9 / 12
出会い
第9話 安眠の香り
しおりを挟む
夕食を終え、お風呂も借りて、今日のところはあとは寝るのみ。
ちょうど二階の客間が空いてるからと、そこをお借りすることになった。
「それじゃ、よく眠るんだよ」
「はい、おやすみなさい」
案内をしてくれたシェリーさんに挨拶をして、部屋に入る。
「…………」
ベッドに横になって目を瞑り、今日一日のことを振り返る。
……いや、とんでもないことをしてしまったな?
ぐるぐると訳が分からなくなっていた頭は、思い切り奔放に外の世界を満喫したおかげか、一人になった途端にすっかりと冷えて。
そうだ、なんで、私はあんなこと……
かえって混乱した。
寝付けずに、水でも飲もうかと一階に行くと、何故か明かりが付いている。
ソファに腰掛けて何かの本を熱心に読む夜更かしさんを見つけ、その理由が分かった。
「こんばんは、ジーンくん。何読んでるの?」
隣に座り本を覗き込もうとすると、跳ぶように部屋の端まで移動され距離を取られる。
「……適切な距離感ってものを知っとけ」
「遠くない?」
この距離ではろくに声が聞こえない。じりじりと適切な距離を探した結果、食卓に向かい合わせで座ることに落ち着いた。
「お前、女らしくはないけど、別に男らしくもないだろ。普通にか……いやこの形容詞を口にしたら負けな気がする」
「普通に?」
「……要件は?」
「ええと、ジーンくんのこと知りたいと思って」
せっかくだからと話そうとすると、明らかに嫌そうな顔をされてしまった。冒険中は仲良くなれそうだと思っていたのに、妙に刺々しい。
「ユージーン・フォスター、十一歳、好きなものは素材採取。嫌いなものは人付き合い。以上」
「全然情報を開示する気がない無難な自己紹…………っ歳下!?」
「は?」
軽くあしらわれてしまったけれど、重要で意外な新規情報がひとつ。
お返しに同じ自己紹介をする。
「改めまして、アマリ・サンチェス、十二歳です。好きなものは……」
「は!? 歳上!?」
お互いに衝撃的だったようだ。
「ジーンくんはすごく大人っぽいね?」
「お前がガキすぎるだけだろ」
「あ、人がちょっと気にしてることを!」
「気にしててそれなのかよ」
返す言葉がなかった。だからこそ少しもやっとしてしまった。
「ジーンくんてちょっと意地悪じゃない?」
「ちょっとじゃない」
「え?」
思わず嫌な言い方をしてしまうと、意外な答えがかえってきた。
「俺は普通に性格が悪い。愛想が悪いし、言葉選びが絶望的に下手だし、そもそも人間に興味がない」
「そ、そんなことないと思うけど……?」
突然妙に冷静な自虐が始まる。
「そうなんだよ。だから仲良くなろうとするな」
無表情で棚へ向かったかと思えば、取ってきた何かを手渡された。
「何これ?」
「安眠の香り。嗅いだ魔物を眠り状態にする」
透明な小瓶の中には、不思議な虹色の液体が入っていた。
「わ、綺麗だね……」
傾けるたびにキラキラと色が変わる。いかにも魔道具らしい魔道具に興味を惹かれたところで、気がつく。
「もしかして私、魔物扱いされてる?」
「ばあさんに見つかる前に寝ろよ」
「どんな魔物? ドラゴン系だと嬉しい」
「レトリドッグの幼体」
図鑑で見たことがある、可愛らしい姿で人を惑わす魔物の名前を出された。何故。
自室へ戻ってしまったジーンくんの背を見送る。
昼間に使った魔道具の図と呪文の載った本を見つけ、受け取った魔道具について調べる。
「嗅ぐと不安が落ち着き悪夢を見ずに眠れる?」
……いや、どこが性格が悪いのやら。
ちょうど二階の客間が空いてるからと、そこをお借りすることになった。
「それじゃ、よく眠るんだよ」
「はい、おやすみなさい」
案内をしてくれたシェリーさんに挨拶をして、部屋に入る。
「…………」
ベッドに横になって目を瞑り、今日一日のことを振り返る。
……いや、とんでもないことをしてしまったな?
