天狐の茶房と魂の導き手

あいま

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夕暮れ時の出会い

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 夕暮れ時の坂道を登りきると、オレンジ色の光がすべてを覆いつくすように目に焼き付いてくる。

 私は眩しくて目を細めた。

 その光の先に誰かがいるようだった。何度か瞬きを繰り返してうっすらと開いた視線をその誰かに向ける。

 そこには黒いショートの髪にひょろりと背が高く、見覚えのある黒い詰襟の制服を着ている人が立っていた。

 なぜか私は直感的にその人物を兄だと思った。

 オレンジ色の光が差す兄に向かって私は走る。

「お兄ちゃん!」

「っ?!」

 体全体でぶつかるように兄にしがみつく。くぐもった苦しそうな声が頭上から聞こえた気がしたが私はそれどころではない。

「お兄ちゃん! お兄ちゃん!! お兄ちゃん!!!」

 逃げようとする兄を私は力いっぱい逃がさないように羽交い絞めにする。

 ここで逃がしてしまえば、兄が消えてしまうと思ったからだ。

 黒い制服に顔を押し付けながら、うーうーと奇声を発する私から兄は逃げることをやめたのか抵抗する力がなくなる。

 兄が亡くなったのは夢で、兄は生きていたのだ。

 兄に再び会えた喜びと睡眠不足の頭の中はぐちゃぐちゃで、頭上からの会話を理解するまでに時間がかかった。

「ぬしの妹か?」

「違います」

「ぬしの子か?」

「あきらかに年齢が合わないでしょう。僕は高校生ですよ。それに聞くならせめて恋人かと思いますけどね」

「恋人なんぞおらんじゃろ」

「それはどういう意味として解釈しましょうかね」

 彼らのやりとりを聞いていると、兄だと思った人物は兄とは違う話し方をしている。

 どうやら私は勘違いをしてしまったのだと気づいた。

 知らない人を兄呼ばわりしてしまい、なんとも居たたまれない気持ちになる。

 しばらくすると二人の会話が終わったのか、私をじっと見つめてくる二つの視線を頭上に感じた。

 いまだに私の両手は黒い制服の人の胴体にしがみつくように巻き付いている。

 私はどうにもそのままでいることもできず、巻き付けていた腕を外し鼻をすすりながら彼らを見上げた。

 やはり兄だと思っていた人は、兄ではなかった。

 落胆する私に、困った表情で視線を寄こしてくる兄と同じ制服を着た男の人と、その隣には愉快そうに口の端をあげている和風姿の男の人がいた。

 兄だと思っていた人は、よくよく見てみれば雰囲気も顔も何もかもが違う。唯一兄と同じなのは制服くらいだった。

「あの、すみません。勘違いで……大変なご迷惑をぉぉぉ……?!!」

 私の涙と鼻水で汚れた制服を見た瞬間、私の顔色は青を通り越して土気色に変色していたことだろう。

「……」

 なんとも奇妙な静寂が三人の間に漂った気がした。
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