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第4話
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私の新しい生活はハートレー商会というフォンテイン公爵家の御用商会で始まる。
もうフォンテイン公爵家の人間ではなくなった私だけど、お父様に頼まれたのだから私を悪く扱うことはないだろう。
いくら平民になったといっても、リスクを考えれば私に不当な扱いをするはずがない。
その程度のことすら理解できないような人なら御用商会にまで上り詰められるはずがないもの。
いつまでも宿暮らしできるほどのお金もないし、ハートレー商会で住み込みで働けるのは正直なところ助かった。
これからは自分の生活費は自分で稼がないといけないし、無駄なお金を使う余裕はないから。
* * * * * * * * * *
ハートレー商会での私の仕事は主に書類関係や帳簿関係だ。
計算は得意だし、書類関係も問題なくこなせている。
順調だし、これなら働き続けられるとも思えた。
「さすがフォンテイン公爵家の御令嬢だね。素晴らしい能力だ。計算の間違いなんて一つもないし、書類は誤字すら見つけてくれる。いやあ、こんなに優秀だと助かるよ」
「ありがとうございます。でも私はもうただのリリエルですから。フォンテイン公爵家から追い出された身なので普通に接してください」
「ははは、そうだね」
私の教育係でもあるレドリックはハートレー商会の会頭の一人息子。
人当たりも良いし頭も悪くないし顔だって悪くない。
それなのに仕事に夢中で恋人もなし。
慣れない生活に慣れない仕事と苦労している私を気にかけてくれる人だ。
親切にしてくれるのはお父様から頼まれたからかもしれないけど。
「リリエルのおかげで商売を拡大できるかもしれないな」
「お役に立てるなら私も嬉しいです。ちなみに商売は今の方向性で拡大していくのですか?」
「そこなんだよなぁ……」
レドリックは考え込んでしまった。
「既存の商売は他の商会も含めて既得権益で入り込む余地が少ないからな。もっともフォンテイン公爵家のおかげで今のハートレー商会もあるけど」
「それなら新しい分野でしょうか?難しそうですけど」
「リスクを負わないと成功はあり得ないか…」
レドリック様は再び考え込み、躊躇いがちに私に訊いてきた。
「頼ってしまうことが良いのか悪いのかはわからないけど、リリエルは何か得意なことや知識はある?」
「私ですか?」
確かに私は公爵令嬢として恥ずかしくないだけの教育を受けたのだから、知識はそれなりにある。
でもそれが商売の役に立つのかと問われると悩んでしまう。
そして思いついたのは毒と薬の知識。
毒殺を防ぐ一環として毒と薬の知識を覚えさせられたけど、そのせいで私がラライアに毒を盛ったと言われる隙を作ってしまったのかもしれない。
ある程度の身分なら毒と薬の知識はあって当然だけど、ラライアもモルトルーズ殿下もそういった知識には疎そう。
だから毒を理由に冤罪で断罪されたのだろうけど。
「あー、難しかったら忘れてもらって構わないから。これは本来僕や父が考えるべきことだからね」
「そんなこと言わないでください。私の居場所を作ってくれたことは感謝しています。その分の恩を返させてください」
「本当だな?なら、リリエルの知識を存分に活用させてもらうからな?」
「望むところですよ」
レドリックにも感謝しているしハートレー商会にも感謝している。
お父様はハートレー商会で能力を発揮しろと言ってくれたのだから私の知識を使うことは問題ないのだろう。
ハートレー商会が発展すればフォンテイン公爵家にも利益がある。
それなら私は堂々と知識を使えばいい。
その後、レドリックとああでもないこうでもないと商売の可能性について話し合った。
可能性とは想像力。
様々な可能性を考えてどうなるかを考え、レドリックと言葉を交わして是非を判断していく。
私は自分の能力を発揮できることが嬉しかったし、こういった経験は新鮮で楽しかった。
公爵令嬢や王子の婚約者として振る舞うことは窮屈だし、今の環境になって本当に良かったと思う。
これが私らしい生き方なのだと思った。
それに、レドリックとの出会いも本当に良かった。
貴族の令息とは違って親しみやすいし話していて楽しい。
