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第2話
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私にはきっと何らかの処分が下される。
たとえ冤罪であろうともモルトルーズ殿下の言葉は重い。
あれでも一応王族なのだ。
自宅へ帰った私はお父様の帰りを待った。
きっとお父様にだってどうすることもできないだろう。
私はどのような処分を下されるのだろうか……。
* * * * * * * * * *
お父様を含めた家族一同が帰ってきた。
妹が見下すような視線を向けてきたけど無視した。
お母様は困惑しているようだったけど何もできないようだった。
お父様は私についてくるように言い、別室へ移動し、話し合いが始まった。
「このような事態になってしまい残念だ。リリエルが無実であることは私がよく知っている。だがモルトルーズ殿下が言い出してしまったので当家としても殿下の言い分を認めなくてはならない」
「そんな…。そのような横暴な振る舞いが許されるのですか!?」
「すまない、リリエル。王族の力は強大なのだ。フォンテイン公爵家であっても逆らうことはできぬ」
「………」
そのことは私だって理解している。
ある意味お父様だって被害者なのだ。
お父様に抗議したところでどうにもならないことは理解している。
悔しくても私は何も言えない。
でも、そもそもどうしてこのような事態になったのか。
ラライアが何かしたからこうなったのではないか?
あの視線は絶対に妹が関わっている。
その真偽を確認するくらいは許されるだろう。
「もしかして、ラライアが何かしましたか?」
「……恐らくは。そう考えなくてはモルトルーズ殿下があのようなことを言うとは思えん」
「ラライアには事情を訊かないのですか?」
「訊いたところで本当のことなんて言わないだろう。それにどう考えたってラライアが余計なことを言ったに決まっている。それを鵜呑みにするモルトルーズ殿下も問題だがな」
ラライアに訊けば自白しそうだけど、自白を得られたところでモルトルーズ殿下から受けた扱いが無かったことにはできない。
私の名誉は地に落ちたし、回復する見込みもない。
「そういえば、私とモルトルーズ殿下の婚約はどうなったのですか?」
「…正式発表前ということで、最初から無かったことにされた」
「そうでしたか……」
いっそのこと婚約破棄されたほうが良かったかもしれない。
私の無実が明らかになれば非難されるのはモルトルーズ殿下のほうになるのだから。
でも婚約は無かったことにされた。
私がラライアに毒を盛ったとモルトルーズ殿下に断罪されたということだけが事実となってしまった。
こうなった以上、私は今まで通りではいられないだろう。
お父様も言い難いだろうし、私から訊くことにする。
「私はどうなるのですか?」
「モルトルーズ殿下の不興を買った以上、このまま当家に留めることはできまい。申し訳ないが縁を切って追放するしかないだろう」
「そうですか………」
薄々こうなるような気がしていたけど、やはりこうなってしまった。
意外なことにショックは無かった。
縁を切られれば身分を失うけど、同時に自由を得られるのだ。
公爵令嬢として王家に振り回されることもなくなる身分。
でも王家の不興を買ったら処刑もあり得る身分。
…わざわざ私を処刑するためにモルトルーズ殿下が何かするとも思えないけど。
でもそんな恥ずかしいことをする可能性を否定できない愚かさがモルトルーズ殿下には備わっている。
しかもラライアがモルトルーズ殿下への影響力を持っているならリスクは高まってしまう。
「お父様、せめてこれ以上私に被害が及ばないよう、ラライアをどうにかしてください。そうしていただければ私は安心して出ていけます」
「努力はしよう。だがモルトルーズ殿下が出てくればそうもいくまい。何しろモルトルーズ殿下はラライアの保護を約束したからな」
まったくモルトルーズ殿下は余計なことばかりする。
ラライアの保護って何をするのだろう?
「家を出るといっても当ても無いのでは困るだろう。御用商会のハートレー商会で働けるよう手筈を整えておく。そこで力を発揮するといい。悪い扱いにはならんだろう」
「……ありがとうございます」
「今日明日にでも出ていけとは言わん。だがあまり時間はないぞ」
「承知しています。では今日にでも出ていきましょう。宿に泊まるのでハートレー商会との手筈が整ったら連絡をください」
「わかった。…このようなことになってしまいすまない」
「仕方ないことです」
確かに仕方ない部分もあるけど、お父様がもっと上手く立ち回っていればこうはならなかったはず。
ラライアがこう育ってしまった責任の一端はお父様にだってある。
頼りないお母様の態度もラライアを増長させただけ。
もうフォンテイン公爵家との縁も切れるのだから私は何も言わない。
言ったところで何かが変わる訳でもないし。
見苦しい姿を見せたところで自分で自分を許せなくなるだけだもの。
「では準備があるので失礼します」
「待った。もう関係ないとは思うが一応伝えておく。モルトルーズ殿下からの伝言で、リリエルは王城への出入りを禁止するとのことだ」
「わかりました」
本当にどうでもいい処分だ。
これもモルトルーズ殿下なりの私への嫌がらせなのだろう。
頼まれても王城になんか出入りしないわ。
たとえ冤罪であろうともモルトルーズ殿下の言葉は重い。
あれでも一応王族なのだ。
自宅へ帰った私はお父様の帰りを待った。
きっとお父様にだってどうすることもできないだろう。
私はどのような処分を下されるのだろうか……。
* * * * * * * * * *
お父様を含めた家族一同が帰ってきた。
妹が見下すような視線を向けてきたけど無視した。
お母様は困惑しているようだったけど何もできないようだった。
お父様は私についてくるように言い、別室へ移動し、話し合いが始まった。
「このような事態になってしまい残念だ。リリエルが無実であることは私がよく知っている。だがモルトルーズ殿下が言い出してしまったので当家としても殿下の言い分を認めなくてはならない」
「そんな…。そのような横暴な振る舞いが許されるのですか!?」
「すまない、リリエル。王族の力は強大なのだ。フォンテイン公爵家であっても逆らうことはできぬ」
「………」
そのことは私だって理解している。
ある意味お父様だって被害者なのだ。
お父様に抗議したところでどうにもならないことは理解している。
悔しくても私は何も言えない。
でも、そもそもどうしてこのような事態になったのか。
ラライアが何かしたからこうなったのではないか?
