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EP01「女魔術師、奴隷を買う」
SCENE-018 >> 奴隷のものは主人のもの
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ハンターが森から持ち帰ったありとあらゆる収穫物を取り扱う、公営の卸売市場。
通称「狩人市」の買い取り所で今日の成果――箱いっぱいのリンゴ――を換金して。受け取った代金を、適当な革袋にちゃりんと詰める。
「これはラルが持ってて」
革袋の口をきゅっ、と絞って閉じた革紐は結構な長さがあって。小銭の入った革袋をラルの首にかけてシャツの下へ押し込むと、私の一連の行動を黙って見ていたラルは最後にこてん、と首を傾げた。
「魔法鞄に入れた方が安全だ」
「財布をすられるほど間抜けじゃないでしょ」
それはそう、と一度は頷いてから。それはそれとして、ラルは物言いたげに私のことをじっと見つめてくる。
「それはラルの働きに見合った正当な報酬だから、遠慮なく受け取って。ラルが好きに使っていいの」
渡したお金の意図を説明すると、それでようやく納得するどころか、ラルは無表情ながらもどことなく困った風情で、その視線で私に翻意を訴えた。
(普通は喜びそうなものだけど)
よくよく考えてもみれば、ラルはその気になれば簡単に引き千切ってしまえるだろう、ちゃちな首環に縛られて大人しく奴隷をやっているくらいだから、もしかすると自分が奴隷であること、それ自体に何かしらの意味を見出しているのかもしれない。
仮にそうだったとしても、ラルの気持ちに私が配慮する必要なんて、これっぽっちもないわけだけど。
「奴隷の返事は『はい』か『わかりました』でしょ」
私がにやにやしながらお互いの立場を当てこすっても、ラルはふるふると首を振って見せるばかり。
思いがけず頑なな態度に、私は奴隷のくせに生意気だ、と機嫌を損ねるどころか、むしろ――
(奴隷が主人に『弱み』なんて見せちゃダメでしょ)
ラルがこんなにもわかりやすく反抗するなんて……と、愉快な気持ちになって仕方なかった。
ろくでもない主人に当たった奴隷の末路は悲惨だ。なにしろこの世界の奴隷は所有者を必要とする「物」であり、人頭税がかからない代わりに人権を認められていないのだから。
きちんと食事をさせ、身綺麗にした奴隷を見せびらかすよう連れ歩くのがステイタスとされるような世の中でも、それが全てではない。
家畜と同列の畜生として、地べたを這いつくばるような生活を強いられる奴隷だって普通にいる。
「言うこと聞かない奴隷にはお仕置きが必要ね?」
私がにやにやしながら手を引くと、これには素直に従って、ラルは何も言わず私のあとをついてきた。
通称「狩人市」の買い取り所で今日の成果――箱いっぱいのリンゴ――を換金して。受け取った代金を、適当な革袋にちゃりんと詰める。
「これはラルが持ってて」
革袋の口をきゅっ、と絞って閉じた革紐は結構な長さがあって。小銭の入った革袋をラルの首にかけてシャツの下へ押し込むと、私の一連の行動を黙って見ていたラルは最後にこてん、と首を傾げた。
「魔法鞄に入れた方が安全だ」
「財布をすられるほど間抜けじゃないでしょ」
それはそう、と一度は頷いてから。それはそれとして、ラルは物言いたげに私のことをじっと見つめてくる。
「それはラルの働きに見合った正当な報酬だから、遠慮なく受け取って。ラルが好きに使っていいの」
渡したお金の意図を説明すると、それでようやく納得するどころか、ラルは無表情ながらもどことなく困った風情で、その視線で私に翻意を訴えた。
(普通は喜びそうなものだけど)
よくよく考えてもみれば、ラルはその気になれば簡単に引き千切ってしまえるだろう、ちゃちな首環に縛られて大人しく奴隷をやっているくらいだから、もしかすると自分が奴隷であること、それ自体に何かしらの意味を見出しているのかもしれない。
仮にそうだったとしても、ラルの気持ちに私が配慮する必要なんて、これっぽっちもないわけだけど。
「奴隷の返事は『はい』か『わかりました』でしょ」
私がにやにやしながらお互いの立場を当てこすっても、ラルはふるふると首を振って見せるばかり。
思いがけず頑なな態度に、私は奴隷のくせに生意気だ、と機嫌を損ねるどころか、むしろ――
(奴隷が主人に『弱み』なんて見せちゃダメでしょ)
ラルがこんなにもわかりやすく反抗するなんて……と、愉快な気持ちになって仕方なかった。
ろくでもない主人に当たった奴隷の末路は悲惨だ。なにしろこの世界の奴隷は所有者を必要とする「物」であり、人頭税がかからない代わりに人権を認められていないのだから。
きちんと食事をさせ、身綺麗にした奴隷を見せびらかすよう連れ歩くのがステイタスとされるような世の中でも、それが全てではない。
家畜と同列の畜生として、地べたを這いつくばるような生活を強いられる奴隷だって普通にいる。
「言うこと聞かない奴隷にはお仕置きが必要ね?」
私がにやにやしながら手を引くと、これには素直に従って、ラルは何も言わず私のあとをついてきた。
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