36 / 63
EP01「〔魔女獄門〕事変」
SCENE-035 >> そして、善を行うことと施しをすることとを、忘れてはいけない。神は、このようないけにえを喜ばれる。
しおりを挟む
――幼き女神があなたを注視しています。
AWOで、プレイヤーに『野良クエ』と呼ばれている類のクエストが発生するのは、いつだって唐突だ。
――ちりんっ。
小さな鈴でも鳴らしたような、実体のない音がして。私の視界の片隅に、たった今、発生したばかりのクエストに関するインフォメーションウィンドウが開かれる。
……こっちでは初クエじゃない? これ。
視界を遮らないよう小さく開いたウィンドウを目に付くところまで引っ張ってきて、拡大して。そこに羅列されたテキストに視線を走らせるまでが、条件反射と言っていいくらいの慣れた挙動だった。
[クエスト名『神の代理人として』
クエスト概要:幼き女神はあなたの助けを必要としています。幼き女神を助け、異邦の地とそこに暮らす人々へとその神威を知らしめましょう。
達成条件一、異邦の地に正しく神を祀り、祈りの場を調える。
達成条件二、神の代理人として、異邦の民と契約する。
達成条件三、神への正しい『祈り』を広める。
受注報酬:称号【代行者】
達成報酬:契約の地]
AWOには、何かしらのギルドやどこかしらの斡旋所、はたまた巷の掲示板などから能動的に、仕事として受注するクエストの他に、こうして否応なく巻き込まれるタイプのクエストもあって。
このタイミングで発生したクエストが、すぐそこでわだかまっている『闇』や、その根源である月女神にまったく関係ないなんてこと、あるわけがないのだけれど。
……うわぁ……。
クエスト情報をつぶさに読み込んだ私が、露骨に顔を顰めると。私個人を対象としたシステムアナウンス――幻世風に言うと『世界の声』――が聞こえず、電脳領域に開かれているウィンドウの類も見えていないカガリが「何かあった?」と、様子伺いの声をかけてくる。
「クエスト生えた……」
私がAWOを『よくできたゲーム』だと思っていた頃から、NPCのくせに賢いな、と面白がってあれこれ教えていたことが幸いして。カガリ――幻世産のモンスター――には、それだけで話が通じた。
「何かミリーによくない内容だったの?」
AWOには『地雷クエ』なんて呼ばれたりする、達成するとプレイヤーに不利益が生じるようなクエストも、ちょくちょくあって。
だからこそ、クエストが発生したらその場で内容を確認する、という地道な保身が重要になってくるわけだけど。
……これって、つまり私が代行者として取り持った『異邦の民との契約』によってもたらされる土地をもらえる、ってことよね……?
破格の報酬と言えば聞こえはいいが、どう考えても私の手には余る。『こういうクエストには気をつけましょうね』と、初心者プレイヤーへの教材に使ってもいいくらいの、見事な地雷クエだ。
「条件はともかく、報酬が重い」
「ペナルティがないなら無視したら?」
「うーん……」
……あの『闇』だけどうにかして、それ以外を無視するのは、確かにありかも?
一介のゲーマーとして、『クエスト』というものに対する義務感というか、達成しなければ、という意識を少なからず持っている私が、カガリの助言を受けて、クエストの『抜け道』について考えはじめた矢先。
ちりんっ、と。また、実体のない音がした。
――受注済みのクエスト内容が更新されました。
――更新されたクエスト内容を確認しますか? Y/N
……タイミング的に、嫌な予感しかしない……。
それでも確認しないわけにはいかない。
一旦閉じて、また開きなおしたウィンドウに目を走らせると。その内容は不信心な魔女とその使い魔の不届きな考えを見透かしたよう、私の逃げ道を念入りに塞ぐ形で更新されていた。
[クエスト名『神の代理人として』
クエスト概要:幼き女神はあなたの助けを必要としています。幼き女神を助け、異邦の地とそこに暮らす人々へとその神威を知らしめましょう。
達成条件一、異邦の地に正しく神を祀る。
達成条件二、神の代理人として、異邦の民と契約する。
受注報酬:称号【代行者】
達成報酬:契約の地 / 神造生物(無条件でテイム可能) ←New!]
