『世界統合に伴う大型アップデートのお知らせ』

葉月+(まいかぜ)

文字の大きさ
上 下
45 / 63
EP01「〔魔女獄門〕事変」

SCENE-044

しおりを挟む
 神に祈り、奇跡を願うのと、術式を組み立て、魔法を使うのとでは、手順も気持ちの持ちようも、まったく違ってくる。

 そのことを、おそらく理解していない。ユージンはただ、今の現世に私以上の魔法使いがいないから、私で無理なら他の誰にも無理だろうと、ある意味、消極的な理由で私のことをあてにしてくれたのだろうけど。
 生憎と、これから私がすることに、魔法の腕前なんてものは、少しも関係がなくて。

 必要とされるのは神への〔信仰〕であり、祈りに応えて奇跡をもたらす神からの寵愛。
 ただそれだけだ。


                                    
 一つ、二つと深く息を吸い、呼吸を整えて。
 この声が、どうか届きますようにと。紡ぐ言葉に願いを込める。
「黄昏より来たるもの。我が盾。我が力の根源たる月よ。その神威をここに」
 胸の前で手を組み、目を伏せて。真摯に祈れば、閉じた瞼の向こうに強い光を感じた。

 同時に、私へと近付いてくる、カガリではない誰かの気配も。

 ……月女神さま。
 穏やかな気配と、柔らかな感触。少しだけひんやりとした、実体を持たない、けれど確かに触れることのできる神性かみさまが、私に覆い被さってきて。

 ――幼き女神の恩寵を受け取りますか? Y/N
 ――幼き女神に供物を捧げますか? Y/N

「『主はその玉座を天に堅くすえられ、そのまつりごとはすべての物を統べ治める』」
 そうであるように、と私が願い、祈りを捧げれば。その信仰いのりが月女神の権能ちからに変わる。
 幻世の神性かみさまというのは、そういう存在ものなので。

 誰からも祈られなければ、どんな力も揮えない。
 きっと、今の今までもどかしい思いをしていたのだろう。月女神の神威――その意思を帯びた神性の魔力――は、私の祈りを受けて待ってましたとばかり爆発的な勢いで溢れ出すと、一種の結界として機能している祭壇の中をとぷりと満たした。

 ――幼き女神があなたを祝福しています。

 そうして。月女神の恩寵が、私の信仰と引き替えに、この現世へともたらされる。
                                    
                               ◇ ◇ ◇
                                    
 カガリのかわいいかわいいご主人さまバーミリオンが祈っている。

 美しいものをこよなく愛する神子に好かれようと、露骨に媚びた真似をした女神の前へと跪き、目を伏せて、一心に。
 ……いいなぁ。
 その『祈り』がどれほど心地良いものか、カガリは知っている。
 その願いを叶えたとき、与えられる感情の甘美な味も。

 だからこそ。今この時、バーミリオンから一心に祈られ、願いをかけられている女神のことが羨ましくて、妬ましくて、たまらなかった。


                                    
『ベタベタ触るな』
 カガリの低く唸るような警告に、バーミリオンの祈りによって現世へと顕現した女神が、まるで「自分のものだ」と見せつけるよう、自身へと祈る神子を抱きしめたまま、くふりと優越感にまみれた笑みを浮かべる。
『このこは、わたしの、かわいい、こ』
 だから嫌よと、舌っ足らずにカガリへ答えて。バーミリオンの頭からフードを払い落とした女神の手が、カガリが手ずからまとめてやった結い髪を、さも愛おし気に撫でつけた。
『あなたの、ねがいを、かなえて、あげる』

 ……さっさとそうしていればいいものを。
 どうしてわざわざ出てきたんだと、カガリがイライラを募らせている間にも、カガリの権能を帯びた結晶柱によって祭壇の内側へと押し留められていた女神の魔力が収束する。

『あなたに、たのしい、あそびば、を。
 あなたに、ゆたかな、せいかつ、を。
 わたしが、あげる。
 あなたに、あげる』

 いかにも楽し気に謳い上げた女神の言葉ロゴスは、バーミリオンが祈り、願うがままに、異界の条理を捻じ曲げた。
『だから、わたしも、あいして、ね』

   ◇ ◇ ◇





//引用 詩篇(口語訳)103:19
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった

ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。 しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。 リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。 現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした

水の入ったペットボトル
SF
 これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。 ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。 βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?  そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。  この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。

処理中です...