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EP01「女魔術師、奴隷を買う」
SCENE-007 >> 夜のお仕事
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一眠りして目が覚めても、両手を繋がれたラルは私のことを抱えたままで。
(操作用の魔力結晶どっか行った……)
意識のないうちに手放してしまっていた魔力結晶を手探りでぺたぺた探していると。私が寝ている間は身動ぎ一つしないでいた男がむくりと体を起こして、今度は私のことを道連れにした。
「起きてたの?」
ふるふる首を振ったラルの腕が持ち上げられて、囲い込んでいた私のことを解放する。
「なんでこんなところに……」
探していた魔力結晶はこの辺りかな、と見当をつけていた場所よりも随分遠くの方に転がっていた。
「『リリース』」
ぱっ、と両手を解放されたラルは、固まった筋を解すよう腕をぐるぐる。首をぐるりと回してふぅ、と溜め息とも呼べないような息を吐き出していたから、無表情ながらも窮屈には感じていたらしい。
それでも文句一つ言わない男を横目にベッドを下りて。窓の鎧戸を開けると、外はまだ暗かった。
夜明けは遠い。
「私はこれから仕事に出るけど、ラルはどうする? 留守番してるなら寝直していいわよ」
鎧戸を閉め直し、ランプに明かりを点けて。魔法鞄から着替えを引っ張り出した私の視界の端で、無口な男が首を振る。
「ついてくるならフル装備ね」
昨日のうちに買っておいた武器やら何やら。ポーチにしまってあった装備品と着替えをまとめて押しつけると、ラルはちゃっちゃと仕度を調えて。出かける準備が終わるのは私よりも早かった。
「森へ行く?」
「そうよ。私、こう見えてハンターなの」
趣味で作っている法具を売り捌けば左団扇の生活も夢ではないのだろうけど。主に自分で消費する素材集めがてら森で採集したものを売るだけで生活には困らないくらいの収入にはなるので、向上心のない私はお世辞にも『安定した職』とは言えないハンター業を生業にしている。
ハンターというのは、エルフが管理している森――妖精郷の外縁部――での狩りや採集活動を許された有資格者の通称だ。
「このあたりはまだ綺麗な方だけど、夜のうちに森へ入るなら魔物とのエンカウントは避けられないから。それでもいいなら行きましょう」
要するに危ないんだぞ、と私が脅すようなことを言っても、ラルは顔色一つ変えずについてきた。
「騒がしくすると女将に怒られるから、静かにね」
厨房の火はとっくに落とされていて。朝食の仕込みがはじまるまで束の間の静けさに包まれている宿を、こそりと抜け出す。
一般的なハンターは魔物と出会さないよう夜がすっかり明けてから森に入るものだから、私の行動パターンは特殊な部類。
夜逃げと思われないよう、夜遅くに宿を出ることは、私が魔物狩りも請け負うハンターだと説明した上で、宿の女将にはあらかじめ断りを入れてあった。
「いってらっしゃい、お気をつけて」
宿代をしばらく先の分まで前払いしている甲斐もあって、出入り口の鍵を開けてくれる夜番の従業員からおかしな目を向けられたことはない。
(操作用の魔力結晶どっか行った……)
意識のないうちに手放してしまっていた魔力結晶を手探りでぺたぺた探していると。私が寝ている間は身動ぎ一つしないでいた男がむくりと体を起こして、今度は私のことを道連れにした。
「起きてたの?」
ふるふる首を振ったラルの腕が持ち上げられて、囲い込んでいた私のことを解放する。
「なんでこんなところに……」
探していた魔力結晶はこの辺りかな、と見当をつけていた場所よりも随分遠くの方に転がっていた。
「『リリース』」
ぱっ、と両手を解放されたラルは、固まった筋を解すよう腕をぐるぐる。首をぐるりと回してふぅ、と溜め息とも呼べないような息を吐き出していたから、無表情ながらも窮屈には感じていたらしい。
それでも文句一つ言わない男を横目にベッドを下りて。窓の鎧戸を開けると、外はまだ暗かった。
夜明けは遠い。
「私はこれから仕事に出るけど、ラルはどうする? 留守番してるなら寝直していいわよ」
鎧戸を閉め直し、ランプに明かりを点けて。魔法鞄から着替えを引っ張り出した私の視界の端で、無口な男が首を振る。
「ついてくるならフル装備ね」
昨日のうちに買っておいた武器やら何やら。ポーチにしまってあった装備品と着替えをまとめて押しつけると、ラルはちゃっちゃと仕度を調えて。出かける準備が終わるのは私よりも早かった。
「森へ行く?」
「そうよ。私、こう見えてハンターなの」
趣味で作っている法具を売り捌けば左団扇の生活も夢ではないのだろうけど。主に自分で消費する素材集めがてら森で採集したものを売るだけで生活には困らないくらいの収入にはなるので、向上心のない私はお世辞にも『安定した職』とは言えないハンター業を生業にしている。
ハンターというのは、エルフが管理している森――妖精郷の外縁部――での狩りや採集活動を許された有資格者の通称だ。
「このあたりはまだ綺麗な方だけど、夜のうちに森へ入るなら魔物とのエンカウントは避けられないから。それでもいいなら行きましょう」
要するに危ないんだぞ、と私が脅すようなことを言っても、ラルは顔色一つ変えずについてきた。
「騒がしくすると女将に怒られるから、静かにね」
厨房の火はとっくに落とされていて。朝食の仕込みがはじまるまで束の間の静けさに包まれている宿を、こそりと抜け出す。
一般的なハンターは魔物と出会さないよう夜がすっかり明けてから森に入るものだから、私の行動パターンは特殊な部類。
夜逃げと思われないよう、夜遅くに宿を出ることは、私が魔物狩りも請け負うハンターだと説明した上で、宿の女将にはあらかじめ断りを入れてあった。
「いってらっしゃい、お気をつけて」
宿代をしばらく先の分まで前払いしている甲斐もあって、出入り口の鍵を開けてくれる夜番の従業員からおかしな目を向けられたことはない。
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