9 / 63
EP01「〔魔女獄門〕事変」
SCENE-008
しおりを挟む
カガリのステータスで力いっぱい抱きしめられると、今の私にAWOでのステータス――主に耐久面――が反映されていたとしても全身骨折からの内臓破裂は免れないだろうことから、充分手加減されているとわかる苦しさに甘んじていると。そのうち、地上でわいわいやっているプレイヤーの中から飛び出した小柄な大剣使いが、〔天駆〕スキルを使い空へと駆け上がっていった。
「ようやくか」
剥ぎ取りをしても素材としては二束三文にしかならないだろうな、というほど傷付いて。離脱時の速度も、舞い上がった時の高度も順調に落ちてきていたワイバーンが空を駆ける大剣使いに追いつかれ、片翼を根元からざっくり斬り落とされると。やれやれと言わんばかり呟いたユージンが、墜落するワイバーンの姿を最後まで見届けることもなく、くるりと踵を返して歩き出す。
「ジーン?」
どこ行くの、と声をかける私に、ユージンはその肩越し、こちらを振り返りもせずひらりと手を振り返した。
「仕事だ。お前はそいつと帰れ」
……ひきこもりと、世界規模で世間知らずなモンスターのペアで?
「えぇ……?」
いきなりすごい無茶振りしてくるな……と、私が何もわかっていなさそうなカガリと顔を見合わせているうちに。ユージンは人混みに紛れ、私を置いて行ってしまう。
急な予定の変更。それ自体は、ユージンの仕事柄珍しいことではない。
それはそれとして。せっかくの休みに仕事の連絡を受けて、ユージンが舌打ちの一つも零さないまま、すんなり出かけて行った、というのが違和感で。
……まさか……。
むしろ、最初からその予定だった、と言われた方が納得できるユージンの態度から色々と察しがついてしまったのは、偏に、義理の兄妹としての付き合いの長さの賜物だろう。
別に気付きたくもなかったけど。
ユージンが勤めているヘクセンシュウスは、イユンクスと同じマレウス・マレフィカルム社のグループ企業だ。
グループ全体の警備業務を担っているヘクセンシュウスで、それなりの要職に就いているらしいユージンが何も知らなかったと考えるより、今日ここで起きることを知っていて、その上で私にくっついてきていた、と考える方が余程自然で。
なんならこの手のカモフラージュというか、仕事の下見や、ユージンが一人ではまず行かないような場所へ入り込む口実に使われるのは、これが初めてのことでもない。
……こんなふうに途中で放り出されるのは、さすがに初めてだけど……。
「家まで帰り着かなかったらどうしてくれるのよ……」
カガリがいればどうにかなる――というか、カガリがどうにかする――だろうと思われていることにも、なんとなく察しがついてしまって。思わず溜め息が零れ出た。
「ミリー?」
「とりあえず、カガリは私がいいって言うまで〔擬態〕を解くの禁止ね」
「うん。……人の振りをしてればいいの?」
「そういうこと」
物分かりのいいカガリの頭をさらりと撫でて。今度は面倒臭さが前面に出た溜め息を吐き落とす。
「帰りもジーンのバイクに乗せてもらうつもりだったから、なんの準備もしてない……今からタクシー呼んで乗れるかな……?」
「ようやくか」
剥ぎ取りをしても素材としては二束三文にしかならないだろうな、というほど傷付いて。離脱時の速度も、舞い上がった時の高度も順調に落ちてきていたワイバーンが空を駆ける大剣使いに追いつかれ、片翼を根元からざっくり斬り落とされると。やれやれと言わんばかり呟いたユージンが、墜落するワイバーンの姿を最後まで見届けることもなく、くるりと踵を返して歩き出す。
「ジーン?」
どこ行くの、と声をかける私に、ユージンはその肩越し、こちらを振り返りもせずひらりと手を振り返した。
「仕事だ。お前はそいつと帰れ」
……ひきこもりと、世界規模で世間知らずなモンスターのペアで?
「えぇ……?」
いきなりすごい無茶振りしてくるな……と、私が何もわかっていなさそうなカガリと顔を見合わせているうちに。ユージンは人混みに紛れ、私を置いて行ってしまう。
急な予定の変更。それ自体は、ユージンの仕事柄珍しいことではない。
それはそれとして。せっかくの休みに仕事の連絡を受けて、ユージンが舌打ちの一つも零さないまま、すんなり出かけて行った、というのが違和感で。
……まさか……。
むしろ、最初からその予定だった、と言われた方が納得できるユージンの態度から色々と察しがついてしまったのは、偏に、義理の兄妹としての付き合いの長さの賜物だろう。
別に気付きたくもなかったけど。
ユージンが勤めているヘクセンシュウスは、イユンクスと同じマレウス・マレフィカルム社のグループ企業だ。
グループ全体の警備業務を担っているヘクセンシュウスで、それなりの要職に就いているらしいユージンが何も知らなかったと考えるより、今日ここで起きることを知っていて、その上で私にくっついてきていた、と考える方が余程自然で。
なんならこの手のカモフラージュというか、仕事の下見や、ユージンが一人ではまず行かないような場所へ入り込む口実に使われるのは、これが初めてのことでもない。
……こんなふうに途中で放り出されるのは、さすがに初めてだけど……。
「家まで帰り着かなかったらどうしてくれるのよ……」
カガリがいればどうにかなる――というか、カガリがどうにかする――だろうと思われていることにも、なんとなく察しがついてしまって。思わず溜め息が零れ出た。
「ミリー?」
「とりあえず、カガリは私がいいって言うまで〔擬態〕を解くの禁止ね」
「うん。……人の振りをしてればいいの?」
「そういうこと」
物分かりのいいカガリの頭をさらりと撫でて。今度は面倒臭さが前面に出た溜め息を吐き落とす。
「帰りもジーンのバイクに乗せてもらうつもりだったから、なんの準備もしてない……今からタクシー呼んで乗れるかな……?」
0
お気に入りに追加
21
あなたにおすすめの小説
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜
霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……?
生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。
これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。
(小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
やっと買ったマイホームの半分だけ異世界に転移してしまった
ぽてゆき
ファンタジー
涼坂直樹は可愛い妻と2人の子供のため、頑張って働いた結果ついにマイホームを手に入れた。
しかし、まさかその半分が異世界に転移してしまうとは……。
リビングの窓を開けて外に飛び出せば、そこはもう魔法やダンジョンが存在するファンタジーな異世界。
現代のごくありふれた4人(+猫1匹)家族と、異世界の住人との交流を描いたハートフルアドベンチャー物語!
[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!
どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入!
舐めた奴らに、真実が牙を剥く!
何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ?
しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない?
訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、
なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト!
そして…わかってくる、この異世界の異常性。
出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。
主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。
相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。
ハーレム要素は、不明とします。
復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。
追記
2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。
8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。
2024/02/23
アルファポリスオンリーを解除しました。

最前線攻略に疲れた俺は、新作VRMMOを最弱職業で楽しむことにした
水の入ったペットボトル
SF
これまであらゆるMMOを最前線攻略してきたが、もう俺(大川優磨)はこの遊び方に満足してしまった。いや、もう楽しいとすら思えない。
ゲームは楽しむためにするものだと思い出した俺は、新作VRMMOを最弱職業『テイマー』で始めることに。
βテストでは最弱職業だと言われていたテイマーだが、主人公の活躍によって評価が上がっていく?
そんな周りの評価など関係なしに、今日も主人公は楽しむことに全力を出す。
この作品は「カクヨム」様、「小説家になろう」様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる