『世界統合に伴う大型アップデートのお知らせ』

葉月+(まいかぜ)

文字の大きさ
上 下
51 / 63
EP01「〔魔女獄門〕事変」

SCENE-049

しおりを挟む
 月女神が自らしたためた契約やくそく
 その文言は、現世にステータスシステムが実装されたワルプルギスの夜のように、世界の言葉ワールドアナウンスとして、現世に生きるあまねく人々へと届けられた。


                                    
 神性がもたらす奇跡を直接目の当たりにした私がその事実を知るのは、ネットを介して観測できる『世間』がもう少し賑やかになってからのこと。

「私の、星……?」
 目の前で起きたことしか知らないでいる私の関心は、もっぱら、カガリが口にした身に覚えのない言葉フレーズへと向けられていた。

 ……あのダンジョン・コアのことを言ってるの?
 月女神が自らしたためた契約書にも『祈りの星プレア・ステラ』というフレーズが出てきたし、すぐそこに立っている女神像の手元には、『ダ・ヴィンチの星』や『星型八面体ステラ・オクタンギュラ』と呼ばれる形状の、それこそ星のように輝く結晶体が浮いている。
 この符合が、まさか偶然の一致なわけもない。

「ミリーが祈って、ミリーのために創られて、ミリーに与えられた『祈りの星』だ。ここには女神への信仰を禁じる決まりも、自分たちを見捨てた神への信仰に縋る有象無象もいないんだから、あれは異端者が落ちる地獄の門にはなり得ない。〔魔女獄門ヘクセントーア〕なんて、似合わないよ」
 私の邪魔にならないように離れていたカガリがまた、私のことを絡め取るようにぎゅっ、と抱きついてくる。
「神によって祝福されたものだけがくぐることのできる門があったとして、その先にあるのはなんだと思う?」
 その答えは、カガリが勿体振る様子もなく指を差して見せた晶紙――神性かみ自身の手によって書き記された言葉の中――にあった。

 ……〔黄昏の園ガーデン・オブ・ヘスペリス〕。
「『楽園』……?」
 神性かみが関わる『園』と言えば、そういうものだと、相場は決まっている。

「そうだよ」
 よくできましたと、小さな子供でも褒めるよう私の頭を撫でたカガリの手が、視線を誘うよう芝居がかった仕草で伸ばされて。私の魔力に支えられ、宙に浮かんだ晶紙に触れる。
「っ……」
 その瞬間、私の目と鼻の先で、目が眩むほどの輝きとともに、金色の魔力が弾けた。


                                    
 ……まぶしっ。
 目を閉じていてもわかるくらい強い輝きと大きな魔力が、祭壇の中央めがけて飛んでいく。

 カガリが触れて、それ自体が燃え盛る火の玉のような『魔力の塊』に姿を変えた晶紙は、細かな魔力の粒子を火の粉のように撒き散らしながら、女神像の手元に浮かぶ星型の結晶体へと向かっていき、そのまま吸い込まれるよう、瞼越しに感じる輝きと、魔力の気配を小さくしていった。


                                    
 まだ違和感が残っているような気のする目をそろりと開け、ともすれば目を焼かれてしまいかねないと、恐ろしくなるほどの輝きから咄嗟に背けていた顔を戻すと。
 ……うわ……。
 それまでは結晶柱や女神像が放つ淡い輝きにぼんやりと照らされているだけだった祭壇の中を、星屑のように煌めく魔力が舞っていた。

 カガリが触れた晶紙の輝きと魔力を取り込んだ星型の結晶体は、もともとオレンジ色がかっていた輝きに炎のような赤味を足され、夕焼けをそのまま閉じ込めたような色に変わっている。


                                    
 ……もっと綺麗になった……。
 黄昏色に輝く結晶体の、えもいわれぬ美しさに魅入られたよう、女神像の手元を照らす『祈りの星』から、私が目を離せなくなると。
 そんな私の視線を、顔の前に翳されたカガリの手が遮った。
「ミリー、契約用の晶紙をもう一枚出して」
 そうやって目を塞ぐなら、眩しいことをする前にやってくれたらよかったのに。

「……契約なら、さっきのでいいんじゃないの?」
「あの文言だと人から溢れる魔力の問題は解決しないし、異邦人が〔黄昏の園〕に入ることもできないよ」
 もちろんミリーは別だけど、なんて。カガリはなんでもないことのよう軽い調子で言いながら、私がインベントリから取り出した二枚目の晶紙を受け取った。

 その手から、カガリの魔力を纏った晶紙がふわりと浮き上がる。

「『〔黄昏の園〕は開かれた』のに?」
「あれは天地闢、『〔黄昏の園〕が創られた』って意味だよ。ダンジョンとして使わせるとはどこにも書いてなかったから、条件を決めて許可を与えるのがミリーの仕事なんじゃない?」
 ……そう言われると、そんな気もしてきた。

 カガリが差し出してきたペンを受け取って、魔力を纏わせながら宙へと放す。


                                    
[【代行者】バーミリオンの名において、すべての子供たちの前に〔黄昏の園〕はその門を開き、祈りと奉仕によって神の恩寵へと報いるものだけが、その恩恵を享受できるものとする。]

 そこまで書いたところで、私が自分で支えているわけでもない晶紙をユージンの方へと向き直らせた。
「その後に、こう続けて」
 晶紙の傍に浮いていたペンを捕まえたユージンは、カガリが宙に放した小瓶からペン先にインクを足すと、躊躇う素振りも見せず、私が告げたとおりの言葉で余白を埋めていく。

[星の輝きが、幾久しくこの天地を照らさんことを。]

 それで終わりと、私が手を伸ばしてペンを回収すると。もっと長い文章を書かされるとでも思っていたのか、ユージンは拍子抜けしたような顔をした。
「……これだけか?」
「こんなものでしょ」
 ねぇ? と同意を求めて振り返った私に、カガリが微笑む。
「そうだね」
 その手がおもむろに、ユージンの手元から私の手元へと戻ってきた晶紙に翳される。

「『裁きを司る太陽』の名において、ここに契約は結ばれた」
 ……あっ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

処理中です...