アサイラムの魔女～せっかく異世界転生できたのに、家ガチャで爆死するなんて～

EP01「女魔術師、奴隷を買う」

SCENE-019 >> 森人の仮宿

　百年を生きた精霊がその身を転じるエルフたちの中には、防人さきもりと呼ばれる「妖精郷の護り手」としての役割に就くものがいて。狩人がいるような人里には大抵、防人小屋や防人屋敷と呼ばれる場所に、防人のエルフが一人か二人は常駐している。

　狩人市の買い取り所を後にして。私は同じ狩人地区にある、この街唯一の防人屋敷を訪った。


                                    
　ラルを連れて近付くと、門番代わりに精霊が憑いている正門の門扉が「中へどうぞ」とばかり、手を触れてもいないのに自ずと開いて私を通す。

「ハイメ、いるー？」
　勝手知ったる他人の屋敷。
　城壁の内側にあって、そこだけぽっかりと森に回帰したよう緑豊かな庭を抜けると、目当てのエルフは屋敷の玄関先まで顔を出していた。

「今日はどうされました？」
　私の姿を捉えた蜜色の双眸が、穏やかに細められる。
　まるで、特別な宝物でも見つけたように。
「部屋貸して」
　抜けるように白い肌を臆することなく日に晒し、翡翠を思わせる透き通った緑色の髪を風にそよがせて。約束もなく訪れた私を迎えるためにわざわざ屋敷から出てきたエルフ――ハイメ――は、端的も端的な私の要求に柔和な笑みで「どうぞ」と応じた。

　いつもは一人でこの場所を訪れる私が珍しく連れている同行者。
　ラルに対する言及はない。

　かといって、ラルのことを無視しているというわけではなく。私が紹介しないうちは声をかけていいのかどうか、それさえも判断がつかないのでとりあえず、といった風情で、ハイメは「見知らぬ徒人」に対しては軽い目礼をするに留めた。


                                    
「あと、レーラズの樹液か蜜酒があれば器に一杯分でいいから分けてほしいんだけど」
「どちらもパントリーにストックがありますよ。部屋までお持ちしましょうか」
「うん」
　じゃあお願いね、とハイメに頼んで屋敷へ上がる。