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EP01「〔魔女獄門〕事変」
CENE-011 >> 帰宅
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マンションの車寄せでタクシーを降りてから家に帰るまでの間、誰とも出会さずに済んで、なんとなくほっとしてしまう。
……男を連れ込むのを見られたって、困ることはないはずなんだけど……。
そのあたりの複雑な心境は、同じマンションにちょこちょこ顔見知りが住んでいるのが悪いのだ、ということにしておいて。玄関へ押し込んだカガリに靴を脱がせる。
「カガリ、この家土禁だから。靴はここで脱いでから上がって」
カガリが身に付けているものは、特別な装備を除いて、そのほとんどがカガリ自身の〔変化〕によるものだから。靴を脱ぐと言っても、カガリが『靴に〔変化〕させている体の一部』を元のスライムボディに戻すか、それが〔増殖〕で嵩増した分なら元の魔力に還元するだけでいいわけだけど。
今日のカガリは人の振りをするように、という私の指示を律儀に守って、履いていた靴をことん、と脱ぎ落とし、玄関の土間からリビングへと続く廊下に上がっていった。
「とりあえず、私はお風呂に入ってくるから。カガリはリビングにでもいて。この中なら自由にしていいし、〔擬態〕も好きに解いていいけど、玄関から外には出ないでね。さっきも説明したけど、ここ、他にも人が住んでる集合住宅だから」
「ミリーと一緒にお風呂は? いつもみたいに洗ってあげるよ?」
カガリから目を離すことにそこはかとなく不安を感じている私が、あれこれ注文を付けていると。「それなら目を離さなければいいんじゃない?」と、カガリが提案してくる。
「別にいいけど……」
それもそうかと頷きかけて。何一つ良くはないことに、なかなか脱げないブーツと格闘している途中で、はたと気が付いた。
「いや、やっぱりよくない。『バーミリオン』とは違うから。こっちの体で一緒にお風呂は無理。カガリの前で脱ぎたくない」
私が自分の好みを詰め込んでクリエイトした『バーミリオン』と比べてしまえば、色々と足りないものがありすぎるリアルの体を見下ろすと、さすがにこれはないな、という気持ちが今更ながらに湧いてくる。
……AWOのアバター整形チケットって、リアルの体にも使えたりしないのかな……。
〔魔力感知〕を持つカガリのこれだけ近くにいれば、服を着ているかどうかなんて大した違いではないのだと、わかってはいるものの。
バーミリオンの裸を見慣れているカガリにチビで痩せっぽちの体を見られるのは恥ずかしい、と思うくらいの女心は、私にだってあるわけで。
「それだと、こっちのミリーは僕とキスしかしてくれないってこと?」
……極論、そういうことになる。
真顔で頷こうとした私の顔を、カガリはがしっ、と鷲掴みにした。
「ミリー?」
笑っているけど、笑っていない。
カガリがそういう顔で殊更甘く私を呼ぶときは、大抵、私が何を言っても取り合ってもらえない。
「なによ……」
自分でも「これは駄目なやつだな……」と薄々わかっていながら返事をするのは、とりわけ今日のような、気持ちはともかく体の方が疲れきっているタイミングでは、なけなしの気力を消耗する、できれば避けたい行動だった。
だからといって、だんまりを決め込んだところで状況が好転するわけもなく。徒労に終わるとわかっていても、何も言わずにいることなんてできやしないわけだけど。
「僕はこっちのミリーの『初めて』も全部欲しいなぁ」
「少しは下心を隠しなさいよ……」
……ファーストキスに失敗したくらいで泣きそうになってたくせに……。
タクシーの中での出来事を踏まえた私が呆れの滲んだ目を向けても、カガリは涼しい顔で。半ば掴み上げるよう自分の方を向かせている私の、不満気に尖った口先をあむっ、と啄んでくる。
「こっちのミリーも僕じゃないと満足できなくなるくらい気持ち良くしてあげるから、期待しててね」
不本意ながら。カガリのこの手の誘惑に、私が最後まで抗えた例しはない。
……これが『惚れた弱み』ってやつ……?
