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第1話
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王立貴族学園は王族や貴族家の子女たちの学びの場でもある。
学びとは学問のみならず、礼儀作法や上下関係も含まれる。
そして、理不尽な嫌がらせも。
「教科書に落書きするなんて酷いわね………」
教材は国が用意しているため、このような行為は国王陛下への不敬である。
私個人の持ち物ではないのだから、私に嫌がらせしているつもりなら全然意味がないことになる。
まさかその程度のことも考えられなかったのだろうか。
犯人はロンカスター公爵令嬢のアルマシア様に決まっている。
普段から取り巻きを引きつれ私を見下してくるし、今までも何度も何度も繰り返されてきたことだ。
私はリニス男爵令嬢。
とてもではないけどロンカスター公爵家に逆らえないので、アルマシア様の嫌がらせを甘んじて受けるしかなかった。
「子供じみた嫌がらせよね。頭の中も子供なのかも」
教科書への落書きは幼児の落書きのような絵と、間違えているけど私の名前に似たサインがしてあった。
ヘタクソな絵にはセンスの欠片もないし、名前を間違えるのはわざとでなければ間違えていることにすら気付いていないのだと思う。
これが公爵令嬢の振る舞いだとすれば残念で他ならない。
でもこれが現実。
こういった現実を学べたことは有意義だし、学園もこういった現実を学ばせる場なのだろう。
「あらあら、教科書に落書きするなんてみっともないですわよ」
声のほうを見てみれば犯人であるアルマシア様がいた。
いつも通り取り巻きを引き連れて。
「本当にみっともないと思います」
教科書すら見ないで落書きだと言ってしまったのは犯人であることの自白。
嫌がらせで落書きするなんて、本当にみっともない。
ましてやそれがロンカスター公爵家の令嬢のしたことなのだから。
私の反応が気に入らなかったのか、アルマシア様は不機嫌そうな表情になった。
「まったくクロエ様は反省なさらないのですね。以前からそうですわ。学園は学びの場なのですよ?もう少し貴族の令嬢らしい振る舞いを身につけてほしいですわ」
「…善処します」
貴族らしい振る舞いとは爵位が高い者から低い者へと嫌がらせすることを言うのだろうか?
「これだから男爵家は残念ですわ」
取り巻きたちも同意とばかりに頷いている。
ロンカスター公爵家も残念だと思う。
ここからはお決まりのロンカスター公爵家の自慢が始まった。
もう数えきれないくらい聞かされているので私は適当に相槌を打ちならが聞き流していた。
そしてやってきた、私を救ってくれるヒーロー。
「何をしているんだ?」
「まあ、リフィン殿下!嬉しいですわ。わたくしに会いに来てくださったの?」
「…ああ」
微妙な間が二人の関係を表している。
リフィン殿下はアルマシア様の婚約者。
でも内心はアルマシア様にうんざりしているのだと思う。
「わたくし、そこのクロエ様に勉強を教えて差し上げていましたのよ。ロンカスター公爵家の令嬢として男爵家の令嬢であろうとも手助けして差し上げるのは当然のことですわ」
「……そうだったのか。取り込み中だったならすまない。また後で出直してくる」
リフィン殿下はそう言って去ろうとしたけど、アルマシア様に対しては絶大な効果を発揮した。
「待ってくださいませ!もう用事は済みましたわ!」
「そ、そうか。では場所を変えよう」
「はい!」
上機嫌なアルマシアを引き連れ、リフィン殿下は教室から出ていこうとした。
リフィン殿下は一瞬だけこちらを振り向き、目が合ったように思えた。
きっとリフィン殿下はアルマシア様から私を助け出してくれたのだと思う。
そうでなければあのアルマシア様と一緒にいようとするはずがないもの。
リフィン殿下は本当に素敵な方で、憧れてしまう。
でも私は男爵家の令嬢。
リフィン殿下が私と婚約したいなんて言い出したら殿下の頭がおかしくなったとしか思えない。
だからこれはただの憧れ。
リフィン殿下ではなくとも素敵な婚約者ができればいいなと思ってしまう。
婚約者を見つけることも学園の役割の一つ。