仮にかつての生活に戻れるとしても私は戻らない。
今の生活のほうが何倍も充実しているから。
もうフォンテイン公爵家の人間ではなくなった私だけど、お父様に頼まれたのだから私を悪く扱うことはないだろう。
いくら平民になったといっても、リスクを考えれば私に不当な扱いをするはずがない。
その程度のことすら理解できないような人なら御用商会にまで上り詰められるはずがないもの。
いつまでも宿暮らしできるほどのお金もないし、ハートレー商会で住み込みで働けるのは正直なところ助かった。
これからは自分の生活費は自分で稼がないといけないし、無駄なお金を使う余裕はないから。
* * * * * * * * * *
ハートレー商会での私の仕事は主に書類関係や帳簿関係だ。
計算は得意だし、書類関係も問題なくこなせている。
順調だし、これなら働き続けられるとも思えた。
「さすがフォンテイン公爵家の御令嬢だね。素晴らしい能力だ。計算の間違いなんて一つもないし、書類は誤字すら見つけてくれる。いやあ、こんなに優秀だと助かるよ」
「ありがとうございます。でも私はもうただのリリエルですから。フォンテイン公爵家から追い出された身なので普通に接してください」
「ははは、そうだね」
私の教育係でもあるレドリックはハートレー商会の会頭の一人息子。
人当たりも良いし頭も悪くないし顔だって悪くない。
それなのに仕事に夢中で恋人もなし。
慣れない生活に慣れない仕事と苦労している私を気にかけてくれる人だ。
親切にしてくれるのはお父様から頼まれたからかもしれないけど。
「リリエルのおかげで商売を拡大できるかもしれないな」
「お役に立てるなら私も嬉しいです。ちなみに商売は今の方向性で拡大していくのですか?」
「そこなんだよなぁ……」
レドリックは考え込んでしまった。
「既存の商売は他の商会も含めて既得権益で入り込む余地が少ないからな。もっともフォンテイン公爵家のおかげで今のハートレー商会もあるけど」
「それなら新しい分野でしょうか?難しそうですけど」
「リスクを負わないと成功はあり得ないか…」
レドリック様は再び考え込み、躊躇いがちに私に訊いてきた。
「頼ってしまうことが良いのか悪いのかはわからないけど、リリエルは何か得意なことや知識はある?」
「私ですか?」
確かに私は公爵令嬢として恥ずかしくないだけの教育を受けたのだから、知識はそれなりにある。
でもそれが商売の役に立つのかと問われると悩んでしまう。
そして思いついたのは毒と薬の知識。
毒殺を防ぐ一環として毒と薬の知識を覚えさせられたけど、そのせいで私がラライアに毒を盛ったと言われる隙を作ってしまったのかもしれない。
ある程度の身分なら毒と薬の知識はあって当然だけど、ラライアもモルトルーズ殿下もそういった知識には疎そう。
だから毒を理由に冤罪で断罪されたのだろうけど。
「あー、難しかったら忘れてもらって構わないから。これは本来僕や父が考えるべきことだからね」
「そんなこと言わないでください。私の居場所を作ってくれたことは感謝しています。その分の恩を返させてください」
「本当だな?なら、リリエルの知識を存分に活用させてもらうからな?」
「望むところですよ」
レドリックにも感謝しているしハートレー商会にも感謝している。
お父様はハートレー商会で能力を発揮しろと言ってくれたのだから私の知識を使うことは問題ないのだろう。
ハートレー商会が発展すればフォンテイン公爵家にも利益がある。
それなら私は堂々と知識を使えばいい。
その後、レドリックとああでもないこうでもないと商売の可能性について話し合った。
可能性とは想像力。
様々な可能性を考えてどうなるかを考え、レドリックと言葉を交わして是非を判断していく。
私は自分の能力を発揮できることが嬉しかったし、こういった経験は新鮮で楽しかった。
公爵令嬢や王子の婚約者として振る舞うことは窮屈だし、今の環境になって本当に良かったと思う。
これが私らしい生き方なのだと思った。
それに、レドリックとの出会いも本当に良かった。
貴族の令息とは違って親しみやすいし話していて楽しい。
仮にかつての生活に戻れるとしても私は戻らない。
今の生活のほうが何倍も充実しているから。
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