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EP01「〔魔女獄門〕事変」
SCENE-034
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これで最後と、五本目になるマナポーションを取り出そうとした手を、カガリがやんわり止めてくる。
「〔命名〕はもういいから、僕が〔魔力譲渡〕してあげる」
……それは、あれだ。
「知り合いに見られるの、恥ずかしいし、気まずいんだけど……」
「……そう?」
それなら見えないようにしてあげる、なんて。さも、それで問題なし、と言わんばかりの口振りで、なんの解決にもなっていないことを言いながら。
カガリの手がローブのフードを引っ張り上げて、私に被せた。
同時に、空いている手がローブの内側に入り込んできて。ローブの機能に甘えて薄着をしている私の腰を抱いてくる。
「キスじゃなくても〔魔力譲渡〕はできるのに。ミリーは欲しがりさんだね」
……あ。
私が逃げられないように、しっかりと捕まえてからそんなことを言い出したカガリは、したり顔で笑っていた。
「カガリだって絶対そのつもりだったくせに……!」
「まぁ、そうなんだけど」
そのまま。やっぱり普通のやり方がいいと、私が拒否する暇もなく。被せられたフードの中で、隠されているようでいて、周囲に対して何も誤魔化せていないキスをされる。
……んもう……。
そうなってしまえば、もう抵抗する理由もなくて。仕方がないなと、いつもの調子でカガリを許した私がきゅっ、と引き結んでいた唇を緩めると。待っていましたとばかり歯列を割ってきたカガリの舌が、〔魔力譲渡〕をするだけならそんなことをする必要も無いのに、口の中で慎ましくしていた私の舌を絡め取って、マナポーションの後味を啜るようにじゅるっ、と吸い上げた。
……そこまでしなくてもいいでしょ……!
どんっ、と抗議するよう胸を叩いても、カガリは知らん顔で。私の弱いところをくすぐってくる。
捕食生物としての本能なのか、こういう時に私が抵抗すればするほどカガリが余計にがっついてくるのは、経験上分かっていた。
だから、仕方なく。
誘惑に負けたとか、そういうことではなく。さっさと終わらせてほしい一心で。
お互いの隙間をなくそうと、抱き寄せようとしてくる腕にも抵抗するのをやめて、私が体を預けると。目を閉じていてもわかるくらい機嫌を良くしたカガリの魔力が、獲物を捕らえた蛇のよう全身へ纏わり付いてくる。
ユージンがすぐ傍にいるし、知り合いにだって見られているかもしれない状況への気まずさだとか、気恥ずかしさだとか。そういうのが気にならなくなるくらい、舌の付け根が痺れるほどのキスをされて。
体をすっかり骨抜きにされてしまった頃になって、ようやく。くっ、と顎を持ち上げられて。開いた喉に、とろりと甘い妖蜜が流し込まれた。
魔力をたっぷり含んだ『ハニースライムハニー』と〔魔力譲渡〕の合わせ技で、ごっそり減っていたMPが、元通りどころか、体から溢れるほどに満たされて。
ゲームで言うところのオーバーヒール状態になると、溢れてくる魔力のおかげで環境魔力由来のデバフから保護されることになり、〔命名〕をはじめる前から感じていた頭痛も、一時的なものにせよ、確かに和らいだ。
「〔命名〕はミリーの魔力でしてほしかったから。遅くなってごめんね」
踵が浮き上がるほどきつく抱き竦めていた私のことをすとん、と下ろして。ここぞとばかり、しおらしい顔をしたカガリが額に口づけてくる。
……頭痛がしてたの、気付いてたんだ。
不調の原因は魔力汚染一歩手前の魔力酔いだとわかっていたし、よりにもよって、その魔力が月女神――紛うことなき神性――のものだから。原因の方をなんとかしなければと、『闇』に対して直接、何か出来るわけでもない――この状況では戦力外と言われても仕方のない――自分のことは後回しにしていたわけだけど。
『闇』から漏れ出す魔力のせいで私の体が訴える不調に、カガリはとっくに気が付いていたらしい。
駄目押しのよう、魔力をインク、意識をペンの代わりにして描き出された印章が額に貼り付けられ。それが、私の体からカガリの魔力が流れ出していくスピードを遅くする。
……こういうの、得意じゃないのに。
私の手伝いをしながら色々と見聞きして、知識があるのはわかっていたけど。カガリの魔力は根本的に、この手の魔法に向いていない。
それでも。私の額に貼り付けられた印章は、即席で描いたものにしてはよく出来ていた。
「……ありがと」
なんだかくすぐったい気持ちになって。印章をつけられたあたりの前髪を、意味も無くちょこちょこ触っていると。見るからに、ではなく、顔を見るまでもなく機嫌の良さそうなカガリが、脱げかけていたフードを甲斐甲斐しい手つきで直した上から、私の頭にキスを落としてくる。
「どういたしまして」
