桜が啼く頃に

夢原 咲

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〜第1章〜 桜吹雪

真実と幸せの嘘

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入学式も無事終わり、初めての登校日。美桜は優奈と連絡を取っていた。

(美桜おはよー☼)

(おはよう優奈、朝からどうしたの?)

(美桜ってさ、朝何で登校してる?)

(スクールバスだけど?)

(じゃあ、送ってくよ!私毎日車で寂しいから…( ´・ω・`))

(え!悪いからいいよ~)

「お母さん、優奈が送ってってくれるって言ってるんだけどどうしよう。失礼かな」

「そんなことないんじゃないかしら、高校生同士仲良くできる機会があるならした方がいいんじゃない?少しだけどお菓子持たせるからお言葉に甘えたら?」

「分かった、ありがとうお母さん。」

(気使わないで!!私がいいならいいでしょ?ね?家どのへん?)

(じゃあ、お言葉に甘えて…〇〇町のファ〇〇ーマートで待ち合わせ出来る?)

(了解(*˘╰╯˘)ゞ待ってるよん~)

(時間は?どうしたらいい?)

(7時50分頃でちょうどいいんじゃない?)

(分かった!ありがとう。🙂)

「美桜、テーブルの上にお菓子置いとくから忘れちゃダメよ。ご飯も出来てるから顔洗っておいで。」

「わかった!ありがとう。」

今の時間は6時過ぎ、十分に時間はある。美桜はそう思って洗面台に向かい顔を洗って慣れない化粧を終わらせ、朝ごはんを食べに席についた。

「じゃあ、いただきます。」

美桜が席につくと同時に母親も席につき、一緒の朝食が始まった。

「お母さん、年々朝ごはんがレストラン化してるよね…。」

テーブルの上にある朝食を見て美桜はしみじみそう思った。

「そう?お母さん働いてる訳じゃないから料理が趣味だし、おしゃれな方が気持ちも明るくなるでしょう?」

アサイーボウルにマンゴーソースがけのヨーグルトにフランスパンのフレンチトースト。今日は洋食メインだ。

「そうだね、自慢したいぐらいだよ。」

美桜の家は朝ごはんの量が多くて夜ご飯は少なめだ。この生活スタイルが美桜のすらっとしたスタイルを作る原因かも知れない。

「あら、じゃあ自慢して頂戴。そしたら私もっと頑張るから。」

いつものようにのどかな朝食を終えて、美桜は優奈との約束のコンビニへ向かった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「美桜ーーーー!!」

コンビニに着くと、扉の前で優奈が手を振っていた。

「ごめん!待った?」

小走りで優奈の所に駆け寄ると、優奈は頭を横に振って、

「今来たばっかり」

と、はにかむ笑顔でいった。朝から眩しい…と美桜が思ったかは分からない。

「ささ、乗ろ!」

手を引かれて駐車場に行くと、今までに見たことのない車に乗せられた。深い紫色の中々大きな車だ。

「お願いします。」

車に乗ると、スーツを着こなした若い男の人が乗っていた。

「美桜様、おはようございます。お嬢様の世話係をしております中村と申します。」

その男の人はミラー越しに美桜の顔を見て一礼した。

「あっ…よろしくお願いします。」

美桜の困惑した顔を見て優奈は説明してくれた。

「私の家ね、小金持ちなの。恥ずかしいからあんまり言いたくないんだけど、お父さんがすごく心配性でね、行きと帰りは必ず中村が居るんだよね。小さい頃からなんだけど…。」

私は何故か納得していた。立ち振る舞いや言葉遣いがどこか上品だと思ったし、ふわふわとした雰囲気もそういう家庭で育ったからだと納得出来る。

「そうなんだ…なんか、納得かも。」

しみじみとした顔で美桜が頷くと優奈は焦って言い始めた。

「え!お嬢様に見える?気取って見えるかな?どうしよう美桜~私、普通でいいのに…。」

美桜優奈に言いたかったのは"育ちが良く見える"ということであって決して気取っているだとか、そういう事で言った訳では無い。

「そんなことないよ。ただ、ちょっとだけお嬢様なのかな~って感じがするだけで気取ってる感じはないよ?安心して!」

横でコロコロ表情を変える優奈を素直に可愛いと思ってもう1回押しでそんなことないと伝えようとした時、

「美桜様、お嬢様、学校に着きました。気をつけて行ってらっしゃいませ。」

自動でドアが開き、中村は優奈の方に歩いて手を貸し、その手を掴んだ優奈がふわりと、まるで重力など関係がないかのように立ち上がり、

「行ってきます 」

そう、笑った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「あの立ち方はほんとにお嬢様だ。すごい綺麗だったよ優奈~!」

