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EP01「〔魔女獄門〕事変」
SCENE-042
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私から構われる分にはいくらでも、というスタンスのカガリがまだ足りない、もっとして……と、ぐりぐり押しつけてくる頭を撫で回しているうちに。
この辺りで合流しようと、一方的に声をかけておいたユージンが、出来たばかりの『祭壇』の前までやってくる。
「なんだこれ」
単身、それも徒歩――とはいえ、AWOでサードジョブまで開放しているユージンのステータスなら、軽くジョギングするくらいの感覚で車並みのスピードが出るはずだから、まったく遅くはない――でやってきたユージンは、規則正しく並んでいる結界柱の手前で足を止めた。
迂闊に足を踏み入れないのは賢い判断だ。
少しくらい礼を欠いた振る舞いをしたとしても、寛容な月女神は気にしないだろうけど。この祭壇を作り上げ、維持しているのは、月女神だけの権能ではないから。
……まあ、私が見てるところでジーンに何かしたりはしないだろうけど。
私のように『身代わりのアミュレット』をじゃらじゃらぶら下げているわけではないのだから、用心するに越したことはない。
「幻世の神性を祀る祭壇よ。形は色々だけど、向こうでも大きな神殿の奥とかにあるやつ」
「……お前、それを見たことがあるのか」
「当然」
もちろん、月女神と太陽神の力がこれほど調和したものは、太陽神が主導する『異端狩り』によって月女神への信仰が廃れて久しい今の幻世では、どこを探しても見つからない、存在自体が奇跡であり、幻世での太陽神信仰に真っ向から喧嘩を売るような代物だけど。
ここは現世で、私は幻世の神殿から名指しで『異端者』と認定されているような、悪い魔女だから。この祭壇がもたらす恩寵の素晴らしさに胸をときめかせることはあっても、赤の他人の信仰に遠慮や配慮をしたりはしない。
そも。神が与えたもうたこの恩寵を非難するものがいたとして。そちらの方が、余程の背信者だ。
「それで? 問題は解決したのか?」
「ジーンの言ってる『問題』が、ここで〔魔女の鉄槌〕がコールされて以来、幻世からどばどば流れ込んでる魔力のことなら、当面の危機は去ったと言えるわね」
見てよこれ、と。カガリに抱えられ、いつもより高くなった目線から、いっそう距離の近くなった月女神の像を振り返る。
その両手から湧き出す黄金水の勢いは一向に衰える気配もなく。
祭壇の床――私のことを抱え上げているカガリの足元――へと降り積もる、砂粒のように細かな『賢者の石』は、その頂を早くも水盤の縁へ届かせようとしていた。
「にわかだろうと仮にもゲーマーなんだから、『賢者の石』の名前くらいは聞いたことがあるでしょ? この神像は幻世から現世に流れ込んでくる魔力を、幻世に実在する二柱の神性の恩寵によって『完全なる物質』である『賢者の石』に変えてるの。この祭壇がある限り、少なくとも幻世由来の魔力のせいでこっちの世界に魔獣が湧き出す、なんてことにはならないはずよ」
「月女神がどうとか言ってたのは?」
「元々、こっちの世界が大変なことにならないように頑張ってたのは月女神さまなのよ。でも、司る権能の関係で月女神さまだけだと賢者の石は作り出せなくて。精一杯できることとして、幻世の魔力をこの場所に留めていたってわけ。それが、さっきまでここにあった『闇』の正体よ」
『闇』としてわだかまっていた魔力は、神像を含む『祭壇』を作り出すコスト――雰囲気重視の言い方をすると、神の恩寵を賜るための供物――として消費されたし。今後、幻世から流れ込んでくる魔力は、あまさず『賢者の石』へと変換される。
「あとは月女神さまにお願いしてダンジョンを作ってもらえば、過程はともかく、結果についてはAWO公式の告知内容通り、ってことになるんじゃない?」
現世にダンジョンができれば、その維持と運用のために、幻世から流れ込む魔力以外の、AWOプレイヤーたちが垂れ流している魔力が使われることになるだろうから。環境魔力の濃度が上がって現世に魔獣がぽこすか発生するようなことになる、なんて可能性はますます低くなる。
