マテリアー

永井 彰

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魔法の剣

クラン

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 マースドント冒険学校では、転入生は珍しい事ではない。

 他の学校と比べてなので珍しいのも確かなのだが、毎年のように冒険者に進路を変える若者は出てくるという事実が、冒険学校を自由な校風にするのに一役買っているのだろう。


 挨拶をどうしたものかと散々考えたテックであったが、特にそうした時間は設けられなかった。いじめではなく、単に転入生を特別扱いしないという学校の方針だ。

 ただ、転入早々、不穏な噂を耳にした。

「マテリアーって知ってるか」
「ああ、歴史で習ったような。大河革命で有名な国だろ?」

 大河革命。マテリアー王国が中世に成した宗教革命だ。神の否定が最初に成功した国として、世界中の歴史の教科書に載っている。
 今では、国家宗教として無宗教を掲げる信仰中立国となっているはずだ、とテックは心の中で会話に答えた。

「崩壊したらしいぞ」
「マジかよ、マテリアーってかなり凄い王国だぞ。世界終わってんな」

 軽い会話に聞こえるかもしれない。しかし、近年現れたという魔王なる存在によって、魔物の凶暴化や魔王教団なる狂人たちの台頭は以前から言われていた事だ。

 それに対する、人間側の頼みの綱、最高治安当局を担う世界中央府の回答は新聞や雑誌を通してなお「善処する」の一点ばり。
 何も知らない純粋な子どもならともかく、建前にもなってない〈善処〉という言葉の本質を知るに付け、未来に希望が持てない、無気力な若者が増えるのは当然の経緯と言えるのだった。

「転入生くん、キミはどう思う?やっぱり張り切って救援とか志願する系かな」
「いや、俺、冒険したいんで」

 テックは適当に同級生たちと話を合わせた。

 総勢1300名近くの学生が一同に介す、新たな学び舎。六年制、つまり6年間通う事で卒業するシステムだ。
 今、テックは冒険学校では1年生である。

 そこまで多くの同年代と共に過ごした事がないテックには、まだ友人の見つけ方すら分からない。話を合わせるしかないのも、無理はないのだ。


 取り敢えずと気を取り直し、テックは目ぼしい校内活動を知るために、事務室通いを始めた。

「転校くんの割には、頑張るねえ」

 事務員のおばさんに顔を覚えられるという微妙な展開もあったが、大体の学校活動を知る事が出来たのだった。
 その中でも、クランという集まりが気になった。

「今からでも、クランって入れますか」
「転校くん。クランの資料、よく読んでね。クランは外部の冒険者会ギルドが主催しているの。クランへの登録も、そこでお願い」


 クランは、ギルドと呼ばれる冒険者にとっての仕事斡旋所にある、コミュニティだ。
 冒険者同士が旅の仲間として行動を共にする状態をパーティーと言うのに対して、クランは情報やアイテムの交換や売買を主な目的としている。

 ギルドは、公的機関だ。

 よって、そこが催しているクランもまた公共のシステムである。つまり、国家が認めているのだ。

 これから冒険者を目指すテックにはお金が絡む事までは縁がないだろう。ベテランの胸を借り、冒険者としてのノウハウを学ぶ。
 そういった事を期待し、テックはクランへの参加を決意した。


 ギルドは、ノジアの中でもハード区と呼ばれる区画にある。港も抱えるため、カトラ海に面した南西部が、ノジアの首都ティンフシーがあるハード区だ。

 そして、ティンフシーにある冒険学校とは対称的に、ギルドはハード区の中でも比較的閑静な人工林の町サラにある。


「クランへの参加を申し込みたいんですけど」

 くだけた敬語で、テックは受付の案内係に尋ねた。案内係である金髪盛り髪の若い女は、特に嫌な顔も見せず、営業スマイルでてきぱきと、書くべき書類など必要事項を説明した。

「それでは、身分証明となる物をお願い出来ますでしょうか」

 馬車の免許はなく、保険証くらいしかなかったけれども、母印の捺印と署名でなんとか事なきを得たのだった。

 クランの参加には、手数料など幾らかのお金が必要だ。だが、仕送りに余裕があるテックは、思いきって支払った。
 登録は無事に完了。後は、どのクランに参加するかである。


 ノジアのクランには3種類ある。

 暁鴉ぎょくあ、ルシ、月下零げっかれいの3つだ。

 学校の部活のようにしばらく仮参加して、最終決定する事が出来る良心的な仕組みがあるため、その仰仰しい名前に反し、通う手間さえあればクラン決めは苦痛な作業にはなりにくい。


「どこも親切な人がいっぱいいて悩むぞ、これは」

 実際、テックがクランを決めるのには、一般的な仮参加期間である1ヶ月をまるまる使いきってからであった。


 テックが入ったのは、暁鴉のクランだ。
 理由は特にないが、強いて言うなら雰囲気の良さだ。気の合いそうな冒険者が比較的多く、活動への参加意欲を保てそうというのがなくはない。しかし最終的には時間がなく、なんとなくで決めたテックなのだった。

「ヤン=キートンだ。よろしく」

 暁鴉のベテラン冒険者の1人だ。
 新人の参加者には、専任のアシスト冒険者が講師を兼ねて担当するのだ。
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