悪役令息の三下取り巻きに転生したけれど、チートがすごすぎて三下になりきれませんでした

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空気を読む姉、空気を読まないメイド

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 執事やメイドたちと俺はクウくんがくるからと到着を玄関前で待っていた。そこにはモラハ様の姿もある。部屋で休んでいればいいものをそわそわと俺のあとにくっついてきた。相当クウくんの姉君のことが気になっているのだろう。

 馬車が到着し、玄関口でメイドが頭を下げて出迎える。

「よくきたな。待っていたぞ」

 モラハ様が腰に手を当て仁王立ちで出迎える。来客を待っていたことなど俺がきてから一度もなかったんだけどな。

「お招きいただきありがとうございます」

 にこやかにクウくんはそつなく挨拶をする。

「ようこそ。キニナレ様。皆様もどうぞこちらへ」

 公爵家の執事(名前は忘れた)が皆をエントランスホールへ入るように案内をする。

 クウくんと挨拶をかわし、ぼそぼそっと話しかける。

「この間は庇ってくれてありがとう」

「気にしないで、モラハ様はすぐに手がでるんだよ。お諫めするのも僕たちの仕事になるかもしれないでしょ」

 モラハ様を諫める仕事などやりたくない。その前に人を殴るのはよくないってことわからせてやろうぜ。

「なんの話をしている。俺は鍛錬をするところだぞ。ところでクウ・キニナレの後ろにいる淑女はどなたかな?」

 気取った物言いをするモラハ様はクウくんの姉君を意識しまくっている。さっきまでそわそわしていたモラハ様だが覚醒でもしたのだろうか。言い方が妙におっさん臭い。

「ご挨拶が申し遅れまして、大変失礼いたしました。わたくしはキニナレ伯爵家が長女ヨワですわ」

 ドレスを軽く持ち上げたヨワ嬢は、片足を後ろに引いて膝を曲げたあと頭を下げた。ご令嬢のカーテシーなど初めてみたわ。優雅でとても美しい所作だ。俺の前世の姉とは大違いだ。そういえば、姉はどうなったんだろう。まぁ、いいか。

 ヨワ嬢は弱そうな名前とは裏腹に、派手な外見をしているのでモブ中のモブであるクウくんの姉君とはまったく関係性が見いだせない。実は異母姉なのか? 顔も派手だし、ドレスの色合いも鮮やかなので彼女の隣にいると俺もクウくんも背景の一部としか認識されないと思う。

「俺はモラハ・ラスゴイだ。今日はゆっくりしていってくれ。俺たちは毎日の鍛錬があるからな。あとで見に来てもいいぞ」

 伝えるってことは、見に来いってことだろ。ヨワ嬢はクウくんと一緒に来てくれたけれど、モラハ様の鍛錬を見てもらえるかはわからん。だってそういう見学とか好きじゃない人もいるだろうからな。モラハ様のやる気は低下するだろうが、そこはもうあきらめるしかない。思い通りにいかなかったとしても来てくれただけでも感謝だ。

「モラハ様、お気遣い頂きありがとうございます。もちろん、拝見させていただきますわ」

 空気を読んでくれたのかヨワ嬢は目を輝かせて喜んでくれた。
 そこに空気を読まないメイドがひとり。

「鍛錬は神聖な場所で行います。女子供がいていい場所ではありません」

 待て、ちょっと待て。いろいろ待て。お前が言っているのはギャグか?
 俺たち10歳児。シキ、お前は女の子だろうが。もはや女子供しかいねぇーんだけど?

 しかも鍛錬している場所って、庭園だし。この間は黒服の屍で埋め尽くされていたのに、そこが神聖な場所になっていたとはな。

 シキの強烈な視線からして場を和ませようとして冗談を言っているようには到底見えないし。もしや、こいつは本気で言っているのか?

 突っ込みどころしかないシキを俺は静かに窺った。

 俺に毎回するような変な攻撃はヨワ嬢にしかけていないようで、なんでもかんでもしかけるようなアホじゃなくてよかったと思う。だがしかしだ。威圧はしていないにせよ、シキの視線が強すぎる。モラハ様に友達ができないのはお前のその人を射殺しそうな視線のせいなんじゃないか?

 あ、そろそろ危険かもしれない。仕方がなく俺はシキの視線をさえぎるようにヨワ嬢とクウくんの前に立つ。

「ヨワ嬢にはガゼボで休憩してもらったらいかがでしょう?」

 俺の言葉に手を叩いて嬉しそうにヨワ嬢は声を弾ませる。

「まぁ、それは名案ですわ。わたくしはラスゴイ公爵家の庭園にあるガゼボから見渡せる花々がとても美しいとドコニ・デモイル様に教えていただき、楽しみにして参りましたの。お邪魔はいたしませんので拝見させていただければと存じますわ」

 クウくんの姉君はシキの視線にも耐えることができる奇特な人物だとわかった。俺が視線をさえぎるに至ったのは、ヨワ嬢の隣にいるクウくんの方が、口から泡を吹いて白目になっていたからだ。

 クウくんは姉君を連れてきてくれた功績により俺がガゼボに引きずっていってやろう。

「わかりました。ガゼボでおくつろぎください。お茶をご用意いたします」

 そう言ってシキはメイドの仕事をしはじめる。これからティーセットなどを準備するのだと思うが、それが普通だからな。貴族のご令嬢につっかかっていくメイドなんてシキくらいだろう。そう思っているとモラハ様が面倒くさそうに声をかけてくる。

「ドコニ、鍛錬に行くぞ」

 鍛錬に行くくらいだから、やる気はあるのだろうがモラハ様の声にやる気は感じられない。ヨワ嬢は好みじゃなかったのかな。

「あ、はい。今行きます」

 とりあえず、モラハ様を引っ張らないで走り込みができればいいや。

 クウくんを引きずりながら、俺たちは庭園へと向かった。
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