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第14話
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家から追い出された私が向かったのはドーリッツ商会。
今までお世話になったけど、もう取引することもなくなるだろう。
何よりもドーリッツ会頭が力になってくれると言ってくれたから。
でも今の私はウェーバー夫人ではなく、何の後ろ盾も無い平民。
商会に利益をもたらせるような立場ではなくなってしまった。
もし…今の私を受け入れてくれるのであれば……。
都合良く利用しようとする私は悪い女だ。
他に頼れる人もいないし、領地から出て行くだけでも一苦労。
ドーリッツ会頭に助けてもらえるなら他のどんな選択よりも良いものになるはず。
利用することに心を痛めようとも、私は生きなくてはならない。
* * * * * * * * * *
「いらっしゃいませ。ギャレー様のことは存じています」
「そうでしたか…。私の立場も変わってしまいましたし、説明とこれからのことを相談したいのですがよろしいですか?」
「はい、承ります」
ギャレー様のことを知っているのに私への丁寧な接し方は変わらない。
でも私はもう身分を失ったのだから偉そうに振る舞ったりはしない。
「どこから話しましょうか…。まず、私はもうウェーバー夫人では無くなりました。家からも追い出されましたし、領主様の命令で領地から出て行かなくてはならなくなりました。期日は定められていませんが、ご領主様の気まぐれでどうなるかわからないので、早めに出て行ったほうがいいでしょう」
「そうだったのですね」
「もう取引することも無いでしょうし、今まで無理難題を押し付けてしまって申し訳ありませんでした。ドーリッツ商会への感謝は忘れません」
「改まらなくていいですよ。あくまでも商人として取引をしただけですから。当商会の利益だって十分ありました」
「それなら気持ちが楽になります」
商売のことには詳しくないけど、ドーリッツ会頭が利益が十分にあったと言うのだからそうなのだろう。
一方的に迷惑をかける関係でなくて本当に良かった。
でも問題はこれから。
私が無理難題を頼まなくてはならない。
ドーリッツ会頭の優しさに付け込まなくてはならない。
「それとご相談なのですが…領地から出なくてはならないので、お力を貸してはいただけませんでしょうか?払えるような対価はないのですが…。もしよろしければ雇っていただければ薄給で構いませんので働いて返します」
「…少々考えさせてください」
「はい」
ドーリッツ会頭は考え込む。
どのような答えが出てくるのか、私は不安になりながらも静かに待った。
この後に告げられる言葉で私の人生は大きく変わるだろう。
「わかりました、雇いましょう。ついでに他領に商会を移転させます。それと一つ…いえ、二つほど条件があるのですが…」
「何でしょう?」
体を差し出せと要求するなら受け入れる覚悟がある。
そんな要求をするような人ではないと信じているけど。
一度結婚している私にそこまで価値があるとも思えないし。
「マーティンと呼んでください。それと、もっと砕けた口調で話してください。あと、ミリエと呼ばせてください」
まさかの条件に思わず笑ってしまった。
商会の利益なんて全く関係ないし、私が失うものは何も無い。
むしろ私の利益になるような条件。
「わかったわ、マーティン。でも条件は二つだけじゃなかったの?」
「おっと、失礼。ではそのお詫びで良い待遇で雇うことにするよ」
わざと自分の落ち度を作って私に負担をかけないようにしてくれる気遣いが嬉しい。
やはり…マーティンはそういった人だった。
これで領地から出て行くこともできるだろう。
私の未来に希望が抱けるようになった。
これも全部マーティンのおかげ。
「でもいいの?商会の移転なんて大変でしょう?」
「もうウェーバー子爵領から出て行きたくなったんだ。ちょうどいいきっかけだったよ。前から考えてはいたんだ。ミリエのことも決断のきっかけにはなったけど、早いか遅いかの違いだから気にしなくていいよ」
「そう言ってもらえると助かるわ」
「さて、移転の準備をしないといけないな。ミリエは泊まるところはある?無いなら宿代を出すよ。何日かかかるかもしれないけど宿代は気にしないで」
…ここまで甘えておきながら、今になって遠慮するのもおかしいと思う。
マーティンなりに考えてのことだろうから、素直に従ったほうがいいに決まっている。
「わかったわ。マーティンには感謝しているわ」
「ははっ、ミリエの力になると誓ったからね。気にしてくれてもいいよ?」
「ふふっ、それなら気にするわ」
こんなやり取りが楽しい。
これが私の手にしたかった現実。
できればもっと……。
ギャレー様への未練なんて微塵も存在していなかった。
死を悲しむような関係ではなかったもの。
今までお世話になったけど、もう取引することもなくなるだろう。
何よりもドーリッツ会頭が力になってくれると言ってくれたから。
でも今の私はウェーバー夫人ではなく、何の後ろ盾も無い平民。
商会に利益をもたらせるような立場ではなくなってしまった。
もし…今の私を受け入れてくれるのであれば……。
都合良く利用しようとする私は悪い女だ。
他に頼れる人もいないし、領地から出て行くだけでも一苦労。
ドーリッツ会頭に助けてもらえるなら他のどんな選択よりも良いものになるはず。
利用することに心を痛めようとも、私は生きなくてはならない。
* * * * * * * * * *
「いらっしゃいませ。ギャレー様のことは存じています」
「そうでしたか…。私の立場も変わってしまいましたし、説明とこれからのことを相談したいのですがよろしいですか?」
「はい、承ります」
ギャレー様のことを知っているのに私への丁寧な接し方は変わらない。
でも私はもう身分を失ったのだから偉そうに振る舞ったりはしない。
「どこから話しましょうか…。まず、私はもうウェーバー夫人では無くなりました。家からも追い出されましたし、領主様の命令で領地から出て行かなくてはならなくなりました。期日は定められていませんが、ご領主様の気まぐれでどうなるかわからないので、早めに出て行ったほうがいいでしょう」
「そうだったのですね」
「もう取引することも無いでしょうし、今まで無理難題を押し付けてしまって申し訳ありませんでした。ドーリッツ商会への感謝は忘れません」
「改まらなくていいですよ。あくまでも商人として取引をしただけですから。当商会の利益だって十分ありました」
「それなら気持ちが楽になります」
商売のことには詳しくないけど、ドーリッツ会頭が利益が十分にあったと言うのだからそうなのだろう。
一方的に迷惑をかける関係でなくて本当に良かった。
でも問題はこれから。
私が無理難題を頼まなくてはならない。
ドーリッツ会頭の優しさに付け込まなくてはならない。
「それとご相談なのですが…領地から出なくてはならないので、お力を貸してはいただけませんでしょうか?払えるような対価はないのですが…。もしよろしければ雇っていただければ薄給で構いませんので働いて返します」
「…少々考えさせてください」
「はい」
ドーリッツ会頭は考え込む。
どのような答えが出てくるのか、私は不安になりながらも静かに待った。
この後に告げられる言葉で私の人生は大きく変わるだろう。
「わかりました、雇いましょう。ついでに他領に商会を移転させます。それと一つ…いえ、二つほど条件があるのですが…」
「何でしょう?」
体を差し出せと要求するなら受け入れる覚悟がある。
そんな要求をするような人ではないと信じているけど。
一度結婚している私にそこまで価値があるとも思えないし。
「マーティンと呼んでください。それと、もっと砕けた口調で話してください。あと、ミリエと呼ばせてください」
まさかの条件に思わず笑ってしまった。
商会の利益なんて全く関係ないし、私が失うものは何も無い。
むしろ私の利益になるような条件。
「わかったわ、マーティン。でも条件は二つだけじゃなかったの?」
「おっと、失礼。ではそのお詫びで良い待遇で雇うことにするよ」
わざと自分の落ち度を作って私に負担をかけないようにしてくれる気遣いが嬉しい。
やはり…マーティンはそういった人だった。
これで領地から出て行くこともできるだろう。
私の未来に希望が抱けるようになった。
これも全部マーティンのおかげ。
「でもいいの?商会の移転なんて大変でしょう?」
「もうウェーバー子爵領から出て行きたくなったんだ。ちょうどいいきっかけだったよ。前から考えてはいたんだ。ミリエのことも決断のきっかけにはなったけど、早いか遅いかの違いだから気にしなくていいよ」
「そう言ってもらえると助かるわ」
「さて、移転の準備をしないといけないな。ミリエは泊まるところはある?無いなら宿代を出すよ。何日かかかるかもしれないけど宿代は気にしないで」
…ここまで甘えておきながら、今になって遠慮するのもおかしいと思う。
マーティンなりに考えてのことだろうから、素直に従ったほうがいいに決まっている。
「わかったわ。マーティンには感謝しているわ」
「ははっ、ミリエの力になると誓ったからね。気にしてくれてもいいよ?」
「ふふっ、それなら気にするわ」
こんなやり取りが楽しい。
これが私の手にしたかった現実。
できればもっと……。
ギャレー様への未練なんて微塵も存在していなかった。
死を悲しむような関係ではなかったもの。
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