪な猫足牛」
ドッファローは見た目には愛くるしい短足の牛だ。しかしその見た目とは裏腹に、強烈な突進や突き上げ、そして蹴りなどを繰り出す〈力業の暴れ牛〉の別名を頂戴するほどの強敵なのだ。
「眠飛竜」
そんなドッファローだが、聴覚が比較的弱いという特長が知られている。
そこでダランは翼竜槍を抱えて音も立てずに跳躍し、空からドッファローを貫いたのだ。
「悪く思うな。急ぎなのでね」
スフィアは目を覚ました。
デジャヴ。スフィアには前にも似たような事があった気がするが、それを思い出せないでいた。
「麗しの少女よ。お目覚めかい」
タビウンだ。記憶を無くしてからの事なら、スフィアにもはっきり思い出す事が出来た。
「今にあなたは後悔します。みんなが、助けてくれるから」
スフィアには確信があった。記憶をなくしてからの短い付き合いの中でも、ワルガーたちは強く優しい、信頼に足る仲間なのだという事を。
そして、ダラン。賞金首であるというだけで疑った事を、むしろ彼女は恥じているのだった。
「後悔するのは、どっちかな」
しかし、スフィアは気付いた。どこからか手に入れたロープで、またしてもスフィアは手足の自由を完全に奪われていたのだった。
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