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EP01「〔魔女獄門〕事変」
SCENE-040
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幻世の神は偶像崇拝を禁じていない。
どんな形であれ、人が神へと祈り、願う、その信仰こそが神の権能の根源だから。
あまりに狭量がすぎて幻世から『月女神への信仰』を排するに至った太陽神でさえ、祈りを捧げる対象としての『神の御姿』を厳格に定めたうえで、神自身ではなくその代替品へと祈ることを民に許しているくらいだ。
月女神に至っては、自らの偶像についてもその寛容っぷりを遺憾なく発揮して。御姿どころか『祈りの形』についても祈る側へと丸投げしたうえで、自らの権能にかかわる『祈り』や『願い』に対するアンテナを張り巡らせ、ひとたびそれを感知すれば、信仰の有無など関係なく、そうすることが持つものの義務だといわんばかり、真摯な祈りへ報いる奇跡としての恩寵を大盤振る舞いしている。
だからこそ。幻世に今も残されている、月女神信仰の痕跡――プレイヤーが『ステータスシステム』を通して参照できるマップ上に現れるとき、そのような場所には、大抵の場合『廃神殿』や『放棄された祭壇』、『朽ちた祠』というような名称がつけられている――で、これまで私が見つけてきた『神の像』には、ただの一つとして同じものがなかった。
エルフが祀る女神像の耳は鋭く尖り、今の幻世からは姿を消している獣人たち――彼らは月女神の敬虔な信徒でありながら、エルフのよう魔法に長けてはいなかったため、太陽神とその信徒たちによる『異端狩り』から逃れることができず、幻世ではとうに滅びた種族とされている――が祀っていたと思しき女神像には、『豊穣』の象徴としてピンと立った獣耳と毛並み豊かな尻尾が生えていたし、現世で言うところの道祖神のような形でさりげなく祀られているような月女神の像には、そもそも人型ですらないようなものもありふれている。
月女神の御姿は、水面に映る月のよう、月女神へと祈りを捧げ、何かを願う側の認識によって、如何様にも変化するものだ。
それ故に。今の世で、月女神自身に『最も敬虔な信徒』であると認められ、【月女神の神子】という称号を賜った私でさえ、月女神の『本当の姿』というものを知らない。
どれほど寛容で、親しみやすく振る舞っていたとしても、相手は正真正銘の神性だから。その本性を知ろうだなんて、過ぎた望みだと言われてしまえば、それまでの話なのだけれど。
第九フロートの、元はイユンクスが主催するイベント会場だった場所に、一際大きな雷鳴とともに忽然と現れた女性像。
自ずから淡い輝きを発しているその神像の間近へと迫り、微睡むように瞼を伏せながら、うっすらと微笑んでいる女性の容貌をまじまじと見上げたとき。私は不思議と、それこそが月女神本来の、祈り手によるいかなる解釈も含まない、まっさらな姿なのだと確信できた。
あるいは。これこそ、月女神が望む『神の御姿』なのだろう……と。
どんな形であれ、人が神へと祈り、願う、その信仰こそが神の権能の根源だから。
あまりに狭量がすぎて幻世から『月女神への信仰』を排するに至った太陽神でさえ、祈りを捧げる対象としての『神の御姿』を厳格に定めたうえで、神自身ではなくその代替品へと祈ることを民に許しているくらいだ。
月女神に至っては、自らの偶像についてもその寛容っぷりを遺憾なく発揮して。御姿どころか『祈りの形』についても祈る側へと丸投げしたうえで、自らの権能にかかわる『祈り』や『願い』に対するアンテナを張り巡らせ、ひとたびそれを感知すれば、信仰の有無など関係なく、そうすることが持つものの義務だといわんばかり、真摯な祈りへ報いる奇跡としての恩寵を大盤振る舞いしている。
だからこそ。幻世に今も残されている、月女神信仰の痕跡――プレイヤーが『ステータスシステム』を通して参照できるマップ上に現れるとき、そのような場所には、大抵の場合『廃神殿』や『放棄された祭壇』、『朽ちた祠』というような名称がつけられている――で、これまで私が見つけてきた『神の像』には、ただの一つとして同じものがなかった。
エルフが祀る女神像の耳は鋭く尖り、今の幻世からは姿を消している獣人たち――彼らは月女神の敬虔な信徒でありながら、エルフのよう魔法に長けてはいなかったため、太陽神とその信徒たちによる『異端狩り』から逃れることができず、幻世ではとうに滅びた種族とされている――が祀っていたと思しき女神像には、『豊穣』の象徴としてピンと立った獣耳と毛並み豊かな尻尾が生えていたし、現世で言うところの道祖神のような形でさりげなく祀られているような月女神の像には、そもそも人型ですらないようなものもありふれている。
月女神の御姿は、水面に映る月のよう、月女神へと祈りを捧げ、何かを願う側の認識によって、如何様にも変化するものだ。
それ故に。今の世で、月女神自身に『最も敬虔な信徒』であると認められ、【月女神の神子】という称号を賜った私でさえ、月女神の『本当の姿』というものを知らない。
どれほど寛容で、親しみやすく振る舞っていたとしても、相手は正真正銘の神性だから。その本性を知ろうだなんて、過ぎた望みだと言われてしまえば、それまでの話なのだけれど。
第九フロートの、元はイユンクスが主催するイベント会場だった場所に、一際大きな雷鳴とともに忽然と現れた女性像。
自ずから淡い輝きを発しているその神像の間近へと迫り、微睡むように瞼を伏せながら、うっすらと微笑んでいる女性の容貌をまじまじと見上げたとき。私は不思議と、それこそが月女神本来の、祈り手によるいかなる解釈も含まない、まっさらな姿なのだと確信できた。
あるいは。これこそ、月女神が望む『神の御姿』なのだろう……と。
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