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魔法少女にはなれなかった
昼休み、屋上にて
しおりを挟むクチナシを学校に連れて行くなんて、最初はどうなることかと思ったけど。クチナシはずっと大人しくしていたので、私が困るようなことにはならなかった。
昼休みに、本当は立ち入り禁止の屋上へ入り込んで。塔屋の陰に隠れながらクチナシを呼び出すと。じんわり温かい勾玉からパッと出てきたクチナシは、冷たいコンクリートの上に座っていた私の隣にぴったりとくっついて座り、すりすりと頬を寄せてくる。
その仕草があまりにも「ご主人にじゃれつく犬」じみていたから。クチナシの外見が見目のいい男のものであることは、たいして気にならなかった。
登校途中にコンビニで買ってきたおにぎりと菓子パンで、私がお昼ごはんを済ませると。暇潰しに渡したスマホには見向きもせず風除けと湯たんぽ役に徹していたクチナシは、私がショールのように羽織っていた膝掛けを私の肩からやんわり剥がして、自分の膝の上に引っ張り上げた私の体へ、温もりを閉じ込めるようしっかりと巻きつけてくる。
そうすると、私は何もできなくなってしまうけど。クチナシと話す分には困らなかった。
「勾玉の中にいる時ってどんな感じなの? じっとしてないといけないなら退屈じゃない?」
[まわりのようすはわかる。ひびきといっしょでたのしい]
「それならいいけど。見つからないようにできるなら適当にその辺りをぶらついてもいいからね? この学校、クチナシみたいなのが見える子っていないみたいだし」
私の言葉に「それはどうだろう?」とでも言いたげに首を傾げたクチナシが、どこか遠くを見るような目をして。しばらくすると、[みつからないようにする、だいじょうぶ]とメモアプリに打って寄越す。
いるのか、見える子ちゃん。
「まあ、最悪見つかっても私は知らん顔してるから、クチナシもそうして」
要するに私がおかしなものを連れているとバレなければいいわけだから、そこだけ念を押すと。それにはうーん……と、クチナシは首を捻った。
[くちなしはかくれられるけど、ひびきはもうておくれだとおもう]
「えっ。なにそれ」
[ひびきのちからはつよいから、とおくからでもわかる。くちなしよりめだつ。くちなしもよわくはないけど、いまはひびきにかくれてる。くちなしのことをかくしてしまえるくらい、ひびきはつよい。みればわかる]
「えー……」
[くちなしがみつかっても、ひびきがいたらだいじょうぶ。くちなしをみつけられるくらいのちからがあればひびきのこともわかるから、ひびきのほうがこわい。つよいものはひびきをおこらせたくない。だから、なにもしてこない]
「人のこと呪物みたいに言うじゃん……」
[じゅぶつよりひびきのほうがつよい]
「えー……」
かつて、これほど嬉しくない褒め言葉があっただろうか。
いや、そもそも褒められているのか? これは。
「クチナシってそういうことに詳しいの?」
[そういうこと?]
「普通じゃない力のこととか、クチナシみたいな人間じゃないもののこととか……そういうの」
[ふつう]
「普通なんだ……」
[じぶんのことはわかる。ひびきのこともそばにいるからわかる。ちからのこともじぶんにあるものだからわかる]
「私だって自分が普通と違うことくらいはわかるけど、自分が強いかどうかなんて全然わからないわよ」
[ひびきはつよいからわからなくてもいい。こまらない]
「……そういうもの?」
うんうん頷いたクチナシが、にっこりとスマホを見せてくる。
[しりたいなら、くちなしがわかることはなんでもおしえる]
なんとも、心強いお言葉だこと。
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