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EP01「女魔術師、奴隷を買う」
SCENE-017 >> 耳は弱い
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この時間帯であれば、ゲートハウスに詰めている自警団員なりに声をかけ、わざわざ通用門を開けてもらう必要も無い。
私たちが街を出る頃には下ろされていた落とし格子が、日のある今時分は半分ほど引き上げられていて。俗に「狩人門」と呼ばれている森側の城門を通り抜けて狩人地区に入ると、「森」の気配が一気に遠退いた。
「狩人市の買い取り所に寄って、さっき収穫したリンゴを引き取ってもらったら今日のハンター業はおしまいよ」
「森」と「人里」との緩衝地帯――魔物が森から出てきた時はいの一番に戦場となる場所――と設定されている狩人地区の、だいたい真ん中あたりに位置する広場まで。狩人門からまっすぐに伸びている街路をのんびり歩きながらこの後の流れを説明すると、私に腕を捕まえられ、隣を歩かされているラルがこてん、と首を傾げて。おもむろに、私の耳元へと顔を寄せてくる。
「魔晶は?」
それなりに人通りのある街中で、センシティブと言えばセンシティブな話題を行きずりの誰かに聞かれるのを憚った結果として、ラルはそうしたのだろうけど。
耳元で囁かれ、耳朶を掠めた吐息のくすぐったさに、思わずひぇっ、と首を竦めてしまう。
「……すまない」
そこはさらっと流してほしかった。
耳朶を掠めた吐息の感触が、まだ残っているような気がして。水を被った猫のよう私がぶるぶる頭を振ると、森歩きの邪魔にならないよう高めに結い上げてある髪の先がぺしりとラルを叩いた。
それを知らん顔して、話を続ける。
「あれは換金額が大きいし、書類の手続きもあるから市庁舎まで行かないといけないの。ついでの用もないのに市庁舎まで行くのは手間だし書類を書かされるのも面倒だから、今日はパス」
私の説明に納得したよう、ラルはこくん、と一つ頷いた。
私たちが街を出る頃には下ろされていた落とし格子が、日のある今時分は半分ほど引き上げられていて。俗に「狩人門」と呼ばれている森側の城門を通り抜けて狩人地区に入ると、「森」の気配が一気に遠退いた。
「狩人市の買い取り所に寄って、さっき収穫したリンゴを引き取ってもらったら今日のハンター業はおしまいよ」
「森」と「人里」との緩衝地帯――魔物が森から出てきた時はいの一番に戦場となる場所――と設定されている狩人地区の、だいたい真ん中あたりに位置する広場まで。狩人門からまっすぐに伸びている街路をのんびり歩きながらこの後の流れを説明すると、私に腕を捕まえられ、隣を歩かされているラルがこてん、と首を傾げて。おもむろに、私の耳元へと顔を寄せてくる。
「魔晶は?」
それなりに人通りのある街中で、センシティブと言えばセンシティブな話題を行きずりの誰かに聞かれるのを憚った結果として、ラルはそうしたのだろうけど。
耳元で囁かれ、耳朶を掠めた吐息のくすぐったさに、思わずひぇっ、と首を竦めてしまう。
「……すまない」
そこはさらっと流してほしかった。
耳朶を掠めた吐息の感触が、まだ残っているような気がして。水を被った猫のよう私がぶるぶる頭を振ると、森歩きの邪魔にならないよう高めに結い上げてある髪の先がぺしりとラルを叩いた。
それを知らん顔して、話を続ける。
「あれは換金額が大きいし、書類の手続きもあるから市庁舎まで行かないといけないの。ついでの用もないのに市庁舎まで行くのは手間だし書類を書かされるのも面倒だから、今日はパス」
私の説明に納得したよう、ラルはこくん、と一つ頷いた。
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