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第4話
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相変わらずアルマシア様から嫌がらせされているけど、私の心は余裕だった。
何も知らずに嫌がらせして楽しんでいるアルマシア様はリフィン殿下から婚約破棄を告げられたらどんな顔をするのだろう?
婚約破棄の理由が嫌がらせだと知ったら後悔するのだろうか?
考えただけで楽しくなってしまう。
「まったく何が楽しいのか理解できませんわ。そんな不気味な顔をして」
「申し訳ありません、これが私の顔ですので」
「これだから男爵家の令嬢は駄目ですわ。もっと美容に気を付けなさい。そんな顔では婚約者もできませんわよ?」
「貴重なご意見、ありがとうございます」
婚約者もできないような顔で悪かったわね。
でも婚約者から婚約破棄されるような公爵令嬢よりもいいと思うけど?
それに美容で顔がどうにかなるなら、アルマシア様の素顔は相当に酷いものなのでしょうね?
美容も大切だけど、その臭い香水もどうにかしてほしい。
取り巻きも匂いに耐えているのだとすれば立派だと思う。
家のために仕方なく取り巻きになっているのだと思うと同情してしまう。
アルマシア様は私の言葉を言葉通りに受け取ったのか、今回は満足したように去っていった。
でもその時はそれで終わったものの、アルマシア様からの嫌がらせはエスカレートしていった。
もう隠し続けることもできなくなっているし、他の人だってアルマシア様の振る舞いに陰口を叩いているというのに。
本人だけは気付いていないようだけど、それもアルマシア様が生まれ持った才覚の一つなのかもしれない。
* * * * * * * * * *
やがて学園主催のパーティーの日が近づいてきた。
私は再びリフィン殿下に呼び出された。
「今まで我慢させてしまって本当に申し訳ない。でももう準備も整ったし、あと数日の辛抱だ」
「お気遣いありがとうございます。私は大丈夫ですので」
アルマシア様からの嫌がらせで悩んでいたのは最初の頃だけ。
慣れないと学園での生活に支障が出るし、私だって否応なく図太くなってしまった。
このような図太さを身につけることも学園での学びだったのかもしれない。
「それにしてもアルマシアは残念だったよ。注意しても耳を貸さないし、当然行動を改めることもない。これでロンカスター公爵家の令嬢というのだから情けなくなる」
「ごもっともです」
「クロエ嬢はアルマシアに思うところはないのか?」
「もちろんありますよ。でも私はリニス男爵令嬢。男爵家の娘ごときが公爵家に逆らったらどうなってしまうか容易に想像できます。だから耐えるしかできませんでした」
「…本当にすまなかった。その分も含めてロンカスター公爵家に慰謝料を請求してくれ。拒否するようなら王家が介入する」
「……よろしいのですか?」
「ああ」
たかが男爵家ごときに慰謝料を支払うなんてロンカスター公爵家にとっては屈辱だろう。
金額の大小ではなく名誉の問題。
その責任がアルマシア様にあるのだから、ただでは済まされないだろう。
アルマシア様がよりいっそう激しく責められるためにも慰謝料を請求して差し上げないと。
私にはリフィン殿下がついているのだから負けるはずがない。
ふとリフィン殿下の友人の一人、グラハント様と目が合ってしまった。
まるで私の全てを見透かすような眼差し。
宰相のご令息というのは伊達ではないと思った。
「二人で見つめ合って、どうしたんだ?」
見つめ合ってしまった私たちにリフィン殿下が気付いたようだ。
どうしたと訊かれても…。
「クロエ嬢の強さに感服していました。あれだけ酷い嫌がらせを受けたというのに心が折れていない。すごいことだとは思いませんか?」
「すごいかもしれないが、それは同時に俺の落ち度でもある。俺がアルマシアをもっと早くどうにかしてれば良かったんだ。いつか変わってくれると信じていたが、どうやら期待しすぎていたようだ」
「人はそう簡単に変わらないものですよ、リフィン殿下」
私は必要に迫られて強くなっただけ。
それが強いと言われた理由なのかもしれない。
でも…グラハント様は本当にその理由で私を見ていたのだろうか。
もっと違うものを見ていたように感じたけど…。
「ちなみにグラハントには婚約者がいないぞ」
それは余計なおせっかいではありませんか?
