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EP01「〔魔女獄門〕事変」
SCENE-015 >> 創造を司る月
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昨日一日、外へ出ずっぱりだったわりに、思っていたほど体調が悪くならなかったのは、現世にステータスシステムが実装された影響なのか。
それとも、カガリが事あるごとにエロめのキスをしてくるせいなのか。
「……ん。もう良さそうだね」
アンバースライムに進化する前、ハニースライムだった頃の名残で、カガリの体液には若干の治癒効果がある。
昨日のお風呂上がりに絆創膏よろしく張り付けられたスライムが剥がされると。半日ほどスライムでパックされていたうえ、まともに歩くこともなかった足の裏の状態は、すっかり良くなっていた。
歩きすぎて全体的に赤くなっていたのが薄ピンク色くらいにまで落ち着いているし、カガリが気にしていた水膨れも、痕が残るどころか、どこにあったのかわからなくなるほど綺麗に治っていて。これにはカガリも満足気だ。
「もう歩いていい?」
「いいよ。でも、今度は水膨れになる前に、足が痛くなったらすぐ教えてね」
「はいはい」
ようやくカガリのお許しが出て。掴まれていた足を引っ込めた私が立ち上がると。絆創膏代わりに使っていた手の平大のスライムを、人を駄目にするサイズ感のスライムクッションにぺちっ、と投げ込んだカガリも立ち上がって、私の後ろをついてきた。
……カルガモか?
「ミリー、どこ行くの?」
「んー?」
どこだろうねぇと生返事をしながら、私がキッチンに立つと。カガリは露骨に目を輝かせた。
「何か作るの?」
「よく考えたら、こっちでもスキルが使えるようになったんだから、料理もできるような気がしてきた」
それでも、私一人だったらわざわざ料理なんてしようとは思わなかっただろうけど。今はカガリがいるので。
リアルにAWO式のステータスシステムが実装されて、何ができるようになったのか。その検証も兼ねて……という建前で、辛うじてやる気が出た次第。
「――ハンバーグを作ります」
インベントリから取り出した錬金アイテム『魔女の大釜』を、キッチンの作業スペースにどんっ、と置くと。カガリは一瞬「えっ」という顔をして。
「……まぁ、いいか。ミリーがちゃんとした食事をとってくれるなら……」
まるで、背に腹はかえられない、と言わんばかり。
自分自身を納得させるようそう呟くと。何食わぬ顔で、『魔女の大釜』の前に立っている私に、媚びるような態度ですり寄ってきた。
「何か手伝うこと、ある? 向こうから、ミリーが『そろそろ片付けないと……』ってぼやいてた熟成肉でも取ってこようか?」
「……そんなのあったっけ?」
カガリが『魔女の大釜』を見て、ちょっと嫌そうな顔をした理由には心当たりがあったので、あえて藪をつつくような真似はしないでおく。
「うん。まぁ、仮に食べ頃を過ぎても僕が片付けちゃうから、いいんだけどね」
バーミリオンの『ホーム』はいかにもな魔女っぽく、そこそこ深い森の中にあるので。街から遠くて不便なことへの埋め合わせのごとく、ありとあらゆる『森の恵み』に事欠かない。
そういう恵まれた環境に、私の物臭な性根が合わさると、極めて雑食性のカガリが堆肥を生成しないタイプのコンポスターとして活躍するような事態になってしまうわけで。
「よくないから。その肉を一塊と、あと食器も取ってきて」
「肉と皿だね。わかった」
いちいち確認したりはしなかったけど。案の定、その本性がスライムであることを活かし、カガリはスキルで〔分裂〕した体の一部を幻世に残してきているらしい。
インベントリ代わりに使える〔胃袋〕に加えて、〔遍在〕スキルも持っているカガリは、幻世に残してきた分裂体が〔胃袋〕に取り込んだものを、現世で私の傍にいる本体が自分の〔胃袋〕から取り出す、なんてこともできてしまう。便利な使い魔だ。
「サラダの材料は僕が菜園から適当に見繕ってくるよ。パンはミリーのインベントリに買い置きがあるよね? スープはどうする? ミリーが面倒なら、それくらいは僕が作ろうか?」
「えー……?」
私から見えないように、後ろ手でごそごそやって。まるで手品のよう二人分の食器と油紙に包まれた塊肉を取り出して見せたカガリが、さも当然のよう品数を増やそうとしてくるので。今度は私が露骨に顔を顰めて見せる番だった。
「スープは、まぁ……インスタントのスクロールがあるから、用意するのは構わないけど。正直そんなに食べられないと思う……」
「それなら、食べられるだけ食べてくれたらいいよ。残りは僕が片付けてあげるから。ミリーが作りすぎたときはいつもそうしてるよね?」
それは確かに、その通りなので。私はスープ用のスクロールも取り出して、『魔女の大釜』の隣に転がした。
それとも、カガリが事あるごとにエロめのキスをしてくるせいなのか。
「……ん。もう良さそうだね」
アンバースライムに進化する前、ハニースライムだった頃の名残で、カガリの体液には若干の治癒効果がある。
昨日のお風呂上がりに絆創膏よろしく張り付けられたスライムが剥がされると。半日ほどスライムでパックされていたうえ、まともに歩くこともなかった足の裏の状態は、すっかり良くなっていた。
歩きすぎて全体的に赤くなっていたのが薄ピンク色くらいにまで落ち着いているし、カガリが気にしていた水膨れも、痕が残るどころか、どこにあったのかわからなくなるほど綺麗に治っていて。これにはカガリも満足気だ。
「もう歩いていい?」
「いいよ。でも、今度は水膨れになる前に、足が痛くなったらすぐ教えてね」
「はいはい」
ようやくカガリのお許しが出て。掴まれていた足を引っ込めた私が立ち上がると。絆創膏代わりに使っていた手の平大のスライムを、人を駄目にするサイズ感のスライムクッションにぺちっ、と投げ込んだカガリも立ち上がって、私の後ろをついてきた。
……カルガモか?
