『世界統合に伴う大型アップデートのお知らせ』

EP01「〔魔女獄門〕事変」

SCENE-046

　AWOではプレイヤーがMPを使い果たし、『枯渇』状態に陥る――HPヘルスにそういうバッドステータスがつく――と、しばらくの間、魔力が自然回復しなくなるうえ、ポーション等による回復にもデバフがついたりすることがある。
　MPさえ残っていれば、HPヘルスやLPライフなんていくらでも回復のしようがあることから。私のような魔法職にとって、MP管理というのはHPヘルスやLPライフのそれよりも常に優先される。大事な生命線だ。

　とはいえ。幻世で使っているアバターと、現世での体は、まったくの別物なわけで。

　……こっちの体はつい最近まで魔力が無いのが普通だったんだから、枯渇したところでどうってことないのでは……？
　そもそも枯渇の心配をしないといけなくなるほどの魔力を、結晶体に吸わせた覚えもないし。

　このタイミングで行われる〔魔力譲渡〕に、狭量なカガリの嫉妬からくる鬱憤晴らし以上の意味を見出せなくて。
　さりとて、カガリに対して抵抗する方が面倒なことになるとわかりきっている私が、渋々ながらもされるがままになっていると。

　勝手に嫉妬した挙句、躾のなっていない犬のように噛みついてきたカガリはそのうち、勝手に機嫌を直して離れていった。


                                    
　……ジーンにがっつり見られた……。
　それが状況的に仕方のないことならまだしも。どう考えてもそうではなかったのだから、気まずいどころの話ではない。

　恋人との濃厚なキスシーンを身内に見られて恥ずかしい、と感じるくらいの羞恥心は持ち合わせている私が、恨みがましく睨みつけると。
　最後だけ取り繕うように、ちゅっ、とかわいらしいリップ音をさせ、私の唇を甘く啄みながら離れていったカガリが、ギリギリで焦点が合う、というくらいの至近距離から、両手を添えるようにして捕まえた、私の顔をにっこりと覗き込んでくる。
「これくらいで魔力は足りそう？」
　そのわざとらしい言い草に、私が全力で乗っかるしかないと確信しているカガリの笑みは、それが私に対する手練手管だとわかっていても、思わず見惚れるほどには美しかった。


                                    
　さすが、死にていの太陽神――自尊心と矜恃の権化のような神性――が、自らの依代として選んだエルフの皮ガワなだけのことはある。