僕の印章にはミリーの『おまじない』くらいの効果しかないんだけどね……なんて。そんなのは、まったく余計な謙遜だ。
さすがに、使い捨てのアミュレットくらいの効果は感じる。
「〔命名〕はもういいから、僕が〔魔力譲渡〕してあげる」
……それは、あれだ。
「知り合いに見られるの、恥ずかしいし、気まずいんだけど……」
「……そう?」
それなら見えないようにしてあげる、なんて。さも、それで問題なし、と言わんばかりの口振りで、なんの解決にもなっていないことを言いながら。
カガリの手がローブのフードを引っ張り上げて、私に被せた。
同時に、空いている手がローブの内側に入り込んできて。ローブの機能に甘えて薄着をしている私の腰を抱いてくる。
「キスじゃなくても〔魔力譲渡〕はできるのに。ミリーは欲しがりさんだね」
……あ。
私が逃げられないように、しっかりと捕まえてからそんなことを言い出したカガリは、したり顔で笑っていた。
「カガリだって絶対そのつもりだったくせに……!」
「まぁ、そうなんだけど」
そのまま。やっぱり普通のやり方がいいと、私が拒否する暇もなく。被せられたフードの中で、隠されているようでいて、周囲に対して何も誤魔化せていないキスをされる。
……んもう……。
そうなってしまえば、もう抵抗する理由もなくて。仕方がないなと、いつもの調子でカガリを許した私がきゅっ、と引き結んでいた唇を緩めると。待っていましたとばかり歯列を割ってきたカガリの舌が、〔魔力譲渡〕をするだけならそんなことをする必要も無いのに、口の中で慎ましくしていた私の舌を絡め取って、マナポーションの後味を啜るようにじゅるっ、と吸い上げた。
……そこまでしなくてもいいでしょ……!
どんっ、と抗議するよう胸を叩いても、カガリは知らん顔で。私の弱いところをくすぐってくる。
捕食生物としての本能なのか、こういう時に私が抵抗すればするほどカガリが余計にがっついてくるのは、経験上分かっていた。
だから、仕方なく。
誘惑に負けたとか、そういうことではなく。さっさと終わらせてほしい一心で。
お互いの隙間をなくそうと、抱き寄せようとしてくる腕にも抵抗するのをやめて、私が体を預けると。目を閉じていてもわかるくらい機嫌を良くしたカガリの魔力が、獲物を捕らえた蛇のよう全身へ纏わり付いてくる。
ユージンがすぐ傍にいるし、知り合いにだって見られているかもしれない状況への気まずさだとか、気恥ずかしさだとか。そういうのが気にならなくなるくらい、舌の付け根が痺れるほどのキスをされて。
体をすっかり骨抜きにされてしまった頃になって、ようやく。くっ、と顎を持ち上げられて。開いた喉に、とろりと甘い妖蜜が流し込まれた。
魔力をたっぷり含んだ『ハニースライムハニー』と〔魔力譲渡〕の合わせ技で、ごっそり減っていたMPが、元通りどころか、体から溢れるほどに満たされて。
ゲームで言うところのオーバーヒール状態になると、溢れてくる魔力のおかげで環境魔力由来のデバフから保護されることになり、〔命名〕をはじめる前から感じていた頭痛も、一時的なものにせよ、確かに和らいだ。
「〔命名〕はミリーの魔力でしてほしかったから。遅くなってごめんね」
踵が浮き上がるほどきつく抱き竦めていた私のことをすとん、と下ろして。ここぞとばかり、しおらしい顔をしたカガリが額に口づけてくる。
……頭痛がしてたの、気付いてたんだ。
不調の原因は魔力汚染一歩手前の魔力酔いだとわかっていたし、よりにもよって、その魔力が月女神――紛うことなき神性――のものだから。原因の方をなんとかしなければと、『闇』に対して直接、何か出来るわけでもない――この状況では戦力外と言われても仕方のない――自分のことは後回しにしていたわけだけど。
『闇』から漏れ出す魔力のせいで私の体が訴える不調に、カガリはとっくに気が付いていたらしい。
駄目押しのよう、魔力をインク、意識をペンの代わりにして描き出された印章が額に貼り付けられ。それが、私の体からカガリの魔力が流れ出していくスピードを遅くする。
……こういうの、得意じゃないのに。
私の手伝いをしながら色々と見聞きして、知識があるのはわかっていたけど。カガリの魔力は根本的に、この手の魔法に向いていない。
それでも。私の額に貼り付けられた印章は、即席で描いたものにしてはよく出来ていた。
「……ありがと」
なんだかくすぐったい気持ちになって。印章をつけられたあたりの前髪を、意味も無くちょこちょこ触っていると。見るからに、ではなく、顔を見るまでもなく機嫌の良さそうなカガリが、脱げかけていたフードを甲斐甲斐しい手つきで直した上から、私の頭にキスを落としてくる。
「どういたしまして」
僕の印章にはミリーの『おまじない』くらいの効果しかないんだけどね……なんて。そんなのは、まったく余計な謙遜だ。
さすがに、使い捨てのアミュレットくらいの効果は感じる。
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