「ミリー、どこ行くの?」
「んー?」
どこだろうねぇと生返事をしながら、私がキッチンに立つと。カガリは露骨に目を輝かせた。
「何か作るの?」
「よく考えたら、こっちでもスキルが使えるようになったんだから、料理もできるような気がしてきた」
それでも、私一人だったらわざわざ料理なんてしようとは思わなかっただろうけど。今はカガリがいるので。
リアルにAWO式のステータスシステムが実装されて、何ができるようになったのか。その検証も兼ねて……という建前で、辛うじてやる気が出た次第。
「――ハンバーグを作ります」
インベントリから取り出した錬金アイテム『魔女の大釜』を、キッチンの作業スペースにどんっ、と置くと。カガリは一瞬「えっ」という顔をして。
「……まぁ、いいか。ミリーがちゃんとした食事をとってくれるなら……」
まるで、背に腹はかえられない、と言わんばかり。
自分自身を納得させるようそう呟くと。何食わぬ顔で、『魔女の大釜』の前に立っている私に、媚びるような態度ですり寄ってきた。
「何か手伝うこと、ある? 向こうから、ミリーが『そろそろ片付けないと……』ってぼやいてた熟成肉でも取ってこようか?」
「……そんなのあったっけ?」
カガリが『魔女の大釜』を見て、ちょっと嫌そうな顔をした理由には心当たりがあったので、あえて藪をつつくような真似はしないでおく。
「うん。まぁ、仮に食べ頃を過ぎても僕が片付けちゃうから、いいんだけどね」
バーミリオンの『ホーム』はいかにもな魔女っぽく、そこそこ深い森の中にあるので。街から遠くて不便なことへの埋め合わせのごとく、ありとあらゆる『森の恵み』に事欠かない。
そういう恵まれた環境に、私の物臭な性根が合わさると、極めて雑食性のカガリが堆肥を生成しないタイプのコンポスターとして活躍するような事態になってしまうわけで。
「よくないから。その肉を一塊と、あと食器も取ってきて」
「肉と皿だね。わかった」
いちいち確認したりはしなかったけど。案の定、その本性がスライムであることを活かし、カガリはスキルで〔分裂〕した体の一部を幻世に残してきているらしい。
インベントリ代わりに使える〔胃袋〕に加えて、〔遍在〕スキルも持っているカガリは、幻世に残してきた分裂体が〔胃袋〕に取り込んだものを、現世で私の傍にいる本体が自分の〔胃袋〕から取り出す、なんてこともできてしまう。便利な使い魔だ。
「サラダの材料は僕が菜園から適当に見繕ってくるよ。パンはミリーのインベントリに買い置きがあるよね? スープはどうする? ミリーが面倒なら、それくらいは僕が作ろうか?」
「えー……?」
私から見えないように、後ろ手でごそごそやって。まるで手品のよう二人分の食器と油紙に包まれた塊肉を取り出して見せたカガリが、さも当然のよう品数を増やそうとしてくるので。今度は私が露骨に顔を顰めて見せる番だった。
「スープは、まぁ……インスタントのスクロールがあるから、用意するのは構わないけど。正直そんなに食べられないと思う……」
「それなら、食べられるだけ食べてくれたらいいよ。残りは僕が片付けてあげるから。ミリーが作りすぎたときはいつもそうしてるよね?」
それは確かに、その通りなので。私はスープ用のスクロールも取り出して、『魔女の大釜』の隣に転がした。
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