マテリアー

永井 彰

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魔法の剣

賢者刀

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 至高の島への旅行は、テック、ショーン、アナの3人は参加した。
 他にも、怪我が治ったガーンダムやラーモなどの模擬戦上位陣は、やはり参加した。

 至高の島は毎年、マースドント冒険学校1年生の旅行先として定番だ。

「テック、見えてきたね。あれが至高の島だよ」

 ショーンはわくわくしながら、テックに語りかけた。

 至高の島。一体全体、何が至高なのか。

 そんな事に思いを馳せながら、テックは参加した1年と数名の教師を載せたクルーザーに揺られていた。

「賢者刀みたいな遺物、俺も見つけてぇな」


 テックたち1年を受け持つ教師の中には、テックが転入試験を受けた時の面接官もいた。

 スガン=カーソム。
 黒ぶち眼鏡の人とテックが密かに読んでいる、面接官だった教師の名だ。そして、テックが大の苦手とする薬草学を専門としているのがスガンなのだ。

「テックさん。ラフェンズ島にはカート反応を示す薬草があります。カート反応を示す薬草、覚えてますね」
「えっ、カート反応ってまず何でしたっけ」
「授業中に、中間試験には必ず出すと言いましたよ私は。カート反応は、トリクン試薬を何色から何色に変える反応でしたか」
「トリクン試薬。トリクン試薬だから、黄色から黒色ですか」
「それはハイパール試薬です」

 スガンとしては良かれと思い、テックに本当に薬草学を得意になってほしくて色々と言うのだ。しかしテックには逆効果のようで、スガン自体をも苦手としてしまっていた。

「ははは。まあ、俺は大器晩成なんでって言うのは」
「晩成にも勉強は必須です。小さな幸せを学問で培い、大きな幸せを人生で手にする。それが人の道なのですから」
「そ、それは、そうですよ、ね」

 苦手な人にテックはついつい、態度にまで出してしまう所があるのだ。

 気まずい雰囲気の中、一行は至高の島に到着した。
 ノジアやメルマドがあるフェセナ大陸ならば、ノジアからの船旅が最も理に適っている。単に、地理的にノジアに最も近いからだ。ノジア最大の港であるティンフシー港からだと、大体1時間もかからない。

 スガンが言うラフェンズ島は、至高の島の旧称だ。十三傑テトンテスの功績により今では至高の島と改称されたが、古くから知る人々は今でもラフェンズ島と呼ぶ場合も少なくないのである。


「着いたね、テック」
「寄り道してはぐれちゃダメよ、ショーン」
「そ、それはテックだよ」
「バカ言え。俺は方向音痴なだけだ」
「余計にタチが悪いわね」

 船着き場の近くには、賢者刀を握るテトンテスの像が立てられている。いかにも強い戦士という、角ばっていて、いかつい感じの顔つきのようだ。
 また、賢者刀は刀とはいうが、日本刀のようなシャープなフォルムではなく、三日月刀と呼ばれる曲刀に近い。

「動き出して戦ってほしいな」
「確実に死ぬわね、そんなの」
「テックは戦いマニアだから」
「マニアじゃない。戦士なんだよ」
「はいはい、進むわよ。自由時間じゃないんだから」

 賢者刀に手を伸ばして怒られているガーンダムを尻目に、一行は宿に向けて歩き出した。


 賢者刀はテトンテスが見つけたとされるが、その場所は正確には明らかになっていない。至高の島の西部という、漠然とした情報が公式の発表であるから、その秘匿っぷりは並大抵ではない。
 そして、その神秘性ゆえ、至高の島の西側にはいつもたくさんの冒険者で溢れ返っている。観光収入と輸入だけでやっていけるほど、至高の島の住民は生活様式が変わったのだ。
 人によっては、俗っぽく賢者刀改革と呼ぶ者もいるそうした変化は、しかし多くの住民には好意的に受け止められている。
 それはかつて、ラフェンズ島だった頃は未開の地という性質が強く、獣や盗賊による被害が多くて非常に住みにくかったからだと言われている。

 テトンテスは、賢者刀の所有および使用が認められているらしい。
 遺物で戦うなど禁則的な感じがするが、世界中央府が認めているという噂が本当ならば、テトンテスがそれだけの才能を持つという事なのかもしれない。

 一方、島民の増加は断続的な紛争をもたらしているという話も実はある。
 原因には諸説あるが、有力とされているのは、先住民と転入者との間の宗教の違いがあるというものだ。
 島独自のサカ教は、厳しい掟がある事で有名だ。しかし転入者の大半の出身であるフェセナ大陸には精霊正教会の影響が強く、博愛主義の精霊思想がある。
 博愛は厳格と、時に相容れないというのはなんとなく頷けてしまうのが、悲しい現実だ。

「宿の人は精霊主義らしいから、ほっとするよね」
「まあ、声を大にしてはいけないけど、そう、ね」
「俺、どっちかと言えばストイックだから、戦が起きたらお前らの敵だな」
「それは極端だよ、テック。戦までは望まないボクたちみたいなヤツもいるからさ」
「なんとなく毒がないか?その言い草」
「やめましょう二人とも。友情を壊しに、ここに来たんじゃないのよ」

 仲良し3人組ですら、こうした価値観の違いは悩みの種だ。
 そんな複雑な余韻を残しながら、一行は宿に着いたのだった。
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