『世界統合に伴う大型アップデートのお知らせ』

EP01「〔魔女獄門〕事変」

SCENE-043

「できるのか？」
　私の実力に疑念を抱いている――そんなことができるのか、と実行性を疑っている――というより、そこまでやってくれるのか、とでも言いたげ。
「私を誰だと思ってるのよ」
　そんなユージンに向かってふふん、と私がさも得意気に笑って見せると。おもむろに、カガリがすとん、と私のことを地面に下ろして。「可愛い顔はしまっておこうね」なんて言いながら、ローブのフードを目深に被せてきたから。いまいち締まらなかったけど。

　これでも私は、月女神から神子――いわゆる『聖女』や『聖人』の類――に相応しいと認められるほどには〔信仰〕に篤く、その代行者として指名されるほどには信頼されている魔女なので。
　それくらいの祈願おねだりは朝飯前だ。


                                    
　……どのみち、魔獣対策にダンジョンは必要だし。
　幻世でスキルを手に入れ、現世でもそれが使えるようになったスキルホルダー――AWOのプレイヤーたち――がただそこにいるだけで、その魂から湧き出して、肉体という『器』に蓄えられていき、やがては溢れ出す魔力によって、現世の環境は刻一刻と汚染されていく。

　呼吸や食事によって体に取り込んだ環境魔力――自分で生み出したものではない、他人の魔力――の濃度が許容量を超えた結果、起こるのが『魔化』と呼ばれる現象――魔力による動植物の変質であり、魔獣の発生――で。それを防ぐには、環境魔力が濃くなり過ぎないように、魔力を垂れ流しにする人を減らすか、人が生み出すのと同じかそれ以上の規模で魔力を消費し続けるしかない。

　そのために、月女神――太陽神から信仰を奪われた廃女神――がなけなしの力で生み出した機構がダンジョンであり、そこで発生する魔物モンスター――魔獣とは似て非なる、純粋な魔法生物――をダンジョンシーカーが討伐することで、幻世において失われつつある『創造と誕生を司る神の恩寵』を様々なアイテムやスキルとして持ち帰り、人々の生活の糧にする、というルーチンなので。
　それを必要とする場所で、真摯に祈りさえすれば。月女神は応えてくれる。

　ましてや、それを願うのは彼女の神子であり、代行者であるこの私だ。


                                    
「カガリだけじゃなくて、私の凄いところも見せてあげる」
　世界統合機構の思惑や目論見なんて、いちプレイヤーでしかない私は端から知らないし。自分たちではじめたことの始末もろくにつけられなかった連中の指示を仰ぐつもりも、ましてやその要望や要求の類を呑む気なんて、さらさら無いから。
　ただ一人、私と世界統合機構の窓口になりそうなユージンの意向さえも確かめないまま、何食わぬ顔で話を進める。

　白く輝く女神像へと向き直った私が、蜜色の地面を覆いつつある砂の上に恭しく跪くと。カガリは何も言わず、私の傍から離れていった。