魔法少女になりたかった

葉月+(まいかぜ)

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魔法少女にはなれなかった

いい子じゃなくても、まともじゃなくても

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 学校が休みの日。
 目覚ましのアラームをセットして、寝坊しないように気をつける必要もない、土曜日の朝。

 私が目を覚ますと、寝起きのぼやけた視界に見慣れた部屋の様子が飛び込んでくるより先に、クチナシと目が合って。

 私と目が合うなり、ゆるりと細められた双眸。
 私だけを映している瞳と、その視線から伝わってくる慕わしさだとか。

 おはようと、唇の動きだけで告げてきたクチナシの、微かな吐息だとか。

 布団の中で私のことを引き寄せた腕の感触だとか。

 いつも温かく感じことばかりなのに、今は私と同じくらいになっている体温だとか。



 昨日までの私が知らなかったことが、なにもかも、自分でもびっくりするほど幸せだった。



 クチナシのくれるものは、全部が全部、私の欲しかったものだとわかってしまう。

 私だけを見て、私だけを甘やかして、私だけの傍にいてくれる。
 私が嘘吐きな悪い子で、まともじゃなくても、私のことを許してくれる。

 そんな人が、一人だけいてくれたら、それでよかった。

 他には何もいらないから。
 それさえ叶うなら、それ以外のことはなにもかもがどうだっていい。



 そんな私の考えを見透かしたように、クチナシがとろりと笑うから。
 私も笑って、いつもクチナシが私へするように、自分からも腕を回して抱きしめ返したクチナシに、頬をすり寄せた。

「おはよう、クチナシ」

 クチナシさえいてくれれば、私がひとりぼっちになることはないのだと。
 そう思ってしまったから。

 もうダメだった。
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