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第7話

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マデリーナとはたまに会うこともあったけど、今回はいつもとは雰囲気が違う。
いつもの高級レストランの個室で、いつもと変わらない美味しい料理を前にしているというのに、マデリーナの表情は暗い。

「どうかしたの?」
「…スターグよ。まだ諦めきれていなかったみたい」
「そうだったの」

スターグは経済的に困窮しているはずだし、マデリーナに構うような暇はないはず。
それなのに諦めきれないというのだから、よほどの事があったに違いない。

「どうも支店の店員に私への伝言を頼もうとしたみたいなの。何考えてるのかわからないわ」
「不気味ね……」

まさか店員をそのように扱おうとしたことに驚かされた。
店員は使用人ではないのだから何でも好きに申しつけていいものではない。
ただの客でしかないスターグから伝言なんて言われた店員は災難だっただろう。
貴族が幅を利かせていた時代なんて過去の物になりつつあるというのに、スターグは時代の変化も理解できなければ常識もないのね。

「それでも諦めきれなかったみたいで、今度は店の前でずっと様子を窺っていたみたいなのよ?信じられる?」
「…信じられないわね」
「しかもほぼ毎日。暇なのね」
「……大変だったわね」

やはりスターグの諦めの悪さは普通ではなかった。
これだけ相手にされなくても諦めないということは、もっと明確に意思を伝えないといけないのかもしれない。
それで諦めるかはわからないけど、マデリーナも本当に大変だと思う。

「でも極めつけは商会で働きたいと言ってきたことよ」

信じられなかった。
そのような発想をすることに驚かされた。

「………本当なの?」
「ええ。支店から報告が上がってきたの。夫とも話し合って雇うことにしたけど」
「大丈夫なの?スターグなんて雇ったら何をするかわからないわよ?」
「大丈夫、心配しないで。辺境にある傘下の商会で働かせることにしたから。放っておくと何をするかわからないし、それなら目の届くところにいるほうがいいかなって思ったの」
「そうだったのね……。それで正解かもしれないわね」

確かに予想外の行動に出るかもしれないスターグなら、上手く餌を見せて問題を起こせない場所に隔離したほうがいい。
辺境にいればマデリーナにまで影響は及ばないだろうし、危害を加えるようなことは不可能。
何よりもマデリーナの夫が賛同しているのだから本当に問題はないのだろう。
マデリーナはスターグの行動に呆れてはいるけど脅えてはいない。
それだけ夫の判断を信じているのだろう。
………信頼できる夫婦関係が羨ましい。

「これで諦めてくれればいいけど、無理よね」
「同感だわ」

私たちは揃って溜め息をついた。

でも諦めないにせよ物理的に遠くにいるなら安心だろう。
こんなにも迷惑な愛なんて、マデリーナの夫が懸念するのも理解できるわ。
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