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魔法少女にはなれなかった
力関係ははっきりしている
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「えぇ……?」
あとから追いついてきたクチナシは、またあわあわと慌てた様子で私のことを抱え起こした。
怪我してない? と心配そうに、制服のスカートからのぞく膝や手の平を確かめて。どこにも傷がついてないことがわかると、両手で抱きしめた私の頭にすりすりと頬を寄せてくる。
ごめんねぇと、そんな具合に。
「転けたのはべつにいいんだけど……ここ、なに? クチナシの家?」
うんうん頷いたクチナシが、両方の肩を持って私を振り返らせると。さっきまで何もなかったはずの場所に、人をダメにするタイプのソファが忽然と現れていた。
「えぇ……?」
どうぞどうぞと促してくるのがクチナシだから、大人しく座ってあげるけど。わりと怖い状況だ。
「これって神隠し的なやつなのでは……」
どう頑張っても人が入れない大きさの社に入ってしまえた時点で、それ以外に何があるのかという話。
またあわあわと慌てだしたクチナシにスマホを渡すと、メモアプリには[ちゃんとかえす]と返事が来た。
「神隠しは否定しないんだ……」
[ここならみつからない]
「それはそう……」
[なにもしない。ちゃんとかえす]
信じてほしいとじっと見つめてくるクチナシが、私に危害を加えようとしてきたことはない。
だからべつに、クチナシに何かされるんじゃないか……なんて、そんな心配をしているわけではなかった。
「そうじゃなくて……クチナシって神隠しができるような、そういうやつだったの!? 聞いてないんだけど!」
同じ拾うにしても、死にかけの化け物と行き倒れの神さまではわけが違う。
詐欺だなんだと騒ぐ私に、クチナシがまたあわあわとしはじめる。
[すてないで]
「死にかけてたとはいえ、人を神隠しできちゃうような化け物を拾って〝私のもの〟とか言ってた事実そのものを無かったことにしたい場合は……?」
[しんじゃう]
わっ、と私の膝に突っ伏したクチナシがやだやだと駄々をこねる子供のような有り様で縋ってくるから。だんだん、まともに取り合うのも馬鹿らしくなってくる。
私に不憫萌えの属性があるのもよくなかった。
すんすん泣いて見せられると、かわいそうなのがかわいくて、なんでも許したくなってしまう。
はいはいわかったわかったと、私の雑な宥め方でそのうち落ち着いたクチナシは、私以外に廃屋を訪れていた誰かの気配がなくなると、そういう意味ではなんの心配もしていなかった私のことを、社の外まできちんと送り届けてくれたし。
家に帰ったのはいつもより少し遅いくらいの時間だったけど。図書館に寄っていたと言えば言い訳が立つくらいの遅さだったから、なんの問題もなく。
私にとっての問題が起きたのは、私以外、誰も訪れないはずの廃屋を〝誰か〟が訪れた、その次の日になってからのことだった。
あとから追いついてきたクチナシは、またあわあわと慌てた様子で私のことを抱え起こした。
怪我してない? と心配そうに、制服のスカートからのぞく膝や手の平を確かめて。どこにも傷がついてないことがわかると、両手で抱きしめた私の頭にすりすりと頬を寄せてくる。
ごめんねぇと、そんな具合に。
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うんうん頷いたクチナシが、両方の肩を持って私を振り返らせると。さっきまで何もなかったはずの場所に、人をダメにするタイプのソファが忽然と現れていた。
「えぇ……?」
どうぞどうぞと促してくるのがクチナシだから、大人しく座ってあげるけど。わりと怖い状況だ。
「これって神隠し的なやつなのでは……」
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またあわあわと慌てだしたクチナシにスマホを渡すと、メモアプリには[ちゃんとかえす]と返事が来た。
「神隠しは否定しないんだ……」
[ここならみつからない]
「それはそう……」
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だからべつに、クチナシに何かされるんじゃないか……なんて、そんな心配をしているわけではなかった。
「そうじゃなくて……クチナシって神隠しができるような、そういうやつだったの!? 聞いてないんだけど!」
同じ拾うにしても、死にかけの化け物と行き倒れの神さまではわけが違う。
詐欺だなんだと騒ぐ私に、クチナシがまたあわあわとしはじめる。
[すてないで]
「死にかけてたとはいえ、人を神隠しできちゃうような化け物を拾って〝私のもの〟とか言ってた事実そのものを無かったことにしたい場合は……?」
[しんじゃう]
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家に帰ったのはいつもより少し遅いくらいの時間だったけど。図書館に寄っていたと言えば言い訳が立つくらいの遅さだったから、なんの問題もなく。
私にとっての問題が起きたのは、私以外、誰も訪れないはずの廃屋を〝誰か〟が訪れた、その次の日になってからのことだった。
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