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第12話

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後払いなんて普通は認めないが、相手が貴族であれば話は別だ。
それに…ウェーバー子爵一家を追い込むには良いきっかけになってくれるだろう。
支払わなければ不名誉であり商人たちからの信用も失う。
ドーリッツ商会が理不尽な踏み倒しに遭おうが支払わないほうが悪いに決まっている。
その程度の犠牲でウェーバー子爵一家を追い込めるなら安いものだ。

だがそういった意図なんて知るはずもなく、考え無しに話題にするような無能もいる。

「後払いですか?珍しいですね。踏み倒されなければいいですけどね」

ルベントは相変わらずだ。

「踏み倒したらどうなるかわかるだろう?」
「商会にとって丸損ですね」

…貴族が信用を失うことの意味を理解していないのか。
完全に庶民しか相手にしない商会なら貴族の信用なんて考える必要はないのかもしれないが、取引で信用を損ねたらどうなるか少し考えれば理解できるだろう。
ルベントはそんなことすら考えずに今まで商人として生きてきたのか。

……ドーリッツ商会が甘やかし続けた結果だな。

「他にどうなるか思いつかないか?」
「…あの美人の体で支払ってもらうとか?名案ですよね?」

………下種だな。
ルベント、お前は俺を完全に怒らせた。
だがここで怒りをぶつけようが俺の気が晴れるだけだろう。
商会内のこととはいえ不祥事は避けなくてはならない。
だがルベントに何もしないで俺の気が済むはずがない。

「……ルベントが商会を経営したら凄いことになりそうだな」
「へへっ、それが俺の本当の才能ってやつですよ。チャンスがあれば大商人に成り上がれるかもしれませんよ」
「もしドーリッツ商会を譲ると言ったらどうする?」
「俺が会頭ですか?まあ譲られてもいいですけど?」
「そうか」

自分の能力を自覚していないのだろう。
だがルベントがそのように考えているなら利用できるだろう。

そしてあることを閃いてしまった。

「後払いとはいえそれなりの金額だ。何か新しいことを始めるにはいいかもしれないな」
「その際は是非とも俺に任せてください。商会ごと譲ってくれても構いませんよ?」
「ははっ、期待しないでくれ」

ルベントは十分な野心を持っている。
後払いに期待するような間抜けが商人の世界で上手くやっていけるとは思えないが。
だがこれは布石だ。
この先どうなるかわからないが、一つの可能性としてルベントに期待させておくのは悪くない。

俺が考えている方法で自滅するのもいいし、ドーリッツ商会を辞めてくれてもいい。
亡き父の方針とはいえ、無能をのさばらせておくのは良くないと学べた。
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