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女神様は楽しく見守る

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 女神様の言葉に喜びもせず、平坦な表情で恨めしそうに視線を送っていたからか、おもむろに土下座して女神様は謝罪をはじめた。

「地上にいた蟻のごとく矮小な存在に気づかず、命を奪ってごめんなさいなのじゃ! だがしかしじゃ! とても刺激的でスリリングでエキサイティングな旅へと、ご案内することをお約束するのじゃ!」

 何言ってんの?! この女神様! 謝罪の言葉としておかしいだろ!

 しかも、下げていた頭を速攻上げて、すぐさま嬉しそうに異世界の話へ戻しやがった。

「ちょっと待て。いろいろ待て。刺激的でスリリングでエキサイティングな世界をどうして望んでいると思った?! 転生先は一般的な普通で平凡な世界を希望します!」
「そんなバカな! ゲームや漫画やアニメを嗜んでいる者は、皆、百合とBLが大好物のはずじゃ!」
「なんつー偏見!」

 俺には姉がひとりいて、どちらも大好物だったので女神様の話には喜んで転生していたのだろうと思う。しかし、残念ながら女神様の前にいるのは一般的な常識を持つ俺だ。

「そんな、まさか、いや、しかし……」

 言葉を詰まらせる女神様は、あたふたとしながら俺の転生先をどうしようかと考えているのかもしれない。

「普通の世界に転生はできないんですか?」

 女神様が眉間にしわを寄せて横に首を振った。

「そうじゃな。無理じゃ」

 否定され普通の世界には転生できないのかと俺は絶望する。

 まじか、まじで平凡な俺が百合とBLであふれた世界に行かねばならんとは……。

「では、一般人に転生させてもらえますか?」
「う、うむ。主人公を望んでいないのでは仕方がないのぅ。しかし、ある小説がもとに創られた世界なのじゃ。だからできるだけモブに近い人物に転生させるつもりじゃが、すぐに死ぬことがないようにジョブ変更チート無限という恩恵を与えようと思う」
「え? モブでもすぐに死ぬような世界?!」

 正座していた俺は立ち上がろうとして、しびれた足がもつれて女神様の足元にすがりつく。こんな想念でできているような空間でも足がしびれるのかと不思議に思う。

「おぬしを主人公に転生させようと考えていたのじゃが、それはいやなんじゃろ?」

 そりゃそうだろう。すでに前提条件がおかしいからな。

「女神様のいう小説が、どんな物語でどんな主人公かもわからないのに、どうしてOKだすと思っているんですか」

 百合とかBLが普通にある世界で主人公にでもなってみろ。男になるのか、女になるのかわからないが、どちらにしても大変な目にあうと相場がきまっている。

「それなら大丈夫じゃ! わらわがそなたの世界で初めて読んだ本で『貴族学園らぶみーどぅー』という小説じゃ!」

 ぶふっ! くそ小説じゃねーか!!! なにが大丈夫なんだ?!

 姉が朗読していた小説を思い出して俺は断固として拒否する姿勢をみせる。

「女神様、そんな世界で生きていける気がしないので辞退させていただきます」

 無理無理、無理の無理。あかんやつや。エセ関西弁がでるくらいに無理。

「そうか、ひとりは心細いじゃろうな。よし、ここは祝福として記憶を思い出してから最初に見た者と一心同体、命が繋がるオプションをつけてやろう。これで一蓮托生、寂しい思いなどしなくて済むじゃろ」

 女神様の思考は神特有のものなのかわからないが、常軌を逸している提案に俺は痙攣と思われるほどの速度で首を横に振った。

「いや、そうじゃねぇ!!! っていうか、思い出してから最初に見たやつが年寄りだったら、どんなに強力な恩恵をもらったとしても短命じゃねぇか! おいっ! 聞いてるか?!」
「うふふふふふ、楽しく見守っておるのじゃ」
「楽しく見守るってどういう意味……っぎゃぁぁぁああ!!!」

 いきなり足元に空いた穴に俺は落下しながら、その落ちた穴からのぞく女神様の美しい顔を見た。

 とてもいい笑顔だった。
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