嫌がらせばかりされているけど、これが私の日常。
貴族社会において男爵令嬢の立場はこのようなものだった。
学びとは学問のみならず、礼儀作法や上下関係も含まれる。
そして、理不尽な嫌がらせも。
「教科書に落書きするなんて酷いわね………」
教材は国が用意しているため、このような行為は国王陛下への不敬である。
私個人の持ち物ではないのだから、私に嫌がらせしているつもりなら全然意味がないことになる。
まさかその程度のことも考えられなかったのだろうか。
犯人はロンカスター公爵令嬢のアルマシア様に決まっている。
普段から取り巻きを引きつれ私を見下してくるし、今までも何度も何度も繰り返されてきたことだ。
私はリニス男爵令嬢。
とてもではないけどロンカスター公爵家に逆らえないので、アルマシア様の嫌がらせを甘んじて受けるしかなかった。
「子供じみた嫌がらせよね。頭の中も子供なのかも」
教科書への落書きは幼児の落書きのような絵と、間違えているけど私の名前に似たサインがしてあった。
ヘタクソな絵にはセンスの欠片もないし、名前を間違えるのはわざとでなければ間違えていることにすら気付いていないのだと思う。
これが公爵令嬢の振る舞いだとすれば残念で他ならない。
でもこれが現実。
こういった現実を学べたことは有意義だし、学園もこういった現実を学ばせる場なのだろう。
「あらあら、教科書に落書きするなんてみっともないですわよ」
声のほうを見てみれば犯人であるアルマシア様がいた。
いつも通り取り巻きを引き連れて。
「本当にみっともないと思います」
教科書すら見ないで落書きだと言ってしまったのは犯人であることの自白。
嫌がらせで落書きするなんて、本当にみっともない。
ましてやそれがロンカスター公爵家の令嬢のしたことなのだから。
私の反応が気に入らなかったのか、アルマシア様は不機嫌そうな表情になった。
「まったくクロエ様は反省なさらないのですね。以前からそうですわ。学園は学びの場なのですよ?もう少し貴族の令嬢らしい振る舞いを身につけてほしいですわ」
「…善処します」
貴族らしい振る舞いとは爵位が高い者から低い者へと嫌がらせすることを言うのだろうか?
「これだから男爵家は残念ですわ」
取り巻きたちも同意とばかりに頷いている。
ロンカスター公爵家も残念だと思う。
ここからはお決まりのロンカスター公爵家の自慢が始まった。
もう数えきれないくらい聞かされているので私は適当に相槌を打ちならが聞き流していた。
そしてやってきた、私を救ってくれるヒーロー。
「何をしているんだ?」
「まあ、リフィン殿下!嬉しいですわ。わたくしに会いに来てくださったの?」
「…ああ」
微妙な間が二人の関係を表している。
リフィン殿下はアルマシア様の婚約者。
でも内心はアルマシア様にうんざりしているのだと思う。
「わたくし、そこのクロエ様に勉強を教えて差し上げていましたのよ。ロンカスター公爵家の令嬢として男爵家の令嬢であろうとも手助けして差し上げるのは当然のことですわ」
「……そうだったのか。取り込み中だったならすまない。また後で出直してくる」
リフィン殿下はそう言って去ろうとしたけど、アルマシア様に対しては絶大な効果を発揮した。
「待ってくださいませ!もう用事は済みましたわ!」
「そ、そうか。では場所を変えよう」
「はい!」
上機嫌なアルマシアを引き連れ、リフィン殿下は教室から出ていこうとした。
リフィン殿下は一瞬だけこちらを振り向き、目が合ったように思えた。
きっとリフィン殿下はアルマシア様から私を助け出してくれたのだと思う。
そうでなければあのアルマシア様と一緒にいようとするはずがないもの。
リフィン殿下は本当に素敵な方で、憧れてしまう。
でも私は男爵家の令嬢。
リフィン殿下が私と婚約したいなんて言い出したら殿下の頭がおかしくなったとしか思えない。
だからこれはただの憧れ。
リフィン殿下ではなくとも素敵な婚約者ができればいいなと思ってしまう。
婚約者を見つけることも学園の役割の一つ。
嫌がらせばかりされているけど、これが私の日常。
貴族社会において男爵令嬢の立場はこのようなものだった。
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