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EP02「異郷にて」
SCENE-006
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「何か作るの?」
「とりあえず、『賢者の石』が普通に錬成できるのか確かめるところからかな……」
幻世から現世へと流れ込む膨大な魔力から作られた『賢者の石』。
それを、錬金術――〝月女神の権能〟という大まかな括りでは、『賢者の石』を作り出したものと同種の力――によって加工できない、ということはまずないだろうけど。私の〔錬成〕や〔信仰〕のレベルが足りなくて〝今はまだその時ではない……〟と言われてしまえば、それまでの話だし。初めて扱う素材はとりあえず『魔女の大釜』に沈めて手応えを確認しておく……という手続きは、私がいつもやっていることだから。
何か手伝いたそうに様子を窺っていたカガリはいつものやつだね、と納得した様子で、手持ち無沙汰な両手を私の体に巻きつけた。
作業の邪魔ではあるけどまぁいいか、で許せるレベルのちょっかいというものを、カガリはよくわかっている。
肩に乗せられたカガリの頭の方に首を傾けてこつん、と頭同士をぶつけると。犬がじゃれつくように、カガリがうりうりと首元に顔を埋めてきて。素肌を掠める毛先の擽ったさに、思わずくすりと笑いがもれた。
「邪魔するなら離れてて」
怒っている、というには無理のある笑い混じりの声に、カガリはそれでもぴたっ、と動きを止めて。
「ミリーの邪魔なんてしないよ」
私の邪魔をするなんてとんでもない、とでも言いたげに、大真面目な声で嘯いてみせるものだから。それはそれで笑ってしまった。
私がカウンターでドーナッツを食べている間は足元にきて足置きになっていたスライムクッションをリビングの開けた場所まで転がし、その上に乗せて高さを調節した『魔女の大釜』を、立ったまま覗き込みながら。
砂のように細かな『賢者の石』が一つにまとまる様を強くイメージすると。私の魔力が『魔女の大釜』に満たした乳白色の液体はあっという間に真珠じみた光沢を帯びて。
「溶かして、固めよ」
『魔女の大釜』がぼふんっ、と吐き出した煙で、視界が白く染まる。
キッチンの換気扇に勢いよく吸い込まれていった白煙が晴れると。『魔女の大釜』の底には、深紅に輝く『賢者の石』のごろっとした塊が一つ出来上がっていた。
「どうだった?」
「大丈夫そう。手応えはびっくりするくらい軽かったけど……『賢者の石』を、他とは桁違いに魔力の密度が高い〝魔石の一種〟と考えたら、これくらいで普通な気もするし」
「混ぜやすいならよかったね」
「変に重たいよりかはね」
何かを単体で錬成するときにそれほど精密な魔力操作を求められることはないので。確かに、手応えが軽すぎて困るということはない。
『魔女の大釜』を使った〝いつものやり方〟で、他の素材を扱うときと大差なく加工できると確認できた『賢者の石』をもう一度、『魔女の大釜』を満たした乳白色の液体にぽちゃりと沈めて。今度はそれを、幻世でも度々錬成していたユージン向けの消耗品に加工する。
「Si Vis Pacem, Para Bellum――」
【銃剣士】なんて、現世での硝煙臭い職業がモロバレしそうなジョブが生えたユージンのために、幻世でいつも用意してあげていた魔法付与前提の――魔法はからっきしなユージンでも、撃って当てさえすれば付与された魔法を発動できる――弾丸に、今日は特別な付与をひとつまみ。
……どうか、この祈りがジーンの助けになりますように。
「溶かして、固めよ」
ぼふんっ、と立ちのぼった煙が晴れた後には。『魔女の大釜』の底に、深紅に輝く弾丸がいくつか転がっていた。
『魔女の大釜』から取り出した弾丸を〔鑑定〕すると、採集用の革袋一つ分の『賢者の石』から出来た都合十五個の弾丸には、一つ残らず『破門弾』というアイテム名が定義されていて。
「〔破門〕を付与した弾丸だから、破門弾。そのままね」
最後の一つの〔鑑定〕結果を、そのまま適当な晶紙に焼き付けて。商品用の紙袋に詰めた『破門弾』と一緒に置いておく。
ぐっすり眠っているのか、起きてはいるけど反応するのが面倒で動かずにいるだけなのか、傍目には見分けがつかないユージンは、頭の上までブランケットを被ってぴくりともしないまま、日が暮れるまでリビングの片隅に転がっていた。