「もう!恥ずかしいからからかわないでよ~。」

頬をぷくっと膨らませた優奈の姿に、美桜は最早可愛いしか感じていなかった。

「褒めてるんだよ~」

「あの!栗原さん!」

2人で話して教室につき、座って話しているとクラスメイトの1人の男子が話しかけてきた。

「なに?」

軽く首をかしげながら男子生徒を見ると、その男子は受け入れられていると思ったのか一層の笑顔で話した。

「今朝、ロールス・ロイスのファントム·エクステンデッド·ホイールベースで来てたよね?凄いなぁと思ってさ!」

その男子生徒はどうやら、優奈の車について話しているらしい。

「そうなのかな?私の車じゃもちろんないから…お父さんのなの。お父さんは車が好きだから。でも、車種まで分かるなんて車が大好きなんなんだね!杉山君は。」

ニコリと笑顔で返す優奈の笑顔はその杉山を恋に落としそうな眩しさだ。それにしてもロールス・ロイスとやらはなんなんだろう。と美桜は考えていた。

「いや、僕以外にも知ってる人は多いと思うよ。外車だし、なんせ高級車だからね。多分5000万はすると思うし。」

金額を聞いて優奈の顔が青ざめていった。

「そ、そうなんだ。お父さんったら、車にそんなにお金かけたの!知らなかったなぁ。なら、私に何か買ってくれてもいいのに、ね?美桜?」

「うん、そうだね。」

優奈がお嬢様に見られることを嫌っていることを知っている美桜は自然とそう答えた。まさか、そのとんでもない高級車に父親ではなく運転手、お世話係が乗ってるよ!なんて口が裂けても言えるわけがない。

「よっぽど車マニアなんだね。栗原さんのお父さん。びっくりしたよ、もしかしたらとんでもない大富豪かもって思ったからさ。」

「違うよ~。それに、お金持ちってもっとオーラ的なのあるでしょ」

優奈は何故、こんなにもお金持ちを隠したがるのか、私には分からなかった。

「お前ら、席につけ。」

扉を開けて入ってきたのは、キツそうな黒スーツを着こなした先生だった。

「お前らの担任の霧山匠翔(たくと)だ。何か質問はあるか?」

至ってシンプルな自己紹介に質問するような猛者はいるのだろうか…。と美桜は思っていた。

「歳はいくつですか?先生。」

質問したのはまさかの優奈だった。

「歳は28だ。お前らとは一回り違うな。」

(え、若ぁーい。当たりじゃん?)

「ちなみに、B+の青山晃大先生も同い年だ。俺と違ってかっこいいから覚えておけ。」

見た目とは裏腹に案外、話しやすい人なのかなとも思った。

「じゃあ、彼女は居ますか?」

「…。教育大時代から4年付き合っている彼女がいる。俺より2つ下だ。」

少し迷った感じもあったが、案外答えてくれた。クラスは大盛り上がりだ。

「結婚はしないんですか?」

「まだだな。まぁ、何度かプロポーズしようとは思ったがタイミングを逃してな。近々また挑戦するさ。」

キャーとかフー!とか色々な冷やかしのセリフが飛ぶが、先生には効果がないらしい。

「まぁ、これぐらいにしてクラス委員を発表する。希望とかじゃなくて基本成績順だから文句は無しだ。」

普通の高校なら差別だと騒ぐか、やりたくないと喚く人がいそうだが、この学園にはそのような人はいなかった。

「クラス委員、大滝翔夜、桜庭美桜。」

え!1·2番の順番じゃないの?!と思ったのはきっと美桜だけでは無いだろう。

「副委員長、栗原優奈。」

どうやらただの番号順ではないらしい。

「監査委員、神咲蒼梧、鈴原璃々奈。この5名が成績上位5名だ。他にも保健委員だとか整備委員とかがあるんだが、これは成績順と定められていないからこれはまたHRで決めよう。」

その後は、先生が気を使って雑談タイムにしてくれた。美桜は前の席にいる鈴原璃々奈と話すことは出来なかった。だが、優奈は隣や後ろなどわいわいと話して盛り上がっていた。美桜は優奈の話に交じる事によって少しだけコミュニケーションをとることが出来た。その後の授業も自己紹介や学校の説明で終わり、あっという間に放課後が来た。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「お前ら、今日1日お疲れ様。今日は学園長が来て下さっている。声を掛けてくれるようだからしっかり聞くように。」

霧山先生の言葉の後に入って来たのは、入学式でその場にいる全員の目を奪った若い学園長だった。相変わらず、見目麗しい容姿だ。

「A+に入学した皆さん。こんにちは。私は玉菊学園学園長の葛尾見氷夜(くずおみひょうや)です。このクラスはこの学園で最も、"表面的に頭のいい"クラスです。それはその学力を見極めたテストが国の基準を満たしただけでしかない紙切れだからです。私がこの学園で君たちに求めるのは"個性"であり、"表現する事"です。レールなど一切ない、自由な未来。あまりに大きすぎる未来に戸惑うかもしれない。だが、君たちはこの国の基準に満たないと未来を選択できない理不尽さにこの学園で最も対応できる基礎学力がある。だからこそ、最も自由に、最も個性的に活動してほしい。選択科目30種類、2年になればもっと増える。3年で卒業する義務はない。3年いれば高校、6年いれば大学卒業資格が取れる。同年代の子より、1年早く大学卒業資格が取れる。その事を忘れず、個性と独創性を身につけてほしい。…長くなってすまないね、まぁ、思いっ切り楽しめってこと!以上!」

話の後に自然と拍手が起き、学園長はそれに笑って答えた。美桜は不登校だった。だからこそ、周りに負けないように、学校に行ってる子に劣らないように必死に勉強して、学校の上位5名に選ばれた。だが、学園長の話は"学力だけが全てではない"と言ってくれた。

「学園長って凄い人なんだね。」

優奈も感心したように

「うん。そうだね。"やっぱり"すごい人なんだね…。」

と呟くように言った。その後にHRを終わらせた放課後、優奈がいきなりこんなことを言い始めた。

「ねぇ!クラス委員に選ばれた5人でお茶でも行かない?」

その声に振り返ったのは神咲蒼梧だけだった。

「賛成、仲良くしたいしね。友達作りに自信ないし…。近くにスター〇ックスあったよね。そこでどう?」


優奈はうんうんと大きく頷きながらほかの2人にも声をかけた。

「璃々奈ちゃん、翔夜くん、行かない?それとも、用事ある?」

「私は別にいいけど、どこに行くのか家に連絡しないといけないわ。」

璃々奈は美しい声でそう言った。

「俺は…お前が行くなら行く。桜庭美桜。」

名指しされた美桜は苦笑いで翔夜を見て、半ば諦めて(一緒に行こう)と口にした。各々が家に連絡して一段落ついた頃、美桜たち5人は公共交通機関を利用して目的地に到着した。

「そうだなぁ、あ!これ苺のやつ!季節限定だからみんなこれにしない?あと、何か軽く食べよっか~。アレルギーとかある?」

優奈が慣れた手つきで話を進める一方、美桜は初めて璃々奈に話しかけられた。

「ねぇ、桜庭さん。私は鈴原家の長女なんなだけど、桜庭さんはどこの家の末裔なの?私が未熟なのもあるかもしれないけど、桜庭家って聞いたことがなくて…。」

璃々奈は不思議そうでどこか冷たく、美桜にそう問いかけた。

「え、私?私は…その一般人だよ。なんてことのない一般家庭に育ったの。家柄とか、家系とか、よくわかんないけどきっと特別なものじゃないよ。」

美桜は何の嫌味も混ぜずにそう答えた。いくら、周りの人が日本屈指のお嬢様御坊ちゃんでも、美桜自身蝶よ花よと育てられた覚えはなく、お嬢様では無い。これ以外に答えようがなかった。

「嘘よ。だって、願書の中に家柄を書く欄があったじゃない。内緒にしなければいけない家系なの?」

璃々奈からのまさかの質問返しに美桜は答える術がなかった。嘘はついていない。父は生まれた時には居なかったし会ったことすらない。母からも家柄を打ち明けられるようなことは無かったし、別荘があるわけでも世話係がいる訳でもない。それに、美桜は不登校だったのだ。普通の中学生の様にただ願書を先生と一緒に書くだけではダメで、色々な手続きをこなさなければならなかった。だから願書の方は自分の名前以外は母任せだったのだ。

「ごめん。本当に分からないの。母に聞けばわかるかもしれないけど、私は分からない。ごめんなさい。」

何だか責められてる気分になって美桜の悪い癖である被害妄想が膨らみつつあった。

「もー、璃々奈!美桜のこといじめないで!家柄がそんなに大事?仲良くしようよ~。」

「でも優奈さん。貴女だって父上に何かを言われて葛尾見学園長の元に来たのでしょう?私が何も知らないとでも?この新入生の中に"桜の姫"の生まれ変わりがいると。だからこそ、私たちみたいな特殊な家柄の人間が集まっている。私は桜庭さん以外のA+の家のことを知ってるわ。だから気になるのよ。」

