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RE043
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後片付けをキリエに丸投げする形で〔傀儡廻し〕を終了した伊月が、八坂の家で起き出すと。鏡夜と二人で使っている子供部屋には、寝坊気味の伊月以外、他に誰の姿もなかった。
「キリエ?」
姿が見えなくとも傍についているはずの吸血鬼は、伊月に呼ばれてようやく、敷布団と掛布団のあわいからごそっと這い出してくる。
「なんでそんな所から……」
ぶつからないよう身を引いて、そのまま。体半分起こしたばかりだった寝床へばったり逆戻りした伊月に、気を使って体を起こすどころか逆にすり寄ってきたキリエが澄まし顔で覆い被さる。
「おはよう」
白々しい挨拶は、他愛ないキスの口実でしかなかった。
「……おはよう」
「黒姫奈のボディ、固有領域の〔クレイドル〕に漬けておいて」
「うん」
ふと思い出したことをそのまま口にした、といった風情の伊月は、キリエの下で緊張する素振りも見せず、しどけなく横たわったまま。
「そういえば、昨日約束してた食事――」
その口が抗いがたい誘惑を囁く前に。幼げな〔花嫁〕の唇へともう一度、キリエは触れるだけのキスを施した。
「時間があるときでいいよ」
「……そう?」
そんなことを言われるとは思ってもみなかったと言わんばかり。ぱちくり瞬いた幼子の腕が、キリエの襟元を雑に掴んで引き寄せる。
「じゃあ、はい」
利子代わり、と開かれた口。唇のあわいからちらりと覗く舌先に、キリエは今度こそ自制しきれず吸い寄せられた。
「(せっかく我慢したのに)」
黒姫奈であればけして許しはしなかっただろう、他愛ない触れ合い。
〔血の花嫁〕としての義務を果たすためだけのものではない行為は、キリエの心を酷く満たす。
それこそ、吸血という本能に対してはそれなりに働く理性があっさり綻ぶほどには。
だというに――
「(十年分だとしたら、まだ全然足りてないでしょ? こっちの体はしばらく家で大人しくしてる予定だし。抜いた分を魔力で補ってくれるなら、好きなだけ飲んでいいのよ)」
物理的に口が塞がっているとはいえ。人の気も知らず、本心を偽ることが極めて困難な念話でわざわざそんなことを伝えてくる伊月に、キリエは思わず、喉の奥で低く呻いた。
「(お前のことを大事にしたいんだ……。あんまり誘惑しないで)」
「(それで飢えてちゃ世話ないわ)」
「(お前と一緒にいて飢えることなんて、ないよ)」
伊月の気紛れな甘やかしは、黒姫奈の素っ気なさに慣れたキリエにとってはまだ、色々と刺激が強すぎる。
「よく回る口だこと」
襟元を掴む手が緩んだことをこれ幸いと、キリエは幼子の背中へ腕を差し入れ、されるがままの肢体を抱き起こす。
そのまま、半ば強引に寝床から出された伊月は、長閑な欠伸混じりに部屋を出て行った。
慣れた様子で家の中を移動する気配が、どうやら外へ出ようとしていることに気がついて。キリエは枕元に放り出されていたゴーグルを拾い、足下の影へとぷりと沈む。
「キリエ?」
姿が見えなくとも傍についているはずの吸血鬼は、伊月に呼ばれてようやく、敷布団と掛布団のあわいからごそっと這い出してくる。
「なんでそんな所から……」
ぶつからないよう身を引いて、そのまま。体半分起こしたばかりだった寝床へばったり逆戻りした伊月に、気を使って体を起こすどころか逆にすり寄ってきたキリエが澄まし顔で覆い被さる。
「おはよう」
白々しい挨拶は、他愛ないキスの口実でしかなかった。
「……おはよう」
「黒姫奈のボディ、固有領域の〔クレイドル〕に漬けておいて」
「うん」
ふと思い出したことをそのまま口にした、といった風情の伊月は、キリエの下で緊張する素振りも見せず、しどけなく横たわったまま。
「そういえば、昨日約束してた食事――」
その口が抗いがたい誘惑を囁く前に。幼げな〔花嫁〕の唇へともう一度、キリエは触れるだけのキスを施した。
「時間があるときでいいよ」
「……そう?」
そんなことを言われるとは思ってもみなかったと言わんばかり。ぱちくり瞬いた幼子の腕が、キリエの襟元を雑に掴んで引き寄せる。
「じゃあ、はい」
利子代わり、と開かれた口。唇のあわいからちらりと覗く舌先に、キリエは今度こそ自制しきれず吸い寄せられた。
「(せっかく我慢したのに)」
黒姫奈であればけして許しはしなかっただろう、他愛ない触れ合い。
〔血の花嫁〕としての義務を果たすためだけのものではない行為は、キリエの心を酷く満たす。
それこそ、吸血という本能に対してはそれなりに働く理性があっさり綻ぶほどには。
だというに――
「(十年分だとしたら、まだ全然足りてないでしょ? こっちの体はしばらく家で大人しくしてる予定だし。抜いた分を魔力で補ってくれるなら、好きなだけ飲んでいいのよ)」
物理的に口が塞がっているとはいえ。人の気も知らず、本心を偽ることが極めて困難な念話でわざわざそんなことを伝えてくる伊月に、キリエは思わず、喉の奥で低く呻いた。
「(お前のことを大事にしたいんだ……。あんまり誘惑しないで)」
「(それで飢えてちゃ世話ないわ)」
「(お前と一緒にいて飢えることなんて、ないよ)」
伊月の気紛れな甘やかしは、黒姫奈の素っ気なさに慣れたキリエにとってはまだ、色々と刺激が強すぎる。
「よく回る口だこと」
襟元を掴む手が緩んだことをこれ幸いと、キリエは幼子の背中へ腕を差し入れ、されるがままの肢体を抱き起こす。
そのまま、半ば強引に寝床から出された伊月は、長閑な欠伸混じりに部屋を出て行った。
慣れた様子で家の中を移動する気配が、どうやら外へ出ようとしていることに気がついて。キリエは枕元に放り出されていたゴーグルを拾い、足下の影へとぷりと沈む。
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