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思い出し笑いならぬ、思い出し不機嫌。
不快な記憶を反芻して、一人で勝手に機嫌を悪くしている伊月。傍から見ている分には白のことを甚振って遊んでいるようにしか見えない姉の手元で、ぬいぐるみ然とした「ペット」を抱える腕の力が徐々に増していき、じわじわと締め上げられている銀鱗の小竜が居心地悪そうに身動ぐのを、鏡夜は景色でも眺めるようぼんやり視界に捉えていた。
後ろめたいことがあるから、黙って締め上げられるがまま、藪をつつき火に油を注ぐような真似をしないよう大人しく息をひそめているのだろうと。鏡夜には不思議と、まともに話したこともない「ペット」の心境が手に取るようにわかる。
鏡夜個人の知識や経験に基づかない感覚は、お互いの「繋がり」を断ち切られてしまえば生き長らえることも難しいほど深く強固に結びついた片割れの認識によるものだろうから。本当のところ、無意識の域で混ざり合う感覚を当然と生きてきた鏡夜にとっては不思議でもなんでもなかったが。
「どのみち、日代は終わりよ。襲が国津神でなくなるのなら、神子から『日代の女が産んだ双子』に成り下がる私たちをあの家が放っておくはずもない。そうなれば私の『ペット』が黙っていないし、それでなくとも……」
すっかり顔色を青ざめさせた白から、伊月の視線がついっ、と逸れる。
「〔倭〕の王として、この私が、日代の馬鹿げた思い上がりを許しはしない」
二人からそう離れていない場所に現れていた少女は、どこか誇らしげに自らの王へと頭を垂れた。
「我が主さまの仰せのままに」
王が理想を示し、王樹が形を整え、民がその恩恵を享受する。
それがこの世界、〔アングルボダ〕における「国」の正しい在り方だと。それくらいのことは、政に関心の無い鏡夜でさえ知っていた。
〔倭〕が自らの主人と額ずく伊月。倭樹が根を張るこの国で、扶桑樹とその王さえ顎で使うような女のいったい何を、誰がどうして害せよう。
「この際だから、言っておくけれど。徒人の王に捧げられた徒人のための箱庭で無辜の民に仇為すものを、私は決して許しはしない」
伊月が王として示したその「道」がそれほど悪くないもののよう思えてしまうのは、鏡夜が伊月の「片割れ」である限り、どうしようもないことだった。
不快な記憶を反芻して、一人で勝手に機嫌を悪くしている伊月。傍から見ている分には白のことを甚振って遊んでいるようにしか見えない姉の手元で、ぬいぐるみ然とした「ペット」を抱える腕の力が徐々に増していき、じわじわと締め上げられている銀鱗の小竜が居心地悪そうに身動ぐのを、鏡夜は景色でも眺めるようぼんやり視界に捉えていた。
後ろめたいことがあるから、黙って締め上げられるがまま、藪をつつき火に油を注ぐような真似をしないよう大人しく息をひそめているのだろうと。鏡夜には不思議と、まともに話したこともない「ペット」の心境が手に取るようにわかる。
鏡夜個人の知識や経験に基づかない感覚は、お互いの「繋がり」を断ち切られてしまえば生き長らえることも難しいほど深く強固に結びついた片割れの認識によるものだろうから。本当のところ、無意識の域で混ざり合う感覚を当然と生きてきた鏡夜にとっては不思議でもなんでもなかったが。
「どのみち、日代は終わりよ。襲が国津神でなくなるのなら、神子から『日代の女が産んだ双子』に成り下がる私たちをあの家が放っておくはずもない。そうなれば私の『ペット』が黙っていないし、それでなくとも……」
すっかり顔色を青ざめさせた白から、伊月の視線がついっ、と逸れる。
「〔倭〕の王として、この私が、日代の馬鹿げた思い上がりを許しはしない」
二人からそう離れていない場所に現れていた少女は、どこか誇らしげに自らの王へと頭を垂れた。
「我が主さまの仰せのままに」
王が理想を示し、王樹が形を整え、民がその恩恵を享受する。
それがこの世界、〔アングルボダ〕における「国」の正しい在り方だと。それくらいのことは、政に関心の無い鏡夜でさえ知っていた。
〔倭〕が自らの主人と額ずく伊月。倭樹が根を張るこの国で、扶桑樹とその王さえ顎で使うような女のいったい何を、誰がどうして害せよう。
「この際だから、言っておくけれど。徒人の王に捧げられた徒人のための箱庭で無辜の民に仇為すものを、私は決して許しはしない」
伊月が王として示したその「道」がそれほど悪くないもののよう思えてしまうのは、鏡夜が伊月の「片割れ」である限り、どうしようもないことだった。
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