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EP01「〔魔女獄門〕事変」
SCENE-033
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ユージンの指示を受けて、周囲に散らばっていたヘクセンシュウスのコントラクターたちが、めいめい移動の準備を始める。
その中に、ちらほらと動きの鈍いのがいて。
……あの人たちが、イユンクスのオタクくん?
ユージンをはじめとする『ヘクセンシュウスのコントラクター』を見慣れている私には、同じレイドジャケットを着ていても、彼らが部外者なんだな、というのがなんとなく見て取れた。
ユージンの目に付かないよう、ひらひらと手を振ってきた顔見知りに、私が何気なく手を振り返すと。
その手をぱしっ、と掴まれて。
「ミリー?」
浮気判定の厳しいカガリが、くっついていた背中から離れて私の正面へと回ってくる。
……あー……。
「何か手伝うこと、ある?」
「ミリーは僕のことだけ見てて」
空気読みに長けた連中は、カガリが威嚇の魔力を垂れ流しはじめると、私の目に留まりそうな場所からあっという間に捌けていった。
「……はぁい」
「あとは……」
おもむろに伸ばされたカガリの手が、ローブについている飾り石と、ローブの内側からアミュレットをいくつか、勝手知ったる手際で抜き取っていく。
「これ、借りるよ。後で元通りにして返すから」
……『身代わりのアミュレット』……。
ユージンの手前、口には出さなかったけど。カガリが選んだアミュレットは全て、その飾り石――アミュレットの『核』として嵌め込んだ、魔石代わりのアンバー――に『命』が宿っているもので。
アミュレットに嵌め込まれているアンバーを、カガリは装飾部分を壊さないよう器用に取り外して。アミュレットの残骸を自分の〔胃袋〕へしまうと、手元に残した五つのアンバーのうち、一つを私の手へと握らせてくる。
「名前をつけてくれる?」
……使役士として〔命名〕しろってこと?
「便宜上必要とか、そういう感じ?」
「そういう感じ」
だから適当な名前でいいよと言われて、考えることしばし。
……それなら、なんの捻りもなく番号でいいか。
「〔命名〕、アインス」
スキルをコールした途端、体の中からごっそりと魔力が抜けていく。
……成功した。
その手応えを、続けて聞こえてきたシステムアナウンスが肯定する。
――【ウィッチクラフター】バーミリオンにより〔ネーミング〕がコールされました。
――命名成功。
――【ウィッチクラフター】バーミリオンにより、サクリファイススライムは『アインス』と命名されました。
……犠牲?
ハニーでもアンバーでもなく、そんな、いかにも『身代わりのアミュレット』用です、と言わんばかりの種族名が付いていたのか、と。
これまで『身代わりのアミュレット』用のスライムに名付けなんてしたことがなかったから。今初めて知った事実に、目を瞬かせる。
……あ。
そんな私の手元で、カガリの魔力を〔結晶化〕させたアンバーがぱきっ、と割れて。
割れてしまったアンバーの中から溢れ出し、みるみる質量を増やしたサクリファイススライムが、ハニースライムだった頃のカガリと瓜二つの色をしたスライムボディを、瞬く間に鳥――それも、烏――の形へと〔変化〕させる。
……きれい……。
思わず見惚れてしまうほど美しい金烏は、あっという間に私の手元から飛び立っていった。
「はい、次」
力強く羽ばたき、すっぽりと『闇』に覆われた街へと向かい飛び去っていく姿を見送り、目の前で起きたことの余韻に浸る間もなく。カガリが次のアンバーを私に握らせてくる。
「…………」
たった一度の〔命名〕でごっそり失った魔力を補うため、インベントリから取り出したマナポーションを呷ると。公衆ネットではなく、専用回線に繋がった通信機越しに誰かとやり取りしながら私とカガリの傍に居座っているユージンが、完全後衛魔法職の魔力量でも一回毎に補給を必要とするほど消耗するのか……と、静かに目を瞠っているのが、視界の端にちらりと映った。
