上 下
18 / 21

第18話

しおりを挟む
ずっと気にかかっていたことの一つが、マーティンに店を手放させてしまったのではないかという疑問だった。
でもマーティンから改めて説明を受ければウェーバー子爵領に将来性は無いのだから店を移転させたほうがいいと思えた。
移転先の店舗の準備もしていたと聞かされ驚かされたし、やはりマーティンは私では思いつかないような先まで考えて手を打っているのだと改めて尊敬してしまった。

それは商人としての部分。
一人の男性としては私に最大限気を使ってくれているし、それが好意からのものだと…信じたい。
それなのに言葉では好意を伝えてくれないし……私だけが勝手に思い込んでいるとしたら恥ずかしい。
マーティンが言葉にしてくれないから私も自信が持てないのに。

私はマーティンに依存しなければ生きていけない。
働く場所を自分で探すとなれば、伝手も何も無い領地では苦労するだろう。
それよりもマーティンの厚意…あるいは好意に甘えてしまったほうが楽。

ズルいのかもしれないけど、私が勝手な思い込みでマーティンの前から去ってしまえばお互いに後悔するに決まっている。
マーティンの気持ちを言葉にして伝えてくれないのだから、今はまだその時ではないのかもしれない。
今の私にできることは、せめて仕事を手伝って価値を認めてもらうこと。
最悪恋愛感情を抱かれていなかったとしても役立つ従業員なら手元に置いておいてくれるかもしれない。
本当は恋愛感情を抱いてくれて……しっかりと言葉にしてくれて、それで………結婚もいいのかも……………。

どうしても弱気になってしまう。
気持ちがわからないから不安になってしまう。
考えれば考えるほど悪い方向へと考えてしまいそう。

やはり真面目に働いて価値を認めてもらうことから始めよう。
そうしている間にもマーティンが気持ちを伝えてくれるかもしれないし。

そんなことを考えつつ、目的地へと到着した。

* * * * * * * * * *

小さめかもしれない二階建ての店舗。
少なくともウェーバー子爵領にあったドーリッツ商会よりも建物は小さい。
その前に荷馬車は止まった。

「着いたよ。ここが新しいドーリッツ商会の店」
「良さそうなお店ね」
「ちょっと小さいかもしれないけどね。でも商売が軌道に乗ったら新しい店に移転してもいいし。今はこれがちょうどいいかな」
「そうね」
「今、鍵を開けるよ。ミリエは自由に中を見ておいて。その間に俺が荷物を運び込んでおくから」
「わかったわ」

マーティンは荷馬車から降り、私が降りるために手を差し伸べてくれた。
私は手を取り荷馬車から降りる。
ただそれだけなのに、手の触れ合いを意識してしまった。

さりげない優しさや気遣いかもしれないけど、私にはそれが嬉しかった。
ギャレー様はそんなことをするような人ではなかったから。

私は人並の幸せを得たい。
それがマーティンとなら……。

「開いたから中へどうぞ」
「ありがとう」

私はどんな顔をしているのだろう。
なんとなく気恥ずかしくて早足で店の中へと入る。

一階は店としての部分と、その奥には事務用のスペースに倉庫用のスペース。
二階は居住用のスペースだった。

……私はどこに住むのだろう?
宿や別に家を借りるとなると金銭的に厳しい。
マーティンが別に住んで私がここに住むのもおかしな話だと思う。
そう考えると………二人でここに住む!?

一応未婚の男女なのだから一緒に住むのは…せめて好意を伝えてからにしてほしい。
……そんなこと気にせずに住んでしまうのもありなのかもしれない。
だってここには知っている人なんて誰もいないもの。
文句を言われるような筋合いは無いし、他人を気にしすぎる必要も無いのかもしれない。

………マーティンに訊いてみないと。

…………私が意識しすぎているように思われたら恥ずかしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹に陥れられ処刑決定したのでブチギレることにします

リオール
恋愛
実の妹を殺そうとした罪で、私は処刑されることとなった。 違うと言っても、事実無根だとどれだけ訴えても。 真実を調べることもなく、私の処刑は決定となったのだ。 ──あ、そう?じゃあもう我慢しなくていいですね。 大人しくしてたら随分なめられた事態になってしまったようで。 いいでしょう、それではご期待通りに悪女となってみせますよ! 淑女の時間は終わりました。 これからは──ブチギレタイムと致します!! ====== 筆者定番の勢いだけで書いた小説。 主人公は大人しく、悲劇のヒロイン…ではありません。 処刑されたら時間が戻ってやり直し…なんて手間もかけません。とっととやっちゃいます。 矛盾点とか指摘したら負けです(?) 何でもオッケーな心の広い方向けです。

【完結】愛人宅に入り浸る夫が帰ってきたと思ったら、とんでもないこと始めたんだけど

リオール
恋愛
侯爵令息テリーと伯爵令嬢エリスは永遠の愛を誓い合った。その愛は永遠に続くと二人は信じて── けれど三年後、二人の愛は既に終わっていた。テリーの浮気癖が原因で。 愛人宅に居座って戻らないテリーに、エリスはすっかり気持ちが冷めていた。 そんなある日、久々に帰宅したテリーがとんでもない提案をするのだった。 === 勢いで書いたご都合主義なお話です。細かい事はあまり気にしないでください。 あと主人公はやさぐれて口が悪いです。 あまり盛り上がりもなく終わります… ※全8話