「とりあえず、『賢者の石』が普通に錬成できるのか確かめるところからかな……」
幻世から現世へと流れ込む膨大な魔力から作られた『賢者の石』。
それを、錬金術――〝月女神の権能〟という大まかな括りでは、『賢者の石』を作り出したものと同種の力――によって加工できない、ということはまずないだろうけど。私の〔錬成〕や〔信仰〕のレベルが足りなくて〝今はまだその時ではない……〟と言われてしまえば、それまでの話だし。初めて扱う素材はとりあえず『魔女の大釜』に沈めて手応えを確認しておく……という手続きは、私がいつもやっていることだから。
何か手伝いたそうに様子を窺っていたカガリはいつものやつだね、と納得した様子で、手持ち無沙汰な両手を私の体に巻きつけた。
作業の邪魔ではあるけどまぁいいか、で許せるレベルのちょっかいというものを、カガリはよくわかっている。
肩に乗せられたカガリの頭の方に首を傾けてこつん、と頭同士をぶつけると。犬がじゃれつくように、カガリがうりうりと首元に顔を埋めてきて。素肌を掠める毛先の擽ったさに、思わずくすりと笑いがもれた。
「邪魔するなら離れてて」
怒っている、というには無理のある笑い混じりの声に、カガリはそれでもぴたっ、と動きを止めて。
「ミリーの邪魔なんてしないよ」
私の邪魔をするなんてとんでもない、とでも言いたげに、大真面目な声で嘯いてみせるものだから。それはそれで笑ってしまった。
私がカウンターでドーナッツを食べている間は足元にきて足置きになっていたスライムクッションをリビングの開けた場所まで転がし、その上に乗せて高さを調節した『魔女の大釜』を、立ったまま覗き込みながら。
砂のように細かな『賢者の石』が一つにまとまる様を強くイメージすると。私の魔力が『魔女の大釜』に満たした乳白色の液体はあっという間に真珠じみた光沢を帯びて。
「溶かして、固めよ」
『魔女の大釜』がぼふんっ、と吐き出した煙で、視界が白く染まる。
キッチンの換気扇に勢いよく吸い込まれていった白煙が晴れると。『魔女の大釜』の底には、深紅に輝く『賢者の石』のごろっとした塊が一つ出来上がっていた。
「どうだった?」
「大丈夫そう。手応えはびっくりするくらい軽かったけど……『賢者の石』を、他とは桁違いに魔力の密度が高い〝魔石の一種〟と考えたら、これくらいで普通な気もするし」
「混ぜやすいならよかったね」
「変に重たいよりかはね」
何かを単体で錬成するときにそれほど精密な魔力操作を求められることはないので。確かに、手応えが軽すぎて困るということはない。
『魔女の大釜』を使った〝いつものやり方〟で、他の素材を扱うときと大差なく加工できると確認できた『賢者の石』をもう一度、『魔女の大釜』を満たした乳白色の液体にぽちゃりと沈めて。今度はそれを、幻世でも度々錬成していたユージン向けの消耗品に加工する。
「Si Vis Pacem, Para Bellum――」
【銃剣士】なんて、現世での硝煙臭い職業がモロバレしそうなジョブが生えたユージンのために、幻世でいつも用意してあげていた魔法付与前提の――魔法はからっきしなユージンでも、撃って当てさえすれば付与された魔法を発動できる――弾丸に、今日は特別な付与をひとつまみ。
……どうか、この祈りがジーンの助けになりますように。
「溶かして、固めよ」
ぼふんっ、と立ちのぼった煙が晴れた後には。『魔女の大釜』の底に、深紅に輝く弾丸がいくつか転がっていた。
『魔女の大釜』から取り出した弾丸を〔鑑定〕すると、採集用の革袋一つ分の『賢者の石』から出来た都合十五個の弾丸には、一つ残らず『破門弾』というアイテム名が定義されていて。
「〔破門〕を付与した弾丸だから、破門弾。そのままね」
最後の一つの〔鑑定〕結果を、そのまま適当な晶紙に焼き付けて。商品用の紙袋に詰めた『破門弾』と一緒に置いておく。
ぐっすり眠っているのか、起きてはいるけど反応するのが面倒で動かずにいるだけなのか、傍目には見分けがつかないユージンは、頭の上までブランケットを被ってぴくりともしないまま、日が暮れるまでリビングの片隅に転がっていた。
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