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魔法少女にはなれなかった
だいぶ他人事ではある
しおりを挟むいつもどおりの帰り道。
自宅へ直帰の道を、クチナシがいる廃屋の方へと逸れてから、わりとすぐ。
いつもは不気味なくらい人気のない小道から、その人はひょっこり姿を現した。
「――君、このへんの子?」
出会い頭にまるでナンパのような声をかけられて、よっぽどシカトしてやろうかと思ったけど。「自分はこういうものなんだけど」と、提示された身分証が警察官のそれだったから、流石にそういうわけにもいかない。
「そうですけど、何か……?」
「最近この辺りで小学生くらいの子がふらっ、といなくなって、次の日にはひょっこり戻ってくるっていう、奇妙な事件が何件か立て続けに起こってるのは知ってるかな。これ、その事件の聞き込みなんだけど」
「はぁ……」
「君、名前は? その制服、この近くにある高校のやつだよね?」
「柊響、北里高の二年です」
「響ちゃん、ね」
馴れ馴れしいな。
「急に言われても困ると思うし、何か気付いたことがあったらこの名刺のアドレスに連絡くれるかな。見慣れない人がいたとか、車がずっと同じ場所に止まってたとか、変な音を聞いたとか、そういうの。本当に些細なことでもいいからさ」
渡された名刺には当然、先に見せられた警察手帳と同じ氏名と階級が印刷されている。
深山新。
階級は警部。
刑事ドラマ的に考えると、現場ではだいぶ偉い方の人なのではないだろうか。
「一晩で帰ってくるなら家出とか、盛大な迷子じゃないんですか?」
「それがねぇ、みんな無傷で戻ってくるのはいいんだけど、誰も何も覚えてないって言うんだよ。でも、そんなのおかしいよね? 子供たちで口裏を合わせている様子もないから、こういう言い方はよくないんだけど、まだ緊急性はないけど要注意の事件、ってことで、こうやって見回りを兼ねた聞き込みをしてるんだよ」
「はぁ……それは大変ですね……?」
「まぁ、これが仕事だからね。君もしばらくは友達と一緒に帰るとかして、なるべく一人で出歩かないようにね」
「はい」
「家はこっち? 心配だしそこまで送るよ」
言っていることは警察官としてまともだが。いかんせん、親しみやすいと言えば聞こえはいいが、軽薄にも感じられるほどの馴れ馴れしさが、どうにも胡散臭く感じられる。
そんな深山警部にこのままついていっていいものかと、私は内心首を捻った。
「ナンパとかではないんですよね?」
「あはは。流石に高校生は対象外かなぁ。僕、これでも三十だよ」
「年齢関係あります?」
「なに、僕のこと好きになっちゃった? ごめんねー、今の仕事が好きだからお付き合いはちょっと無理かな。高校卒業したら連絡くれる?」
「いや、しませんけど」
深山警部に警察官としての職責を真面目に果たすつもりがあるのだとすれば、それはそれで困ったことになる。
私がもともと向かっていた方へこのまま道を進んでも、私の家に辿り着くことはない。
何故なら、道が繋がっていないから。
この先にあるのはいつもクチナシに会っている廃屋で。私はこの道の突き当たりにある廃屋の敷地から、道の繋がっていない向こう側へと抜けるのが習慣になっていた。
いくら近道になるとはいえ、警察官の前で不法侵入はまずい。
「あ……」
どうにかこの場をやり過ごそうと、私はなるべく不自然にならないように足を止めた。
「うん? どうかした?」
「学校に、忘れ物を。取りに戻らないといけないので……」
若い女が見知らぬ男と二人きり。
家までついてこられることを警戒しています、と。そんなふうに勘違いしてくれないかと思いながら。たった今、歩いてきた道を引き返しても不自然ではない言い訳を捻り出す。
ここで無理についてくるようなら、この男自体がやっぱり怪しいぞ、という話にもなってくるわけで。
幸い、深山と名乗った警察官が食い下がってくることはなかった。
「そっかー、じゃあ向こうの道に出るまで送るね」
どうも、と幹線道路に出るまで大人しく送られて、そこでお別れ。
「あんまり遅くならないように気をつけなよ」
「はい。ありがとうございます。ーー失礼します」
その後は本当に学校へ戻ってから、クチナシのところでやるつもりだった宿題を片付けて、今度こそ帰路についた。
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