まったく顔がいいんだからと、私が吐き出す溜め息に、勝利を確信したカガリが心底嬉しそうに笑って見せるから。毎度のよう、仕方がないなとカガリを許してしまう、私にだって悪いところはあるのだろうけど。
「アバターと生身の体は色々と勝手が違うんだから、あんまり無茶なことはしないでよ……?」
今はもう、カガリは私の愛玩魔物ではないし、私もカガリの飼い主というわけではない。
だから、これはそういうことではないのだと。私は自分がペットの躾に失敗したかもしれない、という事実から目を背けるよう、目を伏せた。
「あと、そういうことをするにしても、疲れてるから今日は無理」
もうどうにでもして、というわかりやすポーズに、私の顎を掴んでいた手をぱっ、と放し、正面から抱きついてきたカガリがこれでもかと甘ったるい声を出す。
「もちろん今すぐになんて、そんなことは言わないよ。ミリーが気持ち良くなれるようにちゃんと準備するから、安心して」
むしろ安心できなくなるようなことを言われて。この色惚け魔物をどうしたものかと、思わず溜め息が漏れた。
……男を連れ込むのを見られたって、困ることはないはずなんだけど……。
そのあたりの複雑な心境は、同じマンションにちょこちょこ顔見知りが住んでいるのが悪いのだ、ということにしておいて。玄関へ押し込んだカガリに靴を脱がせる。
「カガリ、この家土禁だから。靴はここで脱いでから上がって」
カガリが身に付けているものは、特別な装備を除いて、そのほとんどがカガリ自身の〔変化〕によるものだから。靴を脱ぐと言っても、カガリが『靴に〔変化〕させている体の一部』を元のスライムボディに戻すか、それが〔増殖〕で嵩増した分なら元の魔力に還元するだけでいいわけだけど。
今日のカガリは人の振りをするように、という私の指示を律儀に守って、履いていた靴をことん、と脱ぎ落とし、玄関の土間からリビングへと続く廊下に上がっていった。
「とりあえず、私はお風呂に入ってくるから。カガリはリビングにでもいて。この中なら自由にしていいし、〔擬態〕も好きに解いていいけど、玄関から外には出ないでね。さっきも説明したけど、ここ、他にも人が住んでる集合住宅だから」
「ミリーと一緒にお風呂は? いつもみたいに洗ってあげるよ?」
カガリから目を離すことにそこはかとなく不安を感じている私が、あれこれ注文を付けていると。「それなら目を離さなければいいんじゃない?」と、カガリが提案してくる。
「別にいいけど……」
それもそうかと頷きかけて。何一つ良くはないことに、なかなか脱げないブーツと格闘している途中で、はたと気が付いた。
「いや、やっぱりよくない。『バーミリオン』とは違うから。こっちの体で一緒にお風呂は無理。カガリの前で脱ぎたくない」
私が自分の好みを詰め込んでクリエイトした『バーミリオン』と比べてしまえば、色々と足りないものがありすぎるリアルの体を見下ろすと、さすがにこれはないな、という気持ちが今更ながらに湧いてくる。
……AWOのアバター整形チケットって、リアルの体にも使えたりしないのかな……。
〔魔力感知〕を持つカガリのこれだけ近くにいれば、服を着ているかどうかなんて大した違いではないのだと、わかってはいるものの。
バーミリオンの裸を見慣れているカガリにチビで痩せっぽちの体を見られるのは恥ずかしい、と思うくらいの女心は、私にだってあるわけで。
「それだと、こっちのミリーは僕とキスしかしてくれないってこと?」
……極論、そういうことになる。
真顔で頷こうとした私の顔を、カガリはがしっ、と鷲掴みにした。
「ミリー?」
笑っているけど、笑っていない。
カガリがそういう顔で殊更甘く私を呼ぶときは、大抵、私が何を言っても取り合ってもらえない。
「なによ……」
自分でも「これは駄目なやつだな……」と薄々わかっていながら返事をするのは、とりわけ今日のような、気持ちはともかく体の方が疲れきっているタイミングでは、なけなしの気力を消耗する、できれば避けたい行動だった。
だからといって、だんまりを決め込んだところで状況が好転するわけもなく。徒労に終わるとわかっていても、何も言わずにいることなんてできやしないわけだけど。
「僕はこっちのミリーの『初めて』も全部欲しいなぁ」
「少しは下心を隠しなさいよ……」
……ファーストキスに失敗したくらいで泣きそうになってたくせに……。
タクシーの中での出来事を踏まえた私が呆れの滲んだ目を向けても、カガリは涼しい顔で。半ば掴み上げるよう自分の方を向かせている私の、不満気に尖った口先をあむっ、と啄んでくる。
「こっちのミリーも僕じゃないと満足できなくなるくらい気持ち良くしてあげるから、期待しててね」
不本意ながら。カガリのこの手の誘惑に、私が最後まで抗えた例しはない。
……これが『惚れた弱み』ってやつ……?
まったく顔がいいんだからと、私が吐き出す溜め息に、勝利を確信したカガリが心底嬉しそうに笑って見せるから。毎度のよう、仕方がないなとカガリを許してしまう、私にだって悪いところはあるのだろうけど。
「アバターと生身の体は色々と勝手が違うんだから、あんまり無茶なことはしないでよ……?」
今はもう、カガリは私の愛玩魔物ではないし、私もカガリの飼い主というわけではない。
だから、これはそういうことではないのだと。私は自分がペットの躾に失敗したかもしれない、という事実から目を背けるよう、目を伏せた。
「あと、そういうことをするにしても、疲れてるから今日は無理」
もうどうにでもして、というわかりやすポーズに、私の顎を掴んでいた手をぱっ、と放し、正面から抱きついてきたカガリがこれでもかと甘ったるい声を出す。
「もちろん今すぐになんて、そんなことは言わないよ。ミリーが気持ち良くなれるようにちゃんと準備するから、安心して」
むしろ安心できなくなるようなことを言われて。この色惚け魔物をどうしたものかと、思わず溜め息が漏れた。
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