そこまでやってようやく、私にとっても一安心、一段落だ。
この辺りで合流しようと、一方的に声をかけておいたユージンが、出来たばかりの『祭壇』の前までやってくる。
「なんだこれ」
単身、それも徒歩――とはいえ、AWOでサードジョブまで開放しているユージンのステータスなら、軽くジョギングするくらいの感覚で車並みのスピードが出るはずだから、まったく遅くはない――でやってきたユージンは、規則正しく並んでいる結界柱の手前で足を止めた。
迂闊に足を踏み入れないのは賢い判断だ。
少しくらい礼を欠いた振る舞いをしたとしても、寛容な月女神は気にしないだろうけど。この祭壇を作り上げ、維持しているのは、月女神だけの権能ではないから。
……まあ、私が見てるところでジーンに何かしたりはしないだろうけど。
私のように『身代わりのアミュレット』をじゃらじゃらぶら下げているわけではないのだから、用心するに越したことはない。
「幻世の神性を祀る祭壇よ。形は色々だけど、向こうでも大きな神殿の奥とかにあるやつ」
「……お前、それを見たことがあるのか」
「当然」
もちろん、月女神と太陽神の力がこれほど調和したものは、太陽神が主導する『異端狩り』によって月女神への信仰が廃れて久しい今の幻世では、どこを探しても見つからない、存在自体が奇跡であり、幻世での太陽神信仰に真っ向から喧嘩を売るような代物だけど。
ここは現世で、私は幻世の神殿から名指しで『異端者』と認定されているような、悪い魔女だから。この祭壇がもたらす恩寵の素晴らしさに胸をときめかせることはあっても、赤の他人の信仰に遠慮や配慮をしたりはしない。
そも。神が与えたもうたこの恩寵を非難するものがいたとして。そちらの方が、余程の背信者だ。
「それで? 問題は解決したのか?」
「ジーンの言ってる『問題』が、ここで〔魔女の鉄槌〕がコールされて以来、幻世からどばどば流れ込んでる魔力のことなら、当面の危機は去ったと言えるわね」
見てよこれ、と。カガリに抱えられ、いつもより高くなった目線から、いっそう距離の近くなった月女神の像を振り返る。
その両手から湧き出す黄金水の勢いは一向に衰える気配もなく。
祭壇の床――私のことを抱え上げているカガリの足元――へと降り積もる、砂粒のように細かな『賢者の石』は、その頂を早くも水盤の縁へ届かせようとしていた。
「にわかだろうと仮にもゲーマーなんだから、『賢者の石』の名前くらいは聞いたことがあるでしょ? この神像は幻世から現世に流れ込んでくる魔力を、幻世に実在する二柱の神性の恩寵によって『完全なる物質』である『賢者の石』に変えてるの。この祭壇がある限り、少なくとも幻世由来の魔力のせいでこっちの世界に魔獣が湧き出す、なんてことにはならないはずよ」
「月女神がどうとか言ってたのは?」
「元々、こっちの世界が大変なことにならないように頑張ってたのは月女神さまなのよ。でも、司る権能の関係で月女神さまだけだと賢者の石は作り出せなくて。精一杯できることとして、幻世の魔力をこの場所に留めていたってわけ。それが、さっきまでここにあった『闇』の正体よ」
『闇』としてわだかまっていた魔力は、神像を含む『祭壇』を作り出すコスト――雰囲気重視の言い方をすると、神の恩寵を賜るための供物――として消費されたし。今後、幻世から流れ込んでくる魔力は、あまさず『賢者の石』へと変換される。
「あとは月女神さまにお願いしてダンジョンを作ってもらえば、過程はともかく、結果についてはAWO公式の告知内容通り、ってことになるんじゃない?」
現世にダンジョンができれば、その維持と運用のために、幻世から流れ込む魔力以外の、AWOプレイヤーたちが垂れ流している魔力が使われることになるだろうから。環境魔力の濃度が上がって現世に魔獣がぽこすか発生するようなことになる、なんて可能性はますます低くなる。
そこまでやってようやく、私にとっても一安心、一段落だ。
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