「『New!』じゃないんだわ……」
条件を緩め、クエストの達成を容易にしたうえで報酬を足してくるというのは、斬新な脅迫方法だ。
報酬の規模が大きすぎると、なんとか受け取らない方向で済ませようと考えていた私には、それが覿面に効いてしまうわけで。
……やるしかないやつだ……。
これ以上は手に余るどころの話ではないと、私が腹を括ると。
その決意に応えるよう、再びのシステムアナウンスが。
――幼き女神により神威の代行者が指名されました。
――称号【オラクル】を獲得しました。
――称号【月女神の神子】の一部効果が、称号【オラクル】の効果に統合されます。
――称号【オラクル】の神威により、烙印【異端の魔女】の呪縛が消滅します。
//引用 ヘブル人への手紙 (口語訳)13:16
AWOで、プレイヤーに『野良クエ』と呼ばれている類のクエストが発生するのは、いつだって唐突だ。
――ちりんっ。
小さな鈴でも鳴らしたような、実体のない音がして。私の視界の片隅に、たった今、発生したばかりのクエストに関するインフォメーションウィンドウが開かれる。
……こっちでは初クエじゃない? これ。
視界を遮らないよう小さく開いたウィンドウを目に付くところまで引っ張ってきて、拡大して。そこに羅列されたテキストに視線を走らせるまでが、条件反射と言っていいくらいの慣れた挙動だった。
[クエスト名『神の代理人として』
クエスト概要:幼き女神はあなたの助けを必要としています。幼き女神を助け、異邦の地とそこに暮らす人々へとその神威を知らしめましょう。
達成条件一、異邦の地に正しく神を祀り、祈りの場を調える。
達成条件二、神の代理人として、異邦の民と契約する。
達成条件三、神への正しい『祈り』を広める。
受注報酬:称号【代行者】
達成報酬:契約の地]
AWOには、何かしらのギルドやどこかしらの斡旋所、はたまた巷の掲示板などから能動的に、仕事として受注するクエストの他に、こうして否応なく巻き込まれるタイプのクエストもあって。
このタイミングで発生したクエストが、すぐそこでわだかまっている『闇』や、その根源である月女神にまったく関係ないなんてこと、あるわけがないのだけれど。
……うわぁ……。
クエスト情報をつぶさに読み込んだ私が、露骨に顔を顰めると。私個人を対象としたシステムアナウンス――幻世風に言うと『世界の声』――が聞こえず、電脳領域に開かれているウィンドウの類も見えていないカガリが「何かあった?」と、様子伺いの声をかけてくる。
「クエスト生えた……」
私がAWOを『よくできたゲーム』だと思っていた頃から、NPCのくせに賢いな、と面白がってあれこれ教えていたことが幸いして。カガリ――幻世産のモンスター――には、それだけで話が通じた。
「何かミリーによくない内容だったの?」
AWOには『地雷クエ』なんて呼ばれたりする、達成するとプレイヤーに不利益が生じるようなクエストも、ちょくちょくあって。
だからこそ、クエストが発生したらその場で内容を確認する、という地道な保身が重要になってくるわけだけど。
……これって、つまり私が代行者として取り持った『異邦の民との契約』によってもたらされる土地をもらえる、ってことよね……?
破格の報酬と言えば聞こえはいいが、どう考えても私の手には余る。『こういうクエストには気をつけましょうね』と、初心者プレイヤーへの教材に使ってもいいくらいの、見事な地雷クエだ。
「条件はともかく、報酬が重い」
「ペナルティがないなら無視したら?」
「うーん……」
……あの『闇』だけどうにかして、それ以外を無視するのは、確かにありかも?
一介のゲーマーとして、『クエスト』というものに対する義務感というか、達成しなければ、という意識を少なからず持っている私が、カガリの助言を受けて、クエストの『抜け道』について考えはじめた矢先。
ちりんっ、と。また、実体のない音がした。
――受注済みのクエスト内容が更新されました。
――更新されたクエスト内容を確認しますか? Y/N
……タイミング的に、嫌な予感しかしない……。
それでも確認しないわけにはいかない。
一旦閉じて、また開きなおしたウィンドウに目を走らせると。その内容は不信心な魔女とその使い魔の不届きな考えを見透かしたよう、私の逃げ道を念入りに塞ぐ形で更新されていた。
[クエスト名『神の代理人として』
クエスト概要:幼き女神はあなたの助けを必要としています。幼き女神を助け、異邦の地とそこに暮らす人々へとその神威を知らしめましょう。
達成条件一、異邦の地に正しく神を祀る。
達成条件二、神の代理人として、異邦の民と契約する。
受注報酬:称号【代行者】
達成報酬:契約の地 / 神造生物(無条件でテイム可能) ←New!]
「『New!』じゃないんだわ……」
条件を緩め、クエストの達成を容易にしたうえで報酬を足してくるというのは、斬新な脅迫方法だ。
報酬の規模が大きすぎると、なんとか受け取らない方向で済ませようと考えていた私には、それが覿面に効いてしまうわけで。
……やるしかないやつだ……。
これ以上は手に余るどころの話ではないと、私が腹を括ると。
その決意に応えるよう、再びのシステムアナウンスが。
――幼き女神により神威の代行者が指名されました。
――称号【オラクル】を獲得しました。
――称号【月女神の神子】の一部効果が、称号【オラクル】の効果に統合されます。
――称号【オラクル】の神威により、烙印【異端の魔女】の呪縛が消滅します。
//引用 ヘブル人への手紙 (口語訳)13:16
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした
水の入ったペットボトル
SF
これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。
ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。
βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?
そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。
この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる