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魔法少女にはなれなかった

尽くして祟って慰められた、誰かにとっての〝神さま〟だったもの

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「じゃあ、子供の神隠し事件のことは何か知ってる? クチナシのことを疑ってるとかじゃなくて、そういうことをしそうな化け物を見かけなかった? って話なんだけど」
[それらしいのはみた]
「えっ……ほんとに? 危なそうなのがいるなら教えておいてよ」
[ひびきにはなにもできないから、あぶなくない]
「それは、相手が私より弱いから?」
[ひびきがゆるすか、ひびきよりもずっとつよくないと、ひびきのことはかくせない。くちなしはひびきのものだからひびきをまねくことができたけど、くちなしいがいのものは、ひびきをまねくこともむずかしい]
「へー……」

 ダメ元で聞いてみた話に意外としっかりとした答えが返ってきて、逆に困ってしまう。

「それじゃあ犯人って捕まらない……わよね? 人間じゃないんだから」
[ひとでないものはじゅつしがなんとかする。きのうもいた」
「あ、ちゃんとそういうのを解決してくれる人がいるんだ。……陰陽師みたいな?」
[むかしはそうよばれていた。おんみょうりょうがなくなってから、おんみょうじもげほうしもいっしょになって、いまはぜんぶじゅつし]
「クチナシ、あなたやっぱりだいぶ詳しいわよ。なんでそんなこと知ってるの」
[くちなしはもともとじゅつしにちからをかすものだった。ちからをかしていたじゅつしたちのことだから、すこしはわかる]
「それって、私とクチナシがいつも会ってた家に住んでた人たち? なんで今は誰もいないの?」
[ひびきのくちなしになるまえのくちなしとのやくそくをやぶったから、みんなしんだ]

 それは〝わたしのクチナシになる前のクチナシ〟が祟り殺したとか、そういう……?

「あの家、そういう感じで廃墟なんだ……税金払えなくなったとかそういう次元の話じゃなかったわ。とんでもない事故物件じゃん……」
[ひびきがくるまで、くるしくてさびしかった。くちなしをたすけてくれてありがとう]

 私には無害な化け物ですよ、と態度で示すよう、人懐っこくすり寄ってくるクチナシに、すっかり絆されてしまっている自覚はあった。

 初めて会ったときはどう見ても死にかけていたから、クチナシに何かされる、というイメージがまず湧かなくて。

 私はクチナシという化け物をちょっと変わったペット感覚で拾ったし、クチナシだってそれをわかっているみたいに振る舞うから。クチナシと一緒にいて感じる心地の良さは、私にとって、いつしか手放し難いものになっていた。

[これからは、くちなしがひびきのそばにいる。ひびきがくちなしをたすけてくれたから、くちなしはひびきをさびしくしない]
「うん……」
[あのこものも、ひびきがきになるならかたづけておく」
「えっ……小物・・って、子供を隠しては戻してる化け物のこと? クチナシがちょっかい出しても大丈夫なの……?」
[くちなしのほうがつよい。よるのうちにつかまえて、きのう、ひびきのじゃまをしたじゅつしにおしつけておく」
「昨日……」

 クチナシが言う〝わたしの邪魔をした術士〟に、心当たりは一人しかない。

「あの警部さん、術士・・ってやつなんだ?」

 直接話しているときはまったく、そんな素振りは見せていなかったと思うけど。クチナシが言うならそうなのだろう。

[あれはひびきにきづいた。くちなしのところにくるひびきは、ほんとうはみつけられないのに。ひびきにきづいて、ひびきのじゃまをしたから、あとかたづけをさせる。あのじゅつしよりもくちなしのほうがつよい。ひびきはもっとつよいから、あのじゅつしはいうことをきく]
「警察官なのに、クチナシの言うことを聞いちゃうんだ」
[くちなしはいいことをするから、とがめるりゆうがない]
「確かに……向こうも普通の事件じゃないかもしれない、ってことで来てるわけだから、おかしな事件がさっさと解決する分には問題ない、わよね……?」
[こどもをかくしているのは、ひびきやくちなしにはちかづくこともできないようなこもの。だけど、あのじゅつしよりはつよい。ほうっておいたらいつまでたってもかたづかなくて、ひびきのまわりがさわがしくなる]

 だから自分がさっさと片付けてしまうのだと私に伝えてくるクチナシは、見るからに気合たっぷりというわけではなく。かといって、自分の実力を大きく見せようと虚勢を張っていたり、犯人と目星をつけた相手を殊更侮っていたりするようにも見えなかった。

 自分にできることをできると言っているだけだから、なんの気負いもない。
 クチナシのそんな態度には、説得力と安心感があった。

[くちなしはやくにたつ]

 どうやら私のクチナシは、犬は犬でも狩猟犬の類いだったらしい。

 それも、獲物を追い立てるだけではなく、首に食らいついて仕留めてしまうような、すごいやつ。
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