あの視線は絶対に妹が関わっている。
その真偽を確認するくらいは許されるだろう。
「もしかして、ラライアが何かしましたか?」
「……恐らくは。そう考えなくてはモルトルーズ殿下があのようなことを言うとは思えん」
「ラライアには事情を訊かないのですか?」
「訊いたところで本当のことなんて言わないだろう。それにどう考えたってラライアが余計なことを言ったに決まっている。それを鵜呑みにするモルトルーズ殿下も問題だがな」
ラライアに訊けば自白しそうだけど、自白を得られたところでモルトルーズ殿下から受けた扱いが無かったことにはできない。
私の名誉は地に落ちたし、回復する見込みもない。
「そういえば、私とモルトルーズ殿下の婚約はどうなったのですか?」
「…正式発表前ということで、最初から無かったことにされた」
「そうでしたか……」
いっそのこと婚約破棄されたほうが良かったかもしれない。
私の無実が明らかになれば非難されるのはモルトルーズ殿下のほうになるのだから。
でも婚約は無かったことにされた。
私がラライアに毒を盛ったとモルトルーズ殿下に断罪されたということだけが事実となってしまった。
こうなった以上、私は今まで通りではいられないだろう。
お父様も言い難いだろうし、私から訊くことにする。
「私はどうなるのですか?」
「モルトルーズ殿下の不興を買った以上、このまま当家に留めることはできまい。申し訳ないが縁を切って追放するしかないだろう」
「そうですか………」
薄々こうなるような気がしていたけど、やはりこうなってしまった。
意外なことにショックは無かった。
縁を切られれば身分を失うけど、同時に自由を得られるのだ。
公爵令嬢として王家に振り回されることもなくなる身分。
でも王家の不興を買ったら処刑もあり得る身分。
…わざわざ私を処刑するためにモルトルーズ殿下が何かするとも思えないけど。
でもそんな恥ずかしいことをする可能性を否定できない愚かさがモルトルーズ殿下には備わっている。
しかもラライアがモルトルーズ殿下への影響力を持っているならリスクは高まってしまう。
「お父様、せめてこれ以上私に被害が及ばないよう、ラライアをどうにかしてください。そうしていただければ私は安心して出ていけます」
「努力はしよう。だがモルトルーズ殿下が出てくればそうもいくまい。何しろモルトルーズ殿下はラライアの保護を約束したからな」
まったくモルトルーズ殿下は余計なことばかりする。
ラライアの保護って何をするのだろう?
「家を出るといっても当ても無いのでは困るだろう。御用商会のハートレー商会で働けるよう手筈を整えておく。そこで力を発揮するといい。悪い扱いにはならんだろう」
「……ありがとうございます」
「今日明日にでも出ていけとは言わん。だがあまり時間はないぞ」
「承知しています。では今日にでも出ていきましょう。宿に泊まるのでハートレー商会との手筈が整ったら連絡をください」
「わかった。…このようなことになってしまいすまない」
「仕方ないことです」
確かに仕方ない部分もあるけど、お父様がもっと上手く立ち回っていればこうはならなかったはず。
ラライアがこう育ってしまった責任の一端はお父様にだってある。
頼りないお母様の態度もラライアを増長させただけ。
もうフォンテイン公爵家との縁も切れるのだから私は何も言わない。
言ったところで何かが変わる訳でもないし。
見苦しい姿を見せたところで自分で自分を許せなくなるだけだもの。
「では準備があるので失礼します」
「待った。もう関係ないとは思うが一応伝えておく。モルトルーズ殿下からの伝言で、リリエルは王城への出入りを禁止するとのことだ」
「わかりました」
本当にどうでもいい処分だ。
これもモルトルーズ殿下なりの私への嫌がらせなのだろう。
頼まれても王城になんか出入りしないわ。
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