……カガリのスキルで作られた子スライムだから、『親』に引っ張られて、レベルは最低でも魔物としての位階が高いのよね……。
使役士が持つ〔命名〕スキルは、魔物と使役契約を結ぶためのもので。このスキルは、〔命名〕される側の位階や同意の有無によって、〔命名〕する側の消費魔力が変わってくる。
私も、プレイヤーの中では比較的高い方だろうけど。さすがに、分裂体を狩り場に放り込んで二十四時間三百六十五日、延々とレベリングを続けられるようなカガリには負けるので。実のところ、カガリによって〔托卵〕され、私がお腹を痛めて生み落とした子スライムと母体であるところの私は、万が一、子スライムの方から拒絶されたら〔命名〕は通らないだろうな、というほどには位階が変わらない。
そうでなければ、私に向けられた呪いを、私の代わりに子スライムがその身に受けて死ぬこともできないわけだけど。
さすがに、『身代わりのアミュレット』の作り方なんてものは虎の子もいいところなので。そういうわけなのよ、とユージンに説明するわけにもいかず。私は素知らぬ顔で、二つ目のアンバーへと意識を向けた。
「〔命名〕、ツヴァイ」
――【ウィッチクラフター】バーミリオンにより〔ネーミング〕がコールされました。
――命名成功。
――【ウィッチクラフター】バーミリオンにより、サクリファイススライムは『ツヴァイ』と命名されました。
二羽目の金烏が私の手元から飛び立ち、一羽目の後を追うよう『闇』に覆われた街へと向かい、飛び去っていく。
「はい、次」
スキルを一回使う毎にMP補給をしながら。完全に流れ作業で三つ目、四つ目と〔命名〕して。
最後、
「……〔命名〕、フュンフ」
――【ウィッチクラフター】バーミリオンにより〔ネーミング〕がコールされました。
――命名成功。
――【ウィッチクラフター】バーミリオンにより、サクリファイススライムは『フュンフ』と命名されました。
五つ目のアンバーへの〔命名〕を終える頃には。急激な魔力消費と回復を繰り返したせいで、ただでさえつきつきと痛んでいた頭はぐわんぐわんと、あまり気分のよろしくないことになっていた。
その中に、ちらほらと動きの鈍いのがいて。
……あの人たちが、イユンクスのオタクくん?
ユージンをはじめとする『ヘクセンシュウスのコントラクター』を見慣れている私には、同じレイドジャケットを着ていても、彼らが部外者なんだな、というのがなんとなく見て取れた。
ユージンの目に付かないよう、ひらひらと手を振ってきた顔見知りに、私が何気なく手を振り返すと。
その手をぱしっ、と掴まれて。
「ミリー?」
浮気判定の厳しいカガリが、くっついていた背中から離れて私の正面へと回ってくる。
……あー……。
「何か手伝うこと、ある?」
「ミリーは僕のことだけ見てて」
空気読みに長けた連中は、カガリが威嚇の魔力を垂れ流しはじめると、私の目に留まりそうな場所からあっという間に捌けていった。
「……はぁい」
「あとは……」
おもむろに伸ばされたカガリの手が、ローブについている飾り石と、ローブの内側からアミュレットをいくつか、勝手知ったる手際で抜き取っていく。
「これ、借りるよ。後で元通りにして返すから」
……『身代わりのアミュレット』……。
ユージンの手前、口には出さなかったけど。カガリが選んだアミュレットは全て、その飾り石――アミュレットの『核』として嵌め込んだ、魔石代わりのアンバー――に『命』が宿っているもので。
アミュレットに嵌め込まれているアンバーを、カガリは装飾部分を壊さないよう器用に取り外して。アミュレットの残骸を自分の〔胃袋〕へしまうと、手元に残した五つのアンバーのうち、一つを私の手へと握らせてくる。
「名前をつけてくれる?」
……使役士として〔命名〕しろってこと?