何を話しているのか美桜にはさっぱり分からなかった。いつの間にかテーブルに届いていた赤い苺が乗った飲み物も、何故か気持ち悪く感じた。

「私…帰るね。なんか場違いみたいだから。」

財布から1000円を取り出してテーブルに置いてまっすぐ出口まで走った。耐えられない、人の目がこちらに向く瞬間。

「…やっぱりだめだった。」

後悔と恥ずかしさがこみ上げて、目頭を熱くしながらバスに乗って美桜は家に帰った。

「璃々奈、言い過ぎ。絶対に美桜傷ついたよ。明日ちゃんと謝って。」

優奈は少しだけ怒っていた。確かに、優奈は父親に友達を選べと言われた。中学生の頃も純粋な気持ちで友達を作った訳ではなく、父親に言われた人間と仲良くなる努力をした。だけど、美桜はそんな優奈が初めて友達になりたいと望んだ人間だった。だからこそ、このように理不尽な言葉で美桜が傷つけられたことに怒っていた。

「そう?私が悪いのかしら。」

白々しく飲物を手に取り優雅に1口含んだ後、再び口を開いた。

「私達は、桜の姫を見つけ出し、その方を守護するのが務め。そのために英才教育を受けて、それぞれ家の跡継ぎになるまでに成長した。」

ほかの3人は、黙って璃々奈を見つめている。

「家は衰退の一途を辿り、我々の主である桜の姫が何百年を経て戻ってきた。その意味が分かるでしょう?」

4人とも、高校生のような雰囲気ではなく、全員がその家の代表としてその場にいた。

「今が、大切な時だ。その人が誰なのかを見極めるのに。」

そう言い放ったのは、大滝翔夜だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ただいま」

美桜が帰ったのは店を飛び出してから20分ほどの事だった。

「あら、早かったのね。お茶は楽しかった?」

何も知らない母は、楽しそうな顔で美桜の顔を伺う。

「やっぱり学校は向いてないかも…。部屋に行くね。」

目を合わせることも無く、2階の階段を登った。

「美桜様…もう少しお待ちください。あともう少しで、ご主人様の目が覚めるはずです。それまでは私が、全力で護らせていただきますので…。」

小さく呟いて俯いた母の姿を、美桜は知らない。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「はぁ」

美桜はベットに寝転がってため息をついた。ぼーっと天井を眺め、何がいけなかったのかを考えていた。

(鈴原さんは、鈴原家の跡継ぎって言ってて、私の家柄を聞かれて答えれなくて、隠さないでと言われた時の、周りの目線に耐えられなくて店を出て…。責め立てるみたいな鈴原さんの言葉や、ほかの目線が痛かったんだ。)

「でも、家柄なんて知らないし。」

もし私が生粋のお嬢様でも、あの人たちがいたら同じ結果になっただろうなと半分諦めて、手のひらで目を覆った。

「美桜…?」

扉の外から母の声が聞こえた。

「どうした?」

美桜は起き上がって扉の外の母にきいた。

「学校で何かあった?」

そう言われた時、咄嗟に答えられない自分がいて美桜は驚いた。

「別に…。ただ、何となく馴染めない気がして。」

すると母は、扉をゆっくりと開けて中まで入ってきた。美桜の座っているベットの上に同じく座る。

「美桜は…学校嫌い?」

美桜は母の顔を見た。その顔を見て、驚いた。いつも明るい母がとても辛そうな顔で俯いていたからだ。

「私は嫌いじゃないよ。いい子もいたし、担任の先生も思ったより話しやすそうな人だったし…でも、やっぱり新設校で特殊だからかな、不思議な人も多くて。」

そう言うと、まるで重い鎖を引きずるかのような苦しい表情で言った。

「美桜の事はね、誰よりも大切に大切に育てようと思っていたの。だから、中学校に行きたくないって言った時も、なら行かなきゃいいって心から思えた。でもね、高校は違う。立派に大学も出て欲しいから。そのためにはやっぱり高校を出なきゃ行けないでしょう?だから、頑張って欲しいと思ってる。それに、美桜はお父さんにも会ったことが無いし、そういうこともあって馴染めないのかなって思ったりもしたの。」

美桜は意外な母の言葉に驚いた。美桜は1度も父親に会いたいと思ったことは無い。両手から溢れ出るほどの愛を、母から貰っているからだ。父親がいない事で、寂しい思いをしたことも無い。

「お母さん私ね、自分が思ってるよりずっと、人の事が怖くなってたみたい。だから今日も逃げ出してきたの。鈴原さんっていう綺麗な子がいるんだけど、その子に家柄は?とかよくわかんない事聞かれて、それが責められてるように感じて…。でも、大丈夫。明日も学校に行くし、頑張ろうって思ってるから心配しないで。」

