私は悪くありません。黙って従うように言われたのですから。

田太 優

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第9話

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ウェーバー子爵夫妻に会ったところで歓迎されるはずがない。
そもそも孤児出身だということで私とギャレー様の結婚に反対され、ギャレー様が反対を押し切って結婚したという経緯がある。
特にウェーバー子爵夫人は私のことが気に入らないようで、顔を合わせればお小言を貰える関係。
そういった実績が何度もあるのだから、今回だって同じに決まっている。

とはいえ、今回呼び出された理由があるはず。
思い当たるのは財産の処分で商人を集めたこと。
派手に商人が出入りすれば噂にならないはずがない。
財産を処分するほどお金に困っているとか、お酒のためならいくらでも散財するとか、どれもギャレー様にとっては好ましくないものばかり。

ウェーバー子爵夫妻に会い、予想通り私は文句で歓迎された。

「随分と遅かったな。約束の時間すら守れないのか?それにその格好はなんだ?」
「いくら孤児だったからって代官夫人に相応しい格好というものがあるでしょ?これだから非常識な孤児なんてギャレーの妻にさせたくなかったのよ」
「……申し訳ありません」

とりあえず不本意でも謝罪しておけば義理の両親たちは気が済む。
それからも一通り文句を言われ、やっと本題に入った。

「最近ギャレーの悪評が広まっているようではないか。ミリエ、お前は妻としてギャレーを支えていないからそう噂されたのではないか?」
「そうよ、かわいいギャレーを誘惑したような女だもの。お金目当てなのよ。かなりお金に困っているなんて不名誉な噂まで聞いたわよ?恥ずかしいわ。どうしてくれるの?」

最初から私が悪いと決めつけている相手に何を言っても悪く捉えられるだろうけど、せめて事実を伝えたい。
事実を伝えようが私が悪いと決めつけられるに決まっているし、義理の両親を不機嫌にさせるだけだと理解している。
これは私の気持ちの問題。

「お金に困っているのは事実です。それもギャレー様が散財し、お酒に溺れているからです」
「いや、ギャレーは少々頼りないところはあるが、そんなことをするはずがないだろう。そもそもミリエに不満があるから酒に逃げているのではないか?」
「ギャレーのこと、悪く言ったわね?気に入らないなら離婚すればいいわ。結婚なんて最初から反対だったのよ」

やはり私が悪いと決めつけられた。
事実を伝えたところで無意味だと改めて理解できた。
それに私は伝えたのだ。
何かあってから責められようとも私にできることはしたのだ。

「…あまり妻として相応しくない態度を取り続けるようなら無理矢理にでも離婚させるしかないかもしれないな」
「そうよ、孤児のくせにギャレーと結婚するなんて生意気だったのよ。夫を立てて当然じゃない。それができないなら離婚しなさい」
「とはいえ離婚するとギャレーの評判も悪くなってしまう。…仕方ない、まずは黙ってギャレーに従ってギャレーの機嫌を取ることだな」
「……私は反対だけど、一応チャンスはあげるわ。だから失敗したら離婚しなさい」
「はい、わかりました」

黙ってギャレー様に従うよう、領主様に言われた。
領主様のご命令という正当性を得られたのだ。
領主様は領地の最高権力者であり、その言葉は法である。
だから私は命令にしたがってギャレー様の望むようにする。

それがギャレー様の死に向かおうとも。
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