「便宜上必要とか、そういう感じ?」
「そういう感じ」
だから適当な名前でいいよと言われて、考えることしばし。
……それなら、なんの捻りもなく番号でいいか。
「〔命名〕、アインス」
スキルをコールした途端、体の中からごっそりと魔力が抜けていく。
……成功した。
その手応えを、続けて聞こえてきたシステムアナウンスが肯定する。
――【ウィッチクラフター】バーミリオンにより〔ネーミング〕がコールされました。
――命名成功。
――【ウィッチクラフター】バーミリオンにより、サクリファイススライムは『アインス』と命名されました。
……犠牲?
ハニーでもアンバーでもなく、そんな、いかにも『身代わりのアミュレット』用です、と言わんばかりの種族名が付いていたのか、と。
これまで『身代わりのアミュレット』用のスライムに名付けなんてしたことがなかったから。今初めて知った事実に、目を瞬かせる。
……あ。
そんな私の手元で、カガリの魔力を〔結晶化〕させたアンバーがぱきっ、と割れて。
割れてしまったアンバーの中から溢れ出し、みるみる質量を増やしたサクリファイススライムが、ハニースライムだった頃のカガリと瓜二つの色をしたスライムボディを、瞬く間に鳥――それも、烏――の形へと〔変化〕させる。
……きれい……。
思わず見惚れてしまうほど美しい金烏は、あっという間に私の手元から飛び立っていった。
「はい、次」
力強く羽ばたき、すっぽりと『闇』に覆われた街へと向かい飛び去っていく姿を見送り、目の前で起きたことの余韻に浸る間もなく。カガリが次のアンバーを私に握らせてくる。
「…………」
たった一度の〔命名〕でごっそり失った魔力を補うため、インベントリから取り出したマナポーションを呷ると。公衆ネットではなく、専用回線に繋がった通信機越しに誰かとやり取りしながら私とカガリの傍に居座っているユージンが、完全後衛魔法職の魔力量でも一回毎に補給を必要とするほど消耗するのか……と、静かに目を瞠っているのが、視界の端にちらりと映った。
……カガリのスキルで作られた子スライムだから、『親』に引っ張られて、レベルは最低でも魔物としての位階が高いのよね……。
使役士が持つ〔命名〕スキルは、魔物と使役契約を結ぶためのもので。このスキルは、〔命名〕される側の位階や同意の有無によって、〔命名〕する側の消費魔力が変わってくる。
私も、プレイヤーの中では比較的高い方だろうけど。さすがに、分裂体を狩り場に放り込んで二十四時間三百六十五日、延々とレベリングを続けられるようなカガリには負けるので。実のところ、カガリによって〔托卵〕され、私がお腹を痛めて生み落とした子スライムと母体であるところの私は、万が一、子スライムの方から拒絶されたら〔命名〕は通らないだろうな、というほどには位階が変わらない。
そうでなければ、私に向けられた呪いを、私の代わりに子スライムがその身に受けて死ぬこともできないわけだけど。
さすがに、『身代わりのアミュレット』の作り方なんてものは虎の子もいいところなので。そういうわけなのよ、とユージンに説明するわけにもいかず。私は素知らぬ顔で、二つ目のアンバーへと意識を向けた。
「〔命名〕、ツヴァイ」
――【ウィッチクラフター】バーミリオンにより〔ネーミング〕がコールされました。
――命名成功。
――【ウィッチクラフター】バーミリオンにより、サクリファイススライムは『ツヴァイ』と命名されました。
二羽目の金烏が私の手元から飛び立ち、一羽目の後を追うよう『闇』に覆われた街へと向かい、飛び去っていく。
「はい、次」
スキルを一回使う毎にMP補給をしながら。完全に流れ作業で三つ目、四つ目と〔命名〕して。
最後、
「……〔命名〕、フュンフ」
――【ウィッチクラフター】バーミリオンにより〔ネーミング〕がコールされました。
――命名成功。
――【ウィッチクラフター】バーミリオンにより、サクリファイススライムは『フュンフ』と命名されました。
五つ目のアンバーへの〔命名〕を終える頃には。急激な魔力消費と回復を繰り返したせいで、ただでさえつきつきと痛んでいた頭はぐわんぐわんと、あまり気分のよろしくないことになっていた。
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