19 / 21
第19話
しおりを挟む
荷物を降ろしては倉庫スペースに運び込むマーティン。
作業の邪魔をするのも気が引けるけど、私の様子に気付いたのか、マーティンのほうから声をかけてくれた。
「どうだった?」
「いい店だと思うわ。それで気になったけど……二階の居住スペースをどう使うの?」
一緒に住むとか暮らすという言葉にはできなかった。
私が期待しているように思われるのも恥ずかしかったし、嫌がっていると捉えられるのも避けたかった。
マーティンのことだから私の胸中を察すると思うけど。
相変わらず私は弱いしズルい。
こんな自分を変えなければならないと思うけど………。
「ミリエさえ良ければ一緒に住まないか?」
マーティンの言葉はストレートだった。
一緒に住もうと言ってくれたのは…私のことを嫌ではない証拠だと思う。
それは嬉しいことだけど、私が欲しいのは別の言葉。
二人の関係を一歩進めるための言葉がほしい。
その言葉を聞ければ私は自分に自信が持てるかもしれない。
……こうやってマーティンに期待してばかりの自分が嫌になる。
マーティンが今まで決定的な言葉を口にしてくれなかったのは私が悩んでいる態度を見せていたからかもしれない。
マーティンのことだから私が訊けば真摯に答えてくれるに違いない。
そこまで理解しているというのに、今まで訊かなかった私の責任もある。
これからの私たちのためにも、ここは私が勇気を出すべきところ。
いつまでも自分の不甲斐なさに言い訳するようではいけないと思った。
だから私は自分から言葉にする。
マーティンの答えも予想できるけど、こういったことはお互いに言葉として伝えあうべきだから。
「私たちは未婚の男女なのだから、外聞が悪くない?」
「知っている人なんていないだろうし、気にしなくていいよ。気になるならミリエのために別に家を借りてもいいけど…」
「私が気にしているのはそこではないの。………マーティンが私をどう想っているのかなの」
言えた。
言ってしまった。
マーティンは少しの沈黙の後、私に告げた。
「俺はミリエのことが好きだ。ずっと昔からだ。……ミリエが俺のことをどう考えているのか不安で今まで言い出せなくてごめん」
やはりマーティンはずっと昔から私のことを好きでいてくれた。
それは…私の過去も受け入れてくれるということなのだろう。
でもやはりそれも言葉にしてほしい。
「私もマーティンのことが好きよ。でも私は一度結婚に失敗しているの。そんな私でいいの?」
「そんなこと気にしたりしないよ。むしろ俺がミリエを幸せにする。約束するよ。だから俺はミリエがいいんだ」
「ありがとう、そんなに嬉しいことを言われたのは初めて……」
嬉しさから涙が溢れてしまう。
悲しくて泣いたことは何度もあったけど、嬉しくて泣いたのは初めてかもしれない。
そんな私をマーティンは優しく抱きしめてくれた。
「ここで幸せになろう。新しい店と新しい人生。俺たちは一緒に幸せになるんだ」
「ええ……」
マーティンが感じさせてくれた幸せな未来。
今度こそ幸せを手にするため、私たちは努力しなくてはならない。
こうして私たちは一緒に暮らし始め、店もオープンに向けて忙しく準備する日々が始まった。
作業の邪魔をするのも気が引けるけど、私の様子に気付いたのか、マーティンのほうから声をかけてくれた。
「どうだった?」
「いい店だと思うわ。それで気になったけど……二階の居住スペースをどう使うの?」
一緒に住むとか暮らすという言葉にはできなかった。
私が期待しているように思われるのも恥ずかしかったし、嫌がっていると捉えられるのも避けたかった。
マーティンのことだから私の胸中を察すると思うけど。
相変わらず私は弱いしズルい。
こんな自分を変えなければならないと思うけど………。
「ミリエさえ良ければ一緒に住まないか?」
マーティンの言葉はストレートだった。
一緒に住もうと言ってくれたのは…私のことを嫌ではない証拠だと思う。
それは嬉しいことだけど、私が欲しいのは別の言葉。
二人の関係を一歩進めるための言葉がほしい。
その言葉を聞ければ私は自分に自信が持てるかもしれない。
……こうやってマーティンに期待してばかりの自分が嫌になる。
マーティンが今まで決定的な言葉を口にしてくれなかったのは私が悩んでいる態度を見せていたからかもしれない。
マーティンのことだから私が訊けば真摯に答えてくれるに違いない。
そこまで理解しているというのに、今まで訊かなかった私の責任もある。
これからの私たちのためにも、ここは私が勇気を出すべきところ。
いつまでも自分の不甲斐なさに言い訳するようではいけないと思った。
だから私は自分から言葉にする。
マーティンの答えも予想できるけど、こういったことはお互いに言葉として伝えあうべきだから。
「私たちは未婚の男女なのだから、外聞が悪くない?」
「知っている人なんていないだろうし、気にしなくていいよ。気になるならミリエのために別に家を借りてもいいけど…」
「私が気にしているのはそこではないの。………マーティンが私をどう想っているのかなの」
言えた。
言ってしまった。
マーティンは少しの沈黙の後、私に告げた。
「俺はミリエのことが好きだ。ずっと昔からだ。……ミリエが俺のことをどう考えているのか不安で今まで言い出せなくてごめん」
やはりマーティンはずっと昔から私のことを好きでいてくれた。
それは…私の過去も受け入れてくれるということなのだろう。
でもやはりそれも言葉にしてほしい。
「私もマーティンのことが好きよ。でも私は一度結婚に失敗しているの。そんな私でいいの?」
「そんなこと気にしたりしないよ。むしろ俺がミリエを幸せにする。約束するよ。だから俺はミリエがいいんだ」
「ありがとう、そんなに嬉しいことを言われたのは初めて……」
嬉しさから涙が溢れてしまう。
悲しくて泣いたことは何度もあったけど、嬉しくて泣いたのは初めてかもしれない。
そんな私をマーティンは優しく抱きしめてくれた。
「ここで幸せになろう。新しい店と新しい人生。俺たちは一緒に幸せになるんだ」
「ええ……」
マーティンが感じさせてくれた幸せな未来。
今度こそ幸せを手にするため、私たちは努力しなくてはならない。
こうして私たちは一緒に暮らし始め、店もオープンに向けて忙しく準備する日々が始まった。
55
お気に入りに追加
223
あなたにおすすめの小説

【全4話】私の婚約者を欲しいと妹が言ってきた。私は醜いから相応しくないんだそうです
リオール
恋愛
私の婚約者を欲しいと妹が言ってきた。
私は醜いから相応しくないんだそうです。
お姉様は醜いから全て私が貰うわね。
そう言って妹は──
※全4話
あっさりスッキリ短いです

【完結】私は駄目な姉なので、可愛い妹に全てあげることにします
リオール
恋愛
私には妹が一人いる。
みんなに可愛いとチヤホヤされる妹が。
それに対して私は顔も性格も地味。暗いと陰で笑われている駄目な姉だ。
妹はそんな私の物を、あれもこれもと欲しがってくる。
いいよ、私の物でいいのならあげる、全部あげる。
──ついでにアレもあげるわね。
=====
※ギャグはありません
※全6話

婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?
リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。
だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。
世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何?
せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。
貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます!
=====
いつもの勢いで書いた小説です。
前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。
妹、頑張ります!
※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…

姉にざまぁされた愚妹ですが何か?
リオール
恋愛
公爵令嬢エルシーには姉のイリアが居る。
地味な姉に対して美しい美貌をもつエルシーは考えた。
(お姉様は王太子と婚約してるけど……王太子に相応しいのは私じゃないかしら?)
そう考えたエルシーは、自らの勝利を確信しながら動き出す。それが破滅への道とも知らずに……
=====
性懲りもなくありがちな話。だって好きだから(•‿•)
10話完結。※書き終わってます
最初の方は結構ギャグテイストですがラストはシリアスに終わってます。
設定は緩いので何でも許せる方向けです。

虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?
リオール
恋愛
両親に虐げられ
姉に虐げられ
妹に虐げられ
そして婚約者にも虐げられ
公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。
虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。
それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。
けれど彼らは知らない、誰も知らない。
彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を──
そして今日も、彼女はひっそりと。
ざまあするのです。
そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか?
=====
シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。
細かいことはあまり気にせずお読み下さい。
多分ハッピーエンド。
多分主人公だけはハッピーエンド。
あとは……

理想の『女の子』を演じ尽くしましたが、不倫した子は育てられないのでさようなら
赤羽夕夜
恋愛
親友と不倫した挙句に、黙って不倫相手の子供を生ませて育てさせようとした夫、サイレーンにほとほとあきれ果てたリリエル。
問い詰めるも、開き直り復縁を迫り、同情を誘おうとした夫には千年の恋も冷めてしまった。ショックを通りこして吹っ切れたリリエルはサイレーンと親友のユエルを追い出した。
もう男には懲り懲りだと夫に黙っていたホテル事業に没頭し、好きな物を我慢しない生活を送ろうと決めた。しかし、その矢先に距離を取っていた学生時代の友人たちが急にアピールし始めて……?


真実の愛かどうかの問題じゃない
ひおむし
恋愛
ある日、ソフィア・ウィルソン伯爵令嬢の元へ一組の男女が押しかけた。それは元婚約者と、その『真実の愛』の相手だった。婚約破棄も済んでもう縁が切れたはずの二人が押しかけてきた理由は「お前のせいで我々の婚約が認められないんだっ」……いや、何で?
よくある『真実の愛』からの『婚約破棄』の、その後のお話です。ざまぁと言えばざまぁなんですが、やったことの責任を果たせ、という話。「それはそれ。これはこれ」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる