悪役令息の三下取り巻きに転生したけれど、チートがすごすぎて三下になりきれませんでした

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BL効果上昇ってなに?(マーチャント)

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 クウくんをガゼボの長椅子に置いてから、俺はモラハ様と鍛錬を始めることになった。もちろんガゼボには件のヨワ嬢がおり、花々が咲き誇る庭園の景色を楽しんでいるようだった。
 しかしここで問題が起きた。

「ん? 今日は縄をつけないのか?」
「え? だってヨワ嬢がいらっしゃいますし、見てますよ?」
「別にいいよ。いつも通りで」

 よくねぇよ。もっと女の子の前では格好つけろよな。

「じゃないと、俺は動かない」

 はぁ?! なんなんだこいつは! 『デュアルコントール』というスキルをオンにしているのに全然俺の言うこと聞かねぇじゃん。

 モラハ様のスキル鑑定ってできるのかな。ジョブ。俺のジョブ。鑑定、鑑定。

 マーチャントというジョブが商人系のスキルがあるようだ。鑑定もその中のひとつにあった。マーチャントは取引・交渉系スキルや収集、資源管理・調達系スキル、商売・物流系スキルなどで埋め尽くされており、ジョブ展開していくだけでひと財産築けるのだろうなということがわかる。

 俺貴族やらなくても生きていけるわ。貴族のツテを使ったらさらに大儲けできそうな予感がする。

 モラハ様を一瞥してそっとため息をついた。

 命さえ繋がっていなければ、貴族なんてやめて冒険者や開拓者にでもなっていたところだが逃げることもできないのだ。

「ジョブ変更:マーチャント」
「何言っているんだ?」
『さぁ、何をお探しですかな? モラハ様』
「縄だろ。縄。早く縄を用意しろ」

 痺れを切らしたようにモラハ様は俺に近づいてくる。

『もちろん、ございますとも。こちらでよろしいでしょうか?』

 ただの縄を大げさなほど高級感あふれる織物のように見せつける俺にモラハ様は若干引き気味で頷いた。

「そうだよ。早くつけろ」

 俺はマーチャントがどんな変なキャラかと思っていたが、賢者やネクロマンサーほどおかしくなくて安心した。まぁ、商人だしな。

 多種多様な相手と商売するためか、親しみやすく見せることができるジョブなのだろう。
 モラハ様の縄を結んでいる最中に鑑定スキルを発動。

 <ステータス>
 名前:モラハ・ラスゴイ
 年齢:10歳
 レベル:3
 HP:15/15
 MP:12/12
 攻撃力:10
 防御力:13
 速度:2
 抵抗力:50
 スキル:『HP持続回復』『ドロップ率上昇』
 称号:「ドコニ・デモイルと命を繋ぐ者(祝福)」
 恩恵:創世の女神の贈り物「デバフ無効」「BL効果上昇」

 ぶふぉっ、なんじゃこりゃ! レベル表記があるじゃねーか!

 いろいろと突っ込みどころが多すぎるがひとつずつ見ていこう。

 まずは、ステータスだ。俺よりも微妙に高い。しかも、スキルが優秀すぎる。なんなの? 『HP持続回復』『ドロップ率上昇』って、悪役に勇者の役目でもあるわけ?

 しかも、デバフ無効。アホなの? ひとつずつ取得している俺にこそくれよ! だから俺の『デュアルコントロール』のスキル効果がなかったのだろう。洗脳と喜んでいたぶっ壊れスキルはモラハ様に適用しないという残念な結果だった。

 ……っていうかさ、もうひとつの恩恵だけど! なんていうかさ、女神様。女神様よ。貴腐人だというのは知っていたが悪役とはいえ登場人物の恩恵に入れる意味ある? 可哀そうなんだけど?!

 BL効果上昇……ね。

 俺の恩恵になぜか女難が入っていることといい、モラハ様にBL効果上昇が入っていることといい、何を期待しているんだか。

 あ、そうか。彼女は楽しみたいだけだった。俺が嫌がることすら喜んで眺めているんだろうな。あのクソ女神。

 一応、スキルの効果を確認する。

 BL効果上昇:好意を持つ男性への好感度が上がりやすい

 好意を持つ? キュンとしちゃった相手ってことか? しかも好感度って……恋愛ゲームかよ。

 ふはは、いいだろう。女神様がそのつもりなら、俺にも考えがある。女の子を侍らしてハーレムを作ってやるぜ! 主人公は平凡顔が多いのにモテている! だから、需要はあるはずだ。たぶん。

 俺はお互いの縄を縛ったあと、モラハ様に視線を向ける。縛っていた手元をみていたのか、モラハ様と視線があった。

「……」

 モラハ様は一気に眉を寄せて嫌そうな顔をした。好意どころか好感すら持たれてないらしい。側近候補としてはどうかと思うが、ずっとこの調子だしな。シキが送り込む人形除けとでも思っているんだろう。

 まだ10歳だし恩恵のことは、そこまで真剣に考えなくてもよさそうだ。

 そう考えていると、芝生に大きな影ができ、周囲に暴風のような荒々しい風が吹き木々や花々を散らしていった。
 突如としてドラゴンが空中から滑空してきた。

 バサッと大きな羽ばたく音がしたと思ったら、モラハ様と俺を結んだ縄をものすごい力で引っ張り上げられる。

「ぐえっ!」

 見る間に地上が遠退き、ラスゴイ公爵家の邸がどんどん小さくなっていく。
 シキが慌ててガゼボから飛び出てくる様子が見えた。すぐに騎士たちが駆けつけ指示をだしている。こんな空飛んでいるやつの追跡をしようだなんて本気か?

 クウくんはまだガゼボで昏倒しているのか姿は見えない。
 表情までは認識できないがヨワ嬢が大きく手を振っているのが見えた。さらに上昇したためそれどころではなくなってしまったが。

「モラハ様、大丈夫ですか?」

 俺たちは背中合わせで縄からぶら下がっている状態だ。
 ドラゴンはモラハ様と俺を繋ぐ縄をつかんでどこかへと向かっているようだ。なにか目的でもあるのかもしれないが、わざわざ公爵家にいる人間を襲う理由がわからない。

「大丈夫なように見えるのか?!」
「いえ、案外冷静だなと思いまして、ドラゴンに攫われた経験がおありなのかと」
「あるわけないだろうが!」

 暴れだしたので縄がしなった。お前デブだって忘れたのか? 慌てて俺にしがみついてきやがった。重い。

「ですよね。あったら、生きて帰ってこれないですよね」
「不吉なこというな!」
「だって、ここから落っこちたら命はないと思いませんか?」

 下を見ればどこまでも続いているような深い森が広がっている。落ちればもれなくモザイクがかかる状態になるだろう。

「うぅっ……」

 モラハ様が泣き出してしまった。いじめすぎただろうか。いや、いじめたつもりはないし、泣かせるつもりもなかったんだけど。

「モラハ様、俺にしっかりつかまっていてください」

 がっちりと背中にしがみついているが、振り落とされないように掴んでいてほしい。お前が落ちたら俺の命も消えるんだからな。
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