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第6話
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薬の流通に携わるためには別の領地に支店を作らなくてはならない。
薬の産地は限られているのだから、どこに支店を出せばいいのかは難しくない。
問題は誰が支店に移動するか。
「それで相談だけど、リリエル、僕と一緒に支店に行かないかい?」
一緒にということは私も行くということ。
薬の知識があるのだから私が行くのは当然。
でもレドリックが一緒だという可能性は失念していた。
レドリックの為人は十分に知っているし、信用できるし…嫌な相手ではない。
むしろ…好ましく思っていた。
でも仕事の関係だから線引きし、必要以上に親しくならないようにはしてきたつもり。
でもここは決断しなくてはならない場面。
人生が大きく変わるかもしれない瞬間。
不安ばかりに目が行くと幸せになるチャンスを逃してしまうかもしれない。
「わかりました。会頭にご挨拶にいきましょう」
「あ、ああ。そうだね」
会頭はレドリックのお父様なのだから一緒になるなら挨拶をしておかないといけない。
まさか商人の間では結婚するにしても親への挨拶は不要だとでもいうの?
それか才覚を認めさせられるだけの手土産でも必要なの?
レドリックの様子も何か変だし………。
「もしかして何か足りない?」
「たぶんだけど……嬉しい誤解があるように思えるんだ」
「嬉しい?何が誤解なの?」
レドリックは言い辛そうだし、余程のことなのかもしれない。
「僕はリリエルのことが好きだよ」
「私だって…レドリックのことが好きよ」
「リリエルの気持ちは嬉しいよ。そうだね、思い切って支店で一緒に暮らすのはどうだい?」
「それもいいわね。それで結婚のご挨拶はしなくていいの?」
「ははは…。夜にでも父に話しにいこう」
「わかったわ。手土産なんかは必要?」
「いや、特に何も無くて大丈夫」
何が誤解だったのかわからなかったけど…新生活を新居で始めるのもいいと思う。
居住スペース付きの物件を用意すれば別に家を借りる必要もないし、何かあればすぐに対処できるのもメリット。
商人にとって時間は大切だから。
新たな場所で新たな生活。
もう過去の日々は吹っ切ったけど、場所も変わればまた新たな私になれると思う。
レドリックと始める新たな日々。
こうして私は自分の力で自分が望んだ相手と結婚することができる。
望まない相手と婚約させられる立場なんて悲しいもの。
自分で自由に選べる幸せ。
お互いが好きという素敵な関係。
これほどまでに実家から追い出されたことを嬉しいと思ったことは無かった。
モルトルーズ殿下の婚約者にならなくて本当に良かった。
* * * * * * * * * *
その夜、レドリックのお父様に挨拶をしたら、驚きつつも祝福してくれた。
レドリックがいつになっても結婚しないから気になっていたようで、私との結婚を喜んでくれた。
新支店でレドリックと一緒に住むことも認めてくれた。
その場で私は真実に気付いてしまった。
「ただ支店へ移動してもらうつもりだったが良いきっかけになったようだな」
会頭の一言で私は察してしまった。
レドリックの一緒に行こうという言葉は一緒に支店に移動しようというものであって結婚の申し込みではなかった。
私は誤解していたことを理解し、恥ずかしさを全力で隠そうとしたけど無理だった。
その夜、思い出しては一人悶絶した。
それからも、たまに思い出しては悶絶した……。
でもレドリックと想いが通じ合っていたことは嬉しかった。
誤解というか早とちりで決まってしまったけど、結婚に後悔はない。
* * * * * * * * * *
あれから慌ただしく結婚式を挙げて新支店の準備もしたので忙しかった。
でもその甲斐もあってか新支店でレドリックとの暮らしが無事に始められた。
仕事も順調。
プライベートも順調。
こんなにも幸せな日々を過ごせるなんて思ってもみなかった。
薬の産地は限られているのだから、どこに支店を出せばいいのかは難しくない。
問題は誰が支店に移動するか。
「それで相談だけど、リリエル、僕と一緒に支店に行かないかい?」
一緒にということは私も行くということ。
薬の知識があるのだから私が行くのは当然。
でもレドリックが一緒だという可能性は失念していた。
レドリックの為人は十分に知っているし、信用できるし…嫌な相手ではない。
むしろ…好ましく思っていた。
でも仕事の関係だから線引きし、必要以上に親しくならないようにはしてきたつもり。
でもここは決断しなくてはならない場面。
人生が大きく変わるかもしれない瞬間。
不安ばかりに目が行くと幸せになるチャンスを逃してしまうかもしれない。
「わかりました。会頭にご挨拶にいきましょう」
「あ、ああ。そうだね」
会頭はレドリックのお父様なのだから一緒になるなら挨拶をしておかないといけない。
まさか商人の間では結婚するにしても親への挨拶は不要だとでもいうの?
それか才覚を認めさせられるだけの手土産でも必要なの?
レドリックの様子も何か変だし………。
「もしかして何か足りない?」
「たぶんだけど……嬉しい誤解があるように思えるんだ」
「嬉しい?何が誤解なの?」
レドリックは言い辛そうだし、余程のことなのかもしれない。
「僕はリリエルのことが好きだよ」
「私だって…レドリックのことが好きよ」
「リリエルの気持ちは嬉しいよ。そうだね、思い切って支店で一緒に暮らすのはどうだい?」
「それもいいわね。それで結婚のご挨拶はしなくていいの?」
「ははは…。夜にでも父に話しにいこう」
「わかったわ。手土産なんかは必要?」
「いや、特に何も無くて大丈夫」
何が誤解だったのかわからなかったけど…新生活を新居で始めるのもいいと思う。
居住スペース付きの物件を用意すれば別に家を借りる必要もないし、何かあればすぐに対処できるのもメリット。
商人にとって時間は大切だから。
新たな場所で新たな生活。
もう過去の日々は吹っ切ったけど、場所も変わればまた新たな私になれると思う。
レドリックと始める新たな日々。
こうして私は自分の力で自分が望んだ相手と結婚することができる。
望まない相手と婚約させられる立場なんて悲しいもの。
自分で自由に選べる幸せ。
お互いが好きという素敵な関係。
これほどまでに実家から追い出されたことを嬉しいと思ったことは無かった。
モルトルーズ殿下の婚約者にならなくて本当に良かった。
* * * * * * * * * *
その夜、レドリックのお父様に挨拶をしたら、驚きつつも祝福してくれた。
レドリックがいつになっても結婚しないから気になっていたようで、私との結婚を喜んでくれた。
新支店でレドリックと一緒に住むことも認めてくれた。
その場で私は真実に気付いてしまった。
「ただ支店へ移動してもらうつもりだったが良いきっかけになったようだな」
会頭の一言で私は察してしまった。
レドリックの一緒に行こうという言葉は一緒に支店に移動しようというものであって結婚の申し込みではなかった。
私は誤解していたことを理解し、恥ずかしさを全力で隠そうとしたけど無理だった。
その夜、思い出しては一人悶絶した。
それからも、たまに思い出しては悶絶した……。
でもレドリックと想いが通じ合っていたことは嬉しかった。
誤解というか早とちりで決まってしまったけど、結婚に後悔はない。
* * * * * * * * * *
あれから慌ただしく結婚式を挙げて新支店の準備もしたので忙しかった。
でもその甲斐もあってか新支店でレドリックとの暮らしが無事に始められた。
仕事も順調。
プライベートも順調。
こんなにも幸せな日々を過ごせるなんて思ってもみなかった。
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