婚約者とその浮気相手の令嬢がウザイのでキレることにしました

リオール
恋愛
婚約者が浮気相手と共謀して、私を悪者にして婚約破棄を宣言してきました。 そうですか!いいですよ! 婚約破棄、お受けします。 別に悲しくないですって! だから!婚約破棄でいいってば! せっかくの申し出を喜んで受けたというのに何だか納得しない二人。 え、残念がらなくちゃいけないの?嫌だと駄々こねなくちゃスッキリしない? そんなの知るか! 二人とも いい加減にしないと 「キレますよ?」 ※あまり深く考えないでお読み下さい。「ここおかしいよ?」なんてツッコミ入れたら負けです(何に) ※上品な令嬢をお求めの方は回れ右でお願いします。何でも受け入れられる心の広い方向けのお話です

【完結】何度時(とき)が戻っても、私を殺し続けた家族へ贈る言葉「みんな死んでください」

リオール
恋愛
「リリア、お前は要らない子だ」 「リリア、可愛いミリスの為に死んでくれ」 「リリア、お前が死んでも誰も悲しまないさ」  リリア  リリア  リリア  何度も名前を呼ばれた。  何度呼ばれても、けして目が合うことは無かった。  何度話しかけられても、彼らが見つめる視線の先はただ一人。  血の繋がらない、義理の妹ミリス。  父も母も兄も弟も。  誰も彼もが彼女を愛した。  実の娘である、妹である私ではなく。  真っ赤な他人のミリスを。  そして私は彼女の身代わりに死ぬのだ。  何度も何度も何度だって。苦しめられて殺されて。  そして、何度死んでも過去に戻る。繰り返される苦しみ、死の恐怖。私はけしてそこから逃れられない。  だけど、もういい、と思うの。  どうせ繰り返すならば、同じように生きなくて良いと思うの。  どうして貴方達だけ好き勝手生きてるの? どうして幸せになることが許されるの?  そんなこと、許さない。私が許さない。  もう何度目か数える事もしなかった時間の戻りを経て──私はようやく家族に告げる事が出来た。  最初で最後の贈り物。私から贈る、大切な言葉。 「お父様、お母様、兄弟にミリス」  みんなみんな 「死んでください」  どうぞ受け取ってくださいませ。 ※ダークシリアス基本に途中明るかったりもします ※他サイトにも掲載してます

虐げられてる私のざまあ記録、ご覧になりますか?

リオール
恋愛
両親に虐げられ 姉に虐げられ 妹に虐げられ そして婚約者にも虐げられ 公爵家が次女、ミレナは何をされてもいつも微笑んでいた。 虐げられてるのに、ひたすら耐えて笑みを絶やさない。 それをいいことに、彼女に近しい者は彼女を虐げ続けていた。 けれど彼らは知らない、誰も知らない。 彼女の笑顔の裏に隠された、彼女が抱える闇を── そして今日も、彼女はひっそりと。 ざまあするのです。 そんな彼女の虐げざまあ記録……お読みになりますか? ===== シリアスダークかと思わせて、そうではありません。虐げシーンはダークですが、ざまあシーンは……まあハチャメチャです。軽いのから重いのまで、スッキリ(?)ざまあ。 細かいことはあまり気にせずお読み下さい。 多分ハッピーエンド。 多分主人公だけはハッピーエンド。 あとは……

婚約破棄は別にいいですけど、優秀な姉と無能な妹なんて噂、本気で信じてるんですか?

リオール
恋愛
侯爵家の執務を汗水流してこなしていた私──バルバラ。 だがある日突然、婚約者に婚約破棄を告げられ、父に次期当主は姉だと宣言され。出て行けと言われるのだった。 世間では姉が優秀、妹は駄目だと思われてるようですが、だから何? せいぜい束の間の贅沢を楽しめばいいです。 貴方達が遊んでる間に、私は──侯爵家、乗っ取らせていただきます! ===== いつもの勢いで書いた小説です。 前作とは逆に妹が主人公。優秀では無いけど努力する人。 妹、頑張ります! ※全41話完結。短編としておきながら読みの甘さが露呈…

【完結】私は駄目な姉なので、可愛い妹に全てあげることにします

リオール
恋愛
私には妹が一人いる。 みんなに可愛いとチヤホヤされる妹が。 それに対して私は顔も性格も地味。暗いと陰で笑われている駄目な姉だ。 妹はそんな私の物を、あれもこれもと欲しがってくる。 いいよ、私の物でいいのならあげる、全部あげる。 ──ついでにアレもあげるわね。 ===== ※ギャグはありません ※全6話

好きだと言ってくれたのに私は可愛くないんだそうです【完結】

須木 水夏
恋愛
 大好きな幼なじみ兼婚約者の伯爵令息、ロミオは、メアリーナではない人と恋をする。 メアリーナの初恋は、叶うこと無く終わってしまった。傷ついたメアリーナはロメオとの婚約を解消し距離を置くが、彼の事で心に傷を負い忘れられずにいた。どうにかして彼を忘れる為にメアが頼ったのは、友人達に誘われた夜会。最初は遊びでも良いのじゃないの、と焚き付けられて。 (そうね、新しい恋を見つけましょう。その方が手っ取り早いわ。) ※ご都合主義です。変な法律出てきます。ふわっとしてます。 ※ヒーローは変わってます。 ※主人公は無意識でざまぁする系です。 ※誤字脱字すみません。

処理中です...