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第11話

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ドーリッツ商会が仕入れたお酒はギャレー様にも好評だった。
飲みっぷりがすごいし、体調不良が嘘のよう。

「やはり俺に相応しい酒でないと美味いとは感じられないな。その証拠に不調が嘘のように酒が美味く感じられる。やはり安酒は駄目だな」
「仕入れにも苦労したようですから。ギャレー様が喜ばれたと知ればドーリッツ商会も喜ぶでしょう」
「はははは、褒めてやろう」

気分を良くしているけど、不調は治るはずがないし、きっと酔って気にならなくなっているだけだと思う。
この調子で気分良く大量に飲んでほしい。
絶対に体に悪いもの。

「しかし…一度医者にでも診てもらうべきか?安酒のせいか、やはり調子が悪いような気がする」
「そんな無駄金を使うとお酒が買えなくなりますよ?」
「そうだよな、考えすぎだよな。よし、新しい酒を開けるぞ。何かつまみも頼む」
「わかりました」

これもギャレー様が選んだこと。
今になって医者に診てもらったところでどうにもならないと思うし、酒をやめるよう言われたらギャレー様が逆上して医者のほうが危ない目に遭うかもしれない。
余計な被害者を出さないためにはギャレー様一人で自滅してもらわないと。

私はギャレー様に言われたのでつまみを用意する。
体に悪そうな、油と塩がたくさん使われているものを。

* * * * * * * * * *

ギャレー様の酒に溺れる日々は続き、あれだけあったはずのお酒も終わりが見えてきた。

「そろそろ酒を仕入れないと無くなりそうだな。ドーリッツ商会だったか?また仕入れるよう言っておけ」
「申し訳ないのですが資金的に厳しいです。ギャレー様の署名があれば後払いで買えると思いますけど…」
「署名か?いいだろう」

お金が無いのに後払いというのは支払う意思がないのかもしれない。
こんなことをすればドーリッツ商会に迷惑をかけることになるだけ。
でも…私がギャレー様に反論したところで怒られるだけ。
ドーリッツ商会には迷惑をかけるけど、ウェーバー子爵様から取り立てるという最終手段もある。
まさか支払いを踏み倒すとは思えないけど……あの子爵様なら後先考えずに踏み倒すかもしれない。
そのようなことをすれば信用を失うだけだけど。

これはドーリッツ会頭に説明しないと。
私のために無理しないでほしいけど、相談を持ち掛けた時点で私のために無理をしてくれることは容易に想像できる。

* * * * * * * * * *

ドーリッツ商会で私はドーリッツ会頭に正直に打ち明けた。

「そのような状況でしたか…。わかりました。署名があるなら後払いで構いません」
「本当にいいの?当家にはもうお金の余裕なんて無いのよ?損させてしまうわ」
「ギャレー様の署名があるからウェーバー子爵も払わないことはないでしょう。それに…もし支払わなければ、それこそウェーバー子爵は終わりますよ。契約を履行しないような人を商人は相手にしませんから」
「でも支払わなければドーリッツ商会の不利益になるでしょう?」
「…これはミリエ様のせいではありませんが、この領地での商売はもう厳しいかもしれません。もしウェーバー子爵が契約を軽んじるようであれば、その時は……」

私のせいでドーリッツ商会の商売に悪影響を与えてしまうのは心苦しい。
それよりもドーリッツ会頭が去ってしまうのは避けたい。
だって……。

「そうなってしまったら私は悲しいわ。他に信頼できる人なんていないもの」
「大丈夫ですよ、ミリエ様を残して商売を畳んだりはしませんから」
「ありがとう」

それ以上の言葉は口にしなかった。
だって私はギャレー様の妻。
不用意な言葉は問題を引き起こすだけだもの。

早くどうにかなってほしい。
いつまでもこんな気持ちでは私もドーリッツ会頭も苦しむだけだろうから。
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