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第2話

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「売れる物は売ってでもお金を用意しないとね」

ギャレー様の散財の結果、家には無駄な物が多く存在している。
価値がなさそうな絵画なんかは売れるとは思えないけど、余るほど存在している食器なんかは換金しやすそう。
もちろん意味不明な絵皿ではなく、ギャレー様の趣味とは全然違う上品な銀製の食器に限るけど。
ギャレー様がどうにかしろと言ったのだから許可を得たようなものだし、いくらになるかはわからないけど、とにかく売るしかない。

とはいえギャレー様に気付かれると文句を言われるに決まっている。
どうにかしろと言ったことだって覚えていないとか言い訳して私を責めるに決まっているもの。
だから気付かれないよう、私でも持ち出せるものにしないといけない。
一度に持ち出せる量なんて限られているし、何度も売りに行くことになりそう。
そうなると人目につくし、ギャレー様の悪評が一つ増えてしまうかも。
今になって悪評が増えたところで大きな違いは無いと思うけど。

「買ったのに使わないなんて、本当に無駄よね…」

目当ての銀製の食器は比較的簡単に見つけられた。
盛大にパーティーを開いても余るくらい大量に存在している。
しかも未使用の新品。
どうせ来客すらほとんどないのだから、最低限使うかもしれない分を残して処分しても問題ないはず。
これだけあれば当面は換金に困らないだろう。

「問題は売れなさそうなものよね……」

主張が強すぎて合わせられる料理なんてなさそうな絵皿。
買い取り拒否されるかもしれないけど、僅かでもいいからお金になればいい。
まさか絵画よりも利用価値はあるだろうし…。

方針は決まったので売れそうな食器をバッグに入れ、ギャレー様に見つからないよう、こっそりと家を出た。

* * * * * * * * * *

私が向かったのは街の中では高級品を扱う雑貨商のドーリッツ商会。
他領との交易も行っているから買い取ったものを売るルートがあるかもしれないし、珍しいお酒だって手に入れられるかもしれない。
庶民向けの店だと貴族向けの食器の買い取りをお願いしたところで困るかもしれないし。

それにドーリッツ会頭のことを全然知らない訳でもない。
かつて食堂で働いていた時に何度も店に通っていた人だ。
個人的な会話なんてしたことがなかったけど、私に好意を抱いていたはず。
良さそうな人だったし、悪い噂も聞いたことがない。
むしろ若くしてドーリッツ商会を継ぐことになった苦労人でもあるし、ドーリッツ商会が今も問題なく存続できているのだからドーリッツ会頭は能力もあるということ。
もしギャレー様に見染められていなければドーリッツ会頭と結婚していた可能性だってあったかもしれない。

私は代官様の夫人なんて立場は不釣り合い。
かといって貧しさに苦労する日々も嫌。
暮らしに苦労することがなく尊敬できる人と結婚できたなら、私も幸せに過ごせていたかもしれない。

そんなことを考えていたらドーリッツ商会に着いてしまった。

「いらっしゃ……、失礼しました。ようこそお出で下さいました、ウェーバー夫人」
「かしこまらなくていいわよ、立派なのは立場だけ。私はよそ者だし孤児だったのも知っているでしょう?」
「申し訳ありません、他の人の目がどこにあるかわかりませんし、万が一ウェーバー様の知るところになると当商会もどうなるかわかりませんので…。申し訳ありません」

実態はともかく、他人から見れば私はギャレー様の妻、ウェーバー夫人という立場。
私としてはもっと庶民的な対応をしてほしかったけど、間違っていたのは私のほうだった。
知らない間柄ではないけど、ドーリッツ会頭も商売なのだから他人行儀な態度も仕方ないと思う。

ギャレー様の妻という立場が邪魔になっている。
気楽だった昔が懐かしく思える。
それに…ドーリッツ会頭はかつて私に向けてくれた好意の眼差しを今はもう失っている。
……さすがに代官様の妻になってしまった私に好意の眼差しを向けるはずないわね。

「配慮が足りなかったのは私のほうだったわ。無理なことを言ってごめんなさい」
「恐縮です。ご挨拶が遅れました、会頭のマーティン・ドーリッツと申します。どのようなご用件でしょうか?」

そうだった。
正式に名乗られたことが無かったのでマーティンという名前を失念していた。
ドーリッツ会頭は自分の名を名乗るほど積極的ではなかったけど、もし積極的だったとしてもギャレー様によって私たちが結ばれることはなかっただろう。

そんなもしもの可能性を考えるのは後回しにして、今は用件を済ませないと。

「食器の買い取りをお願いしたいの。それと珍しいお酒が手に入るのか知りたいの」
「買い取りは物を確認してからになります。珍しいお酒は取り寄せないと難しいでしょう。ですが可能です」
「そうなの。では食器の買い取りからお願いするわ」

こうして皿は無事に買い取ってもらえた。
そのお金だってお酒の代金で消えてしまうけど…。

とりあえずドーリッツ商会にあったお酒を買い、また買い取ってもらうことを約束し、珍しいお酒の取り寄せもお願いした。
まだ売る物はあるけど、こんなことをしていても長続きするはずがない。

破産で終わるか、離婚で終わるか、それとも…。

私はギャレー様が望むよう、好きにお酒を飲ませてあげる。
それがギャレー様の望みであり、私の希望なのだから。
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