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魔法少女にはなれなかった
祈り、奇跡、信仰の好循環
しおりを挟むクチナシを連れたまま、午後も何事もなく過ごして。放課後はいつもクチナシに会いに行っていたけど、今日は珍しく直帰してみた。
「クチナシ、出てきていいわよ」
クチナシは声を出さないし、突然暴れだすようなこともないから、部屋にいてもバレっこないだろうと帰ってくるなり呼び出して。ふわふわのラグを敷いてあるベッドの前に座らせる。
制服から部屋着に着替えた私がその隣に、ベッドへもたれるように座ろうとすると。さっと伸びてきたクチナシの手が、私のことをひょいっ、と持ち上げて、自分の膝へと乗せてしまった。
いつも会っている廃屋や学校の屋上と違って、私の部屋は湯たんぽが必要なほど寒くはないのに。
クチナシはそうすることが当たり前みたいに私のことを抱きしめて、着替えのついでに櫛を通したばかりの髪に、すりすりと頬を寄せてくる。
そこでようやく、私は顔のいい男と部屋で二人きりという、のっぴきならない状況に理解が及んだ。
「〝お部屋デート〟シチュだ……」
私の寝惚けた独り言に、なぁに? と首を傾げたクチナシが背中を丸めて、私の顔を覗き込んでくる。
人間ではない化け物が被った、正真正銘の化けの皮。
クチナシの美しさがそういうものだとわかっていても、美しくて、綺麗なものは綺麗だから。私の顔がじわじわと赤くなってしまうのも、仕方のないことだった。
不憫萌えだし、神隠しができるような化け物をペットの代わりにしているし、面喰いだし。
顔が良ければ化け物でもいいんじゃない? なんて思っちゃってるし。
本当に、私ってばどうしようもない。
[ひびき?]
「うぅっ……今更恥ずかしくなってきた。ちょっと降ろして……」
自分でも赤くなっているのがわかるくらい顔を熱くした私が頼むと、クチナシは下心なんて一欠片もなさそうに私のことを抱きかかえていた腕を緩めてくれたけど。クチナシの膝から降りた私がラグの上に座ろうとすると、また私のことを持ち上げて、「こっちがいいの?」とでも言うように首を傾げてから、私が座ろうとしていた場所に、私を抱えて座り直してしまう。
「いや、そうじゃなくて……」
[ひびき、くちなしともっとくっつきたいのに、どうしてはなれるの?]
「そんなことは一言も言ってませんけど!?」
そりゃあちょっとくらい思わなくはなかったけど! 女子高生としてはむしろ健全な欲求では!?
思わず大きな声を出した私の口を、クチナシがしぃーっ、と人差し指で押さえてくる。
「いや、待って。もしかして私の心とか読んでる? クチナシってサトリとか、そういう……?」
[こころをよむちからはない]
「よかった……」
哀しいかな、私の安堵は長続きしなかった。
[くちなしはひびきのものだから、ひびきのしてほしいことはわかる]
「んっ!?」
[ひびきがくちなしのことをすきだから、くちなしはひびきにたくさんのことをしてあげられる。ひとのすがたをまねることも、ひとのこころをわかることも、やしろからはなれることも、ぜんぶ――]
私が最後まで読み終わるのも待たず、スマホをベッドの上に放ったクチナシが、私の顎を持ち上げて。
ぎりぎり頬とは言えないような口の端っこに、ちゅっ……と。
[ひびきのほしいものは、くちなしがぜんぶあげる]
そのままラグの上にぽすんっ、と下ろされた私がクチナシの言葉を全て確認できたのは、私が心の奥底で望んでいたものを、だいたい全部、訳知り顔のクチナシから受け取ってしまってからのことだった。
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