『世界統合に伴う大型アップデートのお知らせ』

葉月+(まいかぜ)

文字の大きさ
上 下
61 / 63
EP02「異郷にて」

SCENE-006

しおりを挟む
「何か作るの?」
「とりあえず、『賢者の石』が普通に錬成できるのか確かめるところからかな……」
 幻世から現世へと流れ込む膨大な魔力から作られた『賢者の石』。
 それを、錬金術――〝月女神の権能〟という大まかな括りでは、『賢者の石』を作り出したものと同種の力――によって加工できない、ということはまずないだろうけど。私の〔錬成〕や〔信仰〕のレベルが足りなくて〝今はまだその時ではない……〟と言われてしまえば、それまでの話だし。初めて扱う素材はとりあえず『魔女の大釜』に沈めて手応えを確認しておく……という手続きは、私がいつもやっていることだから。
 何か手伝いたそうに様子を窺っていたカガリはいつものやつだね、と納得した様子で、手持ち無沙汰な両手を私の体に巻きつけた。



 作業の邪魔ではあるけどまぁいいか、で許せるレベルのちょっかいというものを、カガリはよくわかっている。

 肩に乗せられたカガリの頭の方に首を傾けてこつん、と頭同士をぶつけると。犬がじゃれつくように、カガリがうりうりと首元に顔を埋めてきて。素肌を掠める毛先の擽ったさに、思わずくすりと笑いがもれた。
「邪魔するなら離れてて」
 怒っている、というには無理のある笑い混じりの声に、カガリはそれでもぴたっ、と動きを止めて。
「ミリーの邪魔なんてしないよ」
 私の邪魔をするなんてとんでもない、とでも言いたげに、大真面目な声で嘯いてみせるものだから。それはそれで笑ってしまった。



 私がカウンターでドーナッツを食べている間は足元にきて足置きになっていたスライムクッションをリビングの開けた場所まで転がし、その上に乗せて高さを調節した『魔女の大釜』を、立ったまま覗き込みながら。
 砂のように細かな『賢者の石』が一つにまとまる様を強くイメージすると。私の魔力が『魔女の大釜』に満たした乳白色の液体はあっという間に真珠じみた光沢を帯びて。
溶かして、固めよSolve et Coagula
 『魔女の大釜』がぼふんっ、と吐き出した煙で、視界が白く染まる。



 キッチンの換気扇に勢いよく吸い込まれていった白煙が晴れると。『魔女の大釜』の底には、深紅に輝く『賢者の石』のごろっとした塊が一つ出来上がっていた。

「どうだった?」
「大丈夫そう。手応えはびっくりするくらい軽かったけど……『賢者の石』を、他とは桁違いに魔力の密度が高い〝魔石の一種〟と考えたら、これくらいで普通な気もするし」
「混ぜやすいならよかったね」
「変に重たいよりかはね」
 何かを単体で錬成するときにそれほど精密な魔力操作を求められることはないので。確かに、手応えが軽すぎて困るということはない。



 『魔女の大釜』を使った〝いつものやり方〟で、他の素材を扱うときと大差なく加工できると確認できた『賢者の石』をもう一度、『魔女の大釜』を満たした乳白色の液体にぽちゃりと沈めて。今度はそれを、幻世でも度々錬成していたユージン向けの消耗品に加工する。

「Si Vis Pacem, Para Bellum――」
 【銃剣士ガンスリンガー】なんて、現世での硝煙臭い職業がモロバレしそうなジョブが生えたユージンのために、幻世むこうでいつも用意してあげていた魔法付与前提の――魔法はからっきしなユージンでも、撃って当てさえすれば付与された魔法を発動できる――に、今日は特別な付与をひとつまみ。
 ……どうか、この祈りがジーンの助けになりますように。

溶かして、固めよSolve et Coagula
 ぼふんっ、と立ちのぼった煙が晴れた後には。『魔女の大釜』の底に、深紅に輝く弾丸がいくつか転がっていた。



 『魔女の大釜』から取り出した弾丸を〔鑑定〕すると、採集用の革袋一つ分の『賢者の石』から出来た都合十五個の弾丸には、一つ残らず『破門弾』というアイテム名が定義されていて。
「〔破門アナテマ〕を付与した弾丸だから、破門弾アナテマ・バレット。そのままね」
 最後の一つの〔鑑定〕結果を、そのまま適当な晶紙に焼き付けて。商品用の紙袋に詰めた『破門弾』と一緒に置いておく。

 ぐっすり眠っているのか、起きてはいるけど反応するのが面倒で動かずにいるだけなのか、傍目には見分けがつかないユージンは、頭の上までブランケットを被ってぴくりともしないまま、日が暮れるまでリビングの片隅に転がっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

処理中です...