ぐるぐると訳が分からなくなっていた頭は、思い切り奔放に外の世界を満喫したおかげか、一人になった途端にすっかりと冷えて。
そうだ、なんで、私はあんなこと……
かえって混乱した。
寝付けずに、水でも飲もうかと一階に行くと、何故か明かりが付いている。
ソファに腰掛けて何かの本を熱心に読む夜更かしさんを見つけ、その理由が分かった。
「こんばんは、ジーンくん。何読んでるの?」
隣に座り本を覗き込もうとすると、跳ぶように部屋の端まで移動され距離を取られる。
「……適切な距離感ってものを知っとけ」
「遠くない?」
この距離ではろくに声が聞こえない。じりじりと適切な距離を探した結果、食卓に向かい合わせで座ることに落ち着いた。
「お前、女らしくはないけど、別に男らしくもないだろ。普通にか……いやこの形容詞を口にしたら負けな気がする」
「普通に?」
「……要件は?」
「ええと、ジーンくんのこと知りたいと思って」
せっかくだからと話そうとすると、明らかに嫌そうな顔をされてしまった。冒険中は仲良くなれそうだと思っていたのに、妙に刺々しい。
「ユージーン・フォスター、十一歳、好きなものは素材採取。嫌いなものは人付き合い。以上」
「全然情報を開示する気がない無難な自己紹…………っ歳下!?」
「は?」
軽くあしらわれてしまったけれど、重要で意外な新規情報がひとつ。
お返しに同じ自己紹介をする。
「改めまして、アマリ・サンチェス、十二歳です。好きなものは……」
「は!? 歳上!?」
お互いに衝撃的だったようだ。
「ジーンくんはすごく大人っぽいね?」
「お前がガキすぎるだけだろ」
「あ、人がちょっと気にしてることを!」
「気にしててそれなのかよ」
返す言葉がなかった。だからこそ少しもやっとしてしまった。
「ジーンくんてちょっと意地悪じゃない?」
「ちょっとじゃない」
「え?」
思わず嫌な言い方をしてしまうと、意外な答えがかえってきた。
「俺は普通に性格が悪い。愛想が悪いし、言葉選びが絶望的に下手だし、そもそも人間に興味がない」
「そ、そんなことないと思うけど……?」
突然妙に冷静な自虐が始まる。
「そうなんだよ。だから仲良くなろうとするな」
無表情で棚へ向かったかと思えば、取ってきた何かを手渡された。
「何これ?」
「安眠の香り。嗅いだ魔物を眠り状態にする」
透明な小瓶の中には、不思議な虹色の液体が入っていた。
「わ、綺麗だね……」
傾けるたびにキラキラと色が変わる。いかにも魔道具らしい魔道具に興味を惹かれたところで、気がつく。
「もしかして私、魔物扱いされてる?」
「ばあさんに見つかる前に寝ろよ」
「どんな魔物? ドラゴン系だと嬉しい」
「レトリドッグの幼体」
図鑑で見たことがある、可愛らしい姿で人を惑わす魔物の名前を出された。何故。
自室へ戻ってしまったジーンくんの背を見送る。
昼間に使った魔道具の図と呪文の載った本を見つけ、受け取った魔道具について調べる。
「嗅ぐと不安が落ち着き悪夢を見ずに眠れる?」
……いや、どこが性格が悪いのやら。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる
兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。
五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。
あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。
夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中)
笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。
え。この人、こんな人だったの(愕然)
やだやだ、気持ち悪い。離婚一択!
※全15話。完結保証。
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。
今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
第三弾『妻の死で思い知らされました。』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。
【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?
碧桜 汐香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。
まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。
様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。
第二王子?いりませんわ。
第一王子?もっといりませんわ。
第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は?
彼女の存在意義とは?
別サイト様にも掲載しております
【完結】え、別れましょう?
水夏
恋愛
「実は他に好きな人が出来て」
「は?え?別れましょう?」
何言ってんだこいつ、とアリエットは目を瞬かせながらも。まあこちらも好きな訳では無いし都合がいいわ、と長年の婚約者(腐れ縁)だったディオルにお別れを申し出た。
ところがその出来事の裏側にはある双子が絡んでいて…?
だる絡みをしてくる美しい双子の兄妹(?)と、のんびりかつ冷静なアリエットのお話。
※毎度ですが空想であり、架空のお話です。史実に全く関係ありません。
ヨーロッパの雰囲気出してますが、別物です。
【完結】私の代わりに。〜お人形を作ってあげる事にしました。婚約者もこの子が良いでしょう?〜
BBやっこ
恋愛
黙っていろという婚約者
おとなしい娘、言うことを聞く、言われたまま動く人形が欲しい両親。
友人と思っていた令嬢達は、「貴女の後ろにいる方々の力が欲しいだけ」と私の存在を見ることはなかった。
私の勘違いだったのね。もうおとなしくしていられない。側にも居たくないから。
なら、お人形でも良いでしょう?私の魔力を注いで創ったお人形は、貴方達の望むよに動くわ。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
私はお母様の奴隷じゃありません。「出てけ」とおっしゃるなら、望み通り出ていきます【完結】
小平ニコ
ファンタジー
主人公レベッカは、幼いころから母親に冷たく当たられ、家庭内の雑務を全て押し付けられてきた。
他の姉妹たちとは明らかに違う、奴隷のような扱いを受けても、いつか母親が自分を愛してくれると信じ、出来得る限りの努力を続けてきたレベッカだったが、16歳の誕生日に突然、公爵の館に奉公に行けと命じられる。
それは『家を出て行け』と言われているのと同じであり、レベッカはショックを受ける。しかし、奉公先の人々は皆優しく、主であるハーヴィン公爵はとても美しい人で、レベッカは彼にとても気に入られる。
友達もでき、忙しいながらも幸せな毎日を送るレベッカ。そんなある日のこと、妹のキャリーがいきなり公爵の館を訪れた。……キャリーは、レベッカに支払われた給料を回収しに来たのだ。
レベッカは、金銭に対する執着などなかったが、あまりにも身勝手で悪辣なキャリーに怒り、彼女を追い返す。それをきっかけに、公爵家の人々も巻き込む形で、レベッカと実家の姉妹たちは争うことになる。
そして、姉妹たちがそれぞれ悪行の報いを受けた後。
レベッカはとうとう、母親と直接対峙するのだった……
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる