『世界統合に伴う大型アップデートのお知らせ』

EP02「異郷にて」

SCENE-003

　ピンポーンと、家中に響き渡るインターホンの音で目が覚めた。

　間を置かず、ガチャッと玄関扉の開く音がして。躊躇いもなく上がり込んでくる人の気配に、事前連絡もなく尋ねてきたのが、合鍵を渡している二人のうち、私に遠慮や配慮をする必要が〝ない〟方だと見当がつく。
「じーん……？」
　『ワルプルギスの夕べ』――AWOの四周年を祝う形で開催された大規模オフラインイベント――以来、私のことを家に送り届ける暇も惜しむほど忙しそうにしていたのに。昨日の今日でいったい何をしに来たのだろうと、頭の中では盛大に疑問符を浮かべながら。
　枕に顔を埋めたまま探るように伸ばした手は、いつもならナイトテーブルで充電されているはずの電脳接続端末リンカーデバイスに触れることなく、クレードルの上を空振った。

「あれ……？」
　寝起きでいまいち頭の回っていない私が「なんで……？」と顔を上げ、ぼんやりと目を瞬かせているうちに。寝室の前で足を止めたユージンがコンコンッと扉をノックしてくる。
「まだ寝てるのか？」
「おきた……」
　部屋の外までは到底届かない、か細い声しか出なかった私がベッドの上から投げたクッションは、たいした勢いもなく――ぽすんっ、と――扉に届きもせず、床へと墜ちていった。

　それでも、なんとなく気配は感じられたらしい。
「寝坊助、さっさと起きてこい」
　私が目を覚ましていることを疑いもしない声色で、ユージンはそう言い残すと、私の返事も聞かず、リビングの方へと歩き去って行った。



　扉の前で立ち止まっていた気配が遠ざかると。玄関の鍵が開けられたあたりから私の後ろで起き上がっていたカガリが、何かの腹いせのよう、私の上にバタッと倒れ込んでくる。
「ぎゃっ」

「ミリー？」
　ただ名前を呼ぶだけでも、カガリの声は雄弁だ。

　……浮気を疑われた男の気分って、こんな感じ？
　そう考えると、なんだか笑えてくる。

「リアルの人間関係薄弱な廃ゲーマーの一人暮らしなんだから、近所に住んでる身内に合鍵くらい渡しておくでしょ、普通に」
　かく言う私は、ユージンの家の合鍵なんてもらってないけど。それはそれ。
　私がユージンの助けを必要とすることは〝たまにある〟レベルの話だけど、ユージンが私に助けを求めることは絶対に〝ない〟ので。私がユージンの家の合鍵なんて預かっていても仕方がない。
「僕がいるのに……」
「今はね」

　不服そうにしているカガリの下から、下敷きにされていた体を逃がして。そのままベッドを降りる私に、カガリもついてきた。