私は悪くありません。黙って従うように言われたのですから。

田太 優

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第6話

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ミリエ様が不用品を処分すべく商人たちを集めようとしていることは知っていた。
あえて当商会に話を持ってこないのだから、当商会ばかり優遇しているという印象を打ち消すためだろう。
それに不用品とはいえ価値の無いものや売るのが難しい物を処分するのだと思う。

「儲け話、逃してしまっていいんですかい?」
「ウェーバー様が不用品を処分する話か?」
「そうです」

話しかけてきたのはルベントという、長く働いているだけの無能だった。
不用品とはいえ買い叩くようでは信用を失う。
ドーリッツ商会がどれだけ信用を大切にしてきたのか、長く働いていても理解できないような男だ。

「声がかからなかったのだから、こちらから参加したいと言い出すことはできない。それに儲けよりも大切なこともある」
「甘いですよ、会頭」
「確かに甘いよな」

ルベントのような無能を解雇しないのだから俺は経営者として甘いのだろう。
だがこんな男であっても父が残してくれたドーリッツ商会で雇っている男だ。
積極的に解雇するようでは父に申し訳ないように思えたので、温情で雇い続けている。
それももう終わりにしてもいいのかもしれない。

「俺がもっと腕を振るえるなら商会の規模も大きくできますよ?」
「…ドーリッツ商会にはドーリッツ商会のやり方がある。今は無理に商売を大きくしようとしなくていい」
「だから会頭は甘いと思われるんですよ」

小馬鹿にするような態度を取るルベント。
雇われている立場を理解していないのか、俺が甘くしたから付け上がってしまったのか…。

他の従業員たちはよく働いてくれているし、ドーリッツ商会としての方針を理解してくれている。
やはりルベントだけが問題なのだろう。

「それにミリエ様からもっと利益を引き出すべきですよ。あんなの都合のいいカモでしかないので、もっと利用してやりましょうよ」
「……一時的な利益を得るならそれもいいだろう。だが商人に大切なことは信用を得て信用を積み重ねていくことだ。そうしなければ長続きしないだろう」
「…欲がないことで」

やはりルベントはわかっていない。
最近ますます反抗的になってきたし、解雇もいいのかもしれない。

だが…ミリエ様を利用しようとするのは不愉快だ。
今、自由にさせてしまえばミリエ様に迷惑をかけるかもしれない。
……今しばらくは俺の目の届くところに置いておこう。

「他の商人たちに利益を持ってかれても知りませんよ?」
「それは問題ない」

同業者は敵だが本格的に敵に回すのは不利益になる。
せっかくミリエ様がドーリッツ商会のために気を使ってくださっているのだから、お前はもう少し裏を読めるようになれ。
…と言っても無駄だろう。
ルベントはこのずっと調子で生きてきたのだから、今になって大きく変わるとも思えない。

だがまだ俺がドーリッツ商会の会頭だからましだ。
ミリエ様はウェーバー様に逆らえないだろうし、無理難題を押し付けられているに決まっている。

せめて不用品の処分が上手くいくことを祈るだけだ。
俺には俺のできることがあるし、今すべきことは将来の可能性に備えることだ。
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