何も知らずに嫌がらせして楽しんでいるアルマシア様はリフィン殿下から婚約破棄を告げられたらどんな顔をするのだろう?
婚約破棄の理由が嫌がらせだと知ったら後悔するのだろうか?
考えただけで楽しくなってしまう。
「まったく何が楽しいのか理解できませんわ。そんな不気味な顔をして」
「申し訳ありません、これが私の顔ですので」
「これだから男爵家の令嬢は駄目ですわ。もっと美容に気を付けなさい。そんな顔では婚約者もできませんわよ?」
「貴重なご意見、ありがとうございます」
婚約者もできないような顔で悪かったわね。
でも婚約者から婚約破棄されるような公爵令嬢よりもいいと思うけど?
それに美容で顔がどうにかなるなら、アルマシア様の素顔は相当に酷いものなのでしょうね?
美容も大切だけど、その臭い香水もどうにかしてほしい。
取り巻きも匂いに耐えているのだとすれば立派だと思う。
家のために仕方なく取り巻きになっているのだと思うと同情してしまう。
アルマシア様は私の言葉を言葉通りに受け取ったのか、今回は満足したように去っていった。
でもその時はそれで終わったものの、アルマシア様からの嫌がらせはエスカレートしていった。
もう隠し続けることもできなくなっているし、他の人だってアルマシア様の振る舞いに陰口を叩いているというのに。
本人だけは気付いていないようだけど、それもアルマシア様が生まれ持った才覚の一つなのかもしれない。
* * * * * * * * * *
やがて学園主催のパーティーの日が近づいてきた。
私は再びリフィン殿下に呼び出された。
「今まで我慢させてしまって本当に申し訳ない。でももう準備も整ったし、あと数日の辛抱だ」
「お気遣いありがとうございます。私は大丈夫ですので」
アルマシア様からの嫌がらせで悩んでいたのは最初の頃だけ。
慣れないと学園での生活に支障が出るし、私だって否応なく図太くなってしまった。
このような図太さを身につけることも学園での学びだったのかもしれない。
「それにしてもアルマシアは残念だったよ。注意しても耳を貸さないし、当然行動を改めることもない。これでロンカスター公爵家の令嬢というのだから情けなくなる」
「ごもっともです」
「クロエ嬢はアルマシアに思うところはないのか?」
「もちろんありますよ。でも私はリニス男爵令嬢。男爵家の娘ごときが公爵家に逆らったらどうなってしまうか容易に想像できます。だから耐えるしかできませんでした」
「…本当にすまなかった。その分も含めてロンカスター公爵家に慰謝料を請求してくれ。拒否するようなら王家が介入する」
「……よろしいのですか?」
「ああ」
たかが男爵家ごときに慰謝料を支払うなんてロンカスター公爵家にとっては屈辱だろう。
金額の大小ではなく名誉の問題。
その責任がアルマシア様にあるのだから、ただでは済まされないだろう。
アルマシア様がよりいっそう激しく責められるためにも慰謝料を請求して差し上げないと。
私にはリフィン殿下がついているのだから負けるはずがない。
ふとリフィン殿下の友人の一人、グラハント様と目が合ってしまった。
まるで私の全てを見透かすような眼差し。
宰相のご令息というのは伊達ではないと思った。
「二人で見つめ合って、どうしたんだ?」
見つめ合ってしまった私たちにリフィン殿下が気付いたようだ。
どうしたと訊かれても…。
「クロエ嬢の強さに感服していました。あれだけ酷い嫌がらせを受けたというのに心が折れていない。すごいことだとは思いませんか?」
「すごいかもしれないが、それは同時に俺の落ち度でもある。俺がアルマシアをもっと早くどうにかしてれば良かったんだ。いつか変わってくれると信じていたが、どうやら期待しすぎていたようだ」
「人はそう簡単に変わらないものですよ、リフィン殿下」
私は必要に迫られて強くなっただけ。
それが強いと言われた理由なのかもしれない。
でも…グラハント様は本当にその理由で私を見ていたのだろうか。
もっと違うものを見ていたように感じたけど…。
「ちなみにグラハントには婚約者がいないぞ」
それは余計なおせっかいではありませんか?
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