美桜は精一杯笑っているつもりだった。その顔が引きつったものになっていることも知らずに。

「そう。なら良かった。本当に辛くなったら言ってね。お母さん、美桜の事心配だから。それとね美桜、貴女は誰にも負けないぐらいの本当に素晴らしい人間だから、何も気にしなくて良いのよ。好きなように生きて。」

その言葉の意味を、美桜は"学校生活をのびのびと過ごして良いのよ"と受け取った。

「ありがとう。ほらお母さん!晩御飯の準備しなきゃ!!」

「そうね、下に降りましょうか。」

母が伝えたかった、"真の意味"を知らずに。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

その夜、優奈から連絡が入っていた。

(美桜~😭今日は大丈夫だった?庇ってあげられなくてごめんね…。璃々奈には言い過ぎ!って言っておいたからね!悪気があったわけじゃないと思うから、美桜も許してあげて…。明日、また待ち合わせできる??)

優奈らしい、気遣いのある温かいものだった。

(大丈夫だよ!急に飛び出してごめんね…。私も動揺しすぎちゃって鈴原さんよびっくりしたと思う…。だから気にしてないよ。明日もよろしくお願いします😊)

美桜は本当にいい友達に出会えたな、と心の底から思った。いい夢が見られるはずだ…と。

「美桜~?ちょっと降りてきてくれる~??」

下から、母が美桜を呼ぶ母の声が聞こえた。

「今降りるー!」

返事をして下に降りると、珍しく紅茶と少しのお茶菓子を出して母が座っていた。

「どうしたの?こんな遅くに。」

時計は既に12時を回っていた。

「少し、美桜に話したいことがあってね。」

不思議そうに美桜は首を傾げると、母に座るように促される。

「もうすぐ、美桜の16歳の誕生日でしょう?」

「そうだけど…?」

「少し出かけたいなと思っててね。予定、開けといて貰える?」

「どこに行くの…??」

「それはまだ内緒…。」

少し不思議な気もしたが、美桜は気にせず、1時間ほどのティータイムを楽しんで朝を迎えた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「美桜おはよう~!」

「おはよう優奈。」

昨日の朝と同様に、同じコンビニで待ち合わせをした車内。

「美桜でも、昨日はごめんね?本当に大丈夫?」

「平気、逆に驚いたよね…。ごめん。怖かったの、あんな感じで言われるのかー!って思って。」

優奈の明るい笑顔を見て美桜はどこか吹っ切れた様子だった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

…放課後

璃々奈と一言も口を交わすことなく放課後になり、早々に帰ろうとしていた時、璃々奈に声をかけられた。

「桜庭さん、少し良い?」

美桜は正直、気が重かった。母に大丈夫と伝えて優奈との楽しい学校生活を1日過ごした美桜だが話す気にはなれなかったが、断れる訳もなく…。

「うん。いいよ。」

中庭に出て誰もいなくなったような静けさだった。重い口を開かず、ただ、沈黙だけがその場にはあった。

「ごめんなさい。私らしくもなかったわ。あんな風に人を追い詰めるなんて。それに、家庭に深く入り込もうとするのはマナー違反よね。」

伏し目がちな璃々奈の態度はしおらしく、昨日の様な強い影はなかった。

「大丈夫。私は気にしてないよ。こっちこそごめんね?びっくりしたよね…。」

美桜は一言、謝ってくれればそれでよかった。美桜にとって悪意のない態度こそが最も必要なものだった。

「私が悪かったの。周りを気にせず無神経なことを言ってしまったわ。これから、クラス委員の一員として、そして桜庭さんが良ければ友人として、よろしくお願いします。」

丁寧に頭を下げて一礼する璃々奈はとても美しかった。さらさらと長い黒髪が零れ落ち、思わず掬いたくなる黒真珠のようだった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

2人で教室に戻ると優奈だけが教室に残り美桜を待っていた。

「仲直りできた??」

相変わらず眩しくて純粋な笑顔だった。

「えぇ、ありがとう栗原さん。」

「ありがと優奈!もう大丈夫!」

心無しか、美桜の心も少し軽くなった気がした。

「美桜って誕生日いつ??」

突然そう言い出したのは優奈だった。

「4月26日だけど…。」

「あら、明日じゃないの。」

呟くように璃々奈が言った。

「え!!もっと早く教えてよ~!!なんかお菓子作ってくるね!」

「別にいいよ~、申し訳ないし。」

そんな他愛もない話をしながら学校を後にした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

美桜の人生